野菜家畜泥棒
「俺はアッシュってんだ。よろしくな」
「僕はあ、あ〜……デイヴだ。よろしく」
依頼主の村までは徒歩での移動となり、目的地に着く頃には夕暮れから日没頃になるだろう。
それまでの間にフィーナ達はお互いに自己紹介と軽い世間話をしながら、目的地までの旅路を歩んでいた。
アルフレッド王子と会話を交わしているのは茶髪の剣士アッシュである。平均的な背丈であり、武器も取り回し安いブロードソード。言ってはアレだが、完璧なモブキャラ感ある剣士だ。
「わぁ〜、私精霊なんて初めて見た〜! 可愛い〜!」
フィーナの肩に留まっているサラマンダーに興味津々なのは弓兵のユリィである。
彼女はピンク色の長い髪をポニーテールの様に後ろで纏めている。
「あぎゃ!」
弓兵のユリィから可愛いと褒められたサラマンダーは満更でもないようで、飼い主であるフィーナ共々照れていた。
「君達は魔法学院の生徒達なのか。しかし、冒険者ギルドに来てるなんて珍しいな」
こう話すのは槍使いの少年である。比較的大柄な彼はアッシュと同じ茶色の短髪をしている。彼等パーティーでは最前線での盾役をしている様だ。
「まぁ、魔法に関してなら俺らに任せときな。ゴブリンなんか蹴散らしてやるからよ」
最後尾のシュレイザが手元に小さい炎を出したり消したりしながら得意気に語る。
「あの人は……引率の先生なのか? 一人だけオジサンじゃね?」
アッシュがアルフレッド王子に率直な感想を漏らす。普段から年齢差のある環境に身を置いているせいか年上の見分けには敏感なのかもしれない。
「あの人は永遠の十七歳だから気にしなくていいよ〜?」
アルフレッド王子とアッシュの会話にアリアが割り込んできた。
「お前ってユリィの友達だったんだな。魔法適性が高いから魔法学院に進学したって聞いたが……」
アリアを見るアッシュの目は若干疑いに満ちている。彼等はフィーナ達とは正反対な戦士編重パーティーである。
当然ながら、複数のゴブリンが相手であれば魔法の方が白兵戦より効率が良い。
だから魔術師だらけのフィーナ達が加わってくれたのは歓迎すべき事柄なのだが……彼のイメージしていた魔術師とアリアの言動がかけ離れているのだろう。
「とにかく、村の警備仕事なんだから心配は何も要らない。ユリィと一緒に見物してくれてても良いくらいだぜ」
総勢八名の冒険者パーティーは中々の大所帯となっている。一つのパーティーで手に余る仕事であるならこういった人数での仕事も珍しくは無い。
しかし、夜間警備でこの人数は過剰である。人数が多ければ安心なのは当然だが、依頼料が人数に応じて上がる訳では無い。
元々の依頼料が少なければそれだけ一人の取り分が減ってしまう。今回のフィーナ達はボランティア感覚だから金銭面については問題にならないが……
「手伝ってくれるのはありがたいが遊びじゃねぇんだからな! 気を抜くんじゃねぇぞ!」
平民出で毎日の生活が掛かっているアッシュからはフィーナ達はお貴族様の道楽としか見えていなかった。
そんな彼等の目の前に目的の村が見えてきた。牧草地が辺りに広がる見通しの良い村だ。
四方八方開けているので襲撃には弱いだろうが、高所に陣取れば広範囲が見渡せる。
村には物見櫓もある為、敵の接近の察知は容易そうだ。多少なりとも月明かりがあれば楽になるのだろうが……。
「おう、来た来た! 冒険者ギルドからの冒険者だ」
フィーナ達の姿に気付いたらしい村人がこちらを見るなり村の中へ駆けていってしまった。
「なんだ、あれ?」
村人の意図が分からないのか、アッシュは首を傾げている。
「責任者でも呼びに行ったんだろうから、この辺で待ってりゃ良いさ」
シュレイザの一言で一行は村の入り口で待機する事にした。
皆が落ち着かない様子で村人を待つ間、アルフレッド王子とシュレイザは村の様子を眺めていた。
「単純な警備任務で終われば良いんだかな」
「群れでゴブリンが襲ってくるのは下調べを終わらせてからだ。あいつらは闇雲には群れて襲撃しない」
二人で今日の夜間警備について話し合っていた。アルフレッド王子は文武両道を地で行くイケメンだけあってゴブリンの習性にも知見がある様だ。
(…………)
そんな二人をやや離れた場所から眺めていたフィーナは今日の仕事に一抹の不安を感じていた。
(物見櫓から見張りと援護が妥当かな……?)
自分が夜間警備において出来る事を考えてみるが……弓矢のアドバンテージを活かすなら高所からの狙撃と見張りが妥当だろう。
弓兵のユリィはどうするのだろう?と、ふとフィーナは考える。単純に考えれば二人で陣取れば火力も二倍、広域を見張るにしても目が二つで見張るより四つの目で見張った方がより広範囲を警戒出来る。
また、見落としの可能性を格段に減らす事が出来る。
「おや、こんなに冒険者が来るとは……。報酬は銀貨六枚ですぞ?」
村の中からやってきた老人がフィーナ達の人数を見て驚きの声を上げた。
「いや、報酬については気にしなくていい。それよりゴブリン達について聞かせてもらいたい」
やってきた老人にはアルフレッド王子が対応する。今夜の仕事の為に少しでも早く情報が欲しい様だ。
「そうですか。それではこちらへ……」
フィーナ達は老人の案内により村の中へと通されるのだった。




