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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
第八章 貴族令嬢編
655/821

世間体

「あの、このお手紙……私の下駄箱に入れてあったのですけど……ま、間違いですよね?」

 パトリシアが遠慮がちに一枚の手紙を取り出した。

「そ、それは……!」

 その手紙はアルフレッド王子が思いの丈を綴ってフィーナに宛てて認めた手紙だった。確かにフィーナの下駄箱に入れたと思ったのだが……

「これ、私の下駄箱に入っていたんですけど……間違いですよね?」

 パトリシアの問いにアルフレッド王子の頭がフル回転し始める。

(待て待て待て! あの手紙は確かにフィーナの下駄箱に入れたはず。それなのに彼女がここに居ると言う事は……?)

 どんな仮定を組み立てても手紙の入れ間違えという結論にしか至らなかった。しかし

「ごめんごめん。入れ間違っちゃったみたいだ」

 と、簡単に言えない事情がアルフレッド王子にはある。容姿端麗、文武両道、質実剛健を是としている第一王子が恋文を他人の下田箱に入れ間違えるなんてダサい真似認める訳にはいかないのだ。

 万が一にも弟であるアレスに知られてしまえば兄としての威厳は地に落ちてしまうし沽券に関わる。また、どんな煽られ方で馬鹿にされるか分かったものでは無い。

「いやいや、間違いなんかじゃないよ。僕は君に頼みがあってここに来て貰ったんだ」

 完璧な第一王子という世間体を維持する為、アルフレッド王子は話を取り繕う。そんな彼の様子を不審に思う事など無く

「頼み……ですか? 私に出来る事でしたら」

 パトリシアは全く疑わずアルフレッド王子の次の言葉を待つ。

「君にはフィーナが世話になっている。君をフィーナの友人と見込んで尋ねたい事がある」

 自分がフィーナと婚約している事は公然の秘密である。この状況で話を取り繕うにはフィーナを使うしか無い。

「フィーナが喜びそうな贈り物って何か心当たりはあるかな? ほら、もうじき降誕祭じゃないか」

 王子の話からするとこの異世界にもクリスマスに相当する祝日があるらしい。

 アルフレッド王子はパトリシアに近付き彼女の両肩に手を置くと

「君だけが頼りなんだ。どうかフィーナの欲しい物を聞き出して僕に教えて欲しい」

 アルフレッド王子の様なイケメンに距離を詰められ懇願されてしまえば

「わ、わかりました。それとなく聞いてみますね。そ、それじゃ、私はこれで……」

 パトリシアはほんのり頬を染めながら応えるのがやっとだった。イケメンのオーラに当てられてしまったパトリシアには、平静を保ちながらその場から立ち去るのが精一杯だった。

(な、なんとか大丈夫だったな)

 一方、こちらも内心ドキドキしていたアルフレッド王子も破綻無くパトリシアとやり取り出来た事、自らの世間体を守れた事に安堵していた。

 アルフレッド王子とパトリシアのやり取りは二人だけの秘密とはならなかった。訓練場の陰から二人に気付かれないように様子を伺っていた者達が居たからである。



「どうだい、フィーナさん? 兄貴はあんな奴なんだよ。女の子と見れば婚約者の友人だろうと声を掛ける。困った奴なのさ」

 アルフレッド王子とパトリシアが去っていった場所を見ながら第二王子のアレスがわざとらしく困った様子で肩を竦めながらフィーナに語りかける。

 アレスの案内で連れられてきて一部始終を見ていたフィーナは慌てるでも怒るでもなく終始無言だった。

「あの……私にこれを見せてどうしろと?」

 しばらく何かを考えていたのかフィーナが重い口を開いた。しかし、その反応はアレスの予想を下回っていた。

「え? 婚約者の裏切りだよ? 腹が立たないのかい?」

 下駄箱へのフィーナへの手紙をパトリシアの下駄箱に移したのも手際よくフィーナをここへ連れてきたのも他ならぬアレスである。

 修羅場を期待していた彼にとってフィーナの淡白な反応はあまりに予想外過ぎた。

「……お二人がここで会ったのには事情があるのでしょう。私にはお二人の交友に口を挟む立場にはありません」

 フィーナはそう言うと、アレスにお辞儀をしてその場から立ち去ろうとする。


ーグッ!ー


「ちょ、待てよ! 二人は抱き合ってたんだぞ! それにその後の雰囲気だって……」

 アレスは立ち去ろうとするフィーナの腕を掴んで引き留める。しかし

「私の目にはパトリシアさんは困惑されている様に見えました。デイヴはともかくパトリシアさんに疚しいところは無いかと……。私はこれで失礼します」

 実のところアレスにはアルフレッド達のやり取りは聞こえていなかったが、フィーナは長いエルフ耳のお陰か彼らのやり取りは丸聞こえであった。だから、アレスがどう食い下がろうが修羅場となる可能性は零なのである。

 フィーナはアレスの腕を振り解くと、特に何を気にする事も無く立ち去っていった。



「くそっ! 何なんだよ! あんなの目にすれば冷静で居られるはずが無いのに!」

 訓練場の裏手に一人残されたアレスは自らの思惑が外れた事に荒れていた。


ーバキッ!ー


「はぁ……はぁ……」

 アレスはたまたま目に付いた資材を八つ当たり気味に蹴り飛ばし自身を落ち着かせる。

「諦めないぞ……フィーナは絶対に僕のモノにしてやるからな!」

 アレスは一人自身の思い通りに出来なかった悔しさに打ち震えながら、内に秘めた野望達成を自らに誓うのだった。

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