表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
第八章 貴族令嬢編
643/821

取り引き

「これを手伝えばお前には貸し一つになるが……いいのか?」

 ふいにトラキュア子爵は何かを思い付いたらしく、フィーナに取引めいた話を持ち掛けてきた。

「わ、私に出来る事なら……」

 お嬢様育ちで人の悪意に対する免疫があまり無いフィーナはすんなりと了承してしまった。トラキュア子爵が根っからの悪人であったら命取りにもなりかねない返答だが………

「分かった。我も全力を尽くさせてもらう」

 トラキュア子爵は素敵な笑みを浮かべると難敵に向かって突撃を開始した。台詞だけなら様になる絵面だが、彼らの今の敵は山の様なデニッシュ生地のパンである。

 コウモリ姿のトラキュア子爵がデニッシュパンにかじりついたその時

「あ〜、お客様! ペットの飲食はご遠慮頂いております! あ〜困ります〜! あぁぁ〜!」

 慌てた様子で店員がフィーナ達のテーブルに駆け寄ってきた。

「あ、あの……この子、一応使い魔でして……」

 食べ過ぎでお腹の許容範囲を超えているパトリシアが息も絶え絶えになりながら子爵がペットでは無い事を主張するが

「あ、衛生的な問題でして。それに他のお客様のご迷惑にもなります。どうかご理解下さい」

 店員側も譲るつもりは無いらしい。すっかり害獣扱いのトラキュア子爵は

「この姿ではダメか。ならばこれでどうだ?」


ーキュイイイィー


 トラキュア子爵は光り輝くと姿が明らかに害獣から変わり始めた。サイズこそ変わらないが小人の様なサイズの黒い貴族の扮装をしたコウモリ獣人の姿を披露した。

「我は由緒正しきルドルフ・グランヴァニア・トラキュア子爵であるぞ。平民、我をペット呼ばわりとは言い度胸ではないか」

 姿を変更したトラキュア子爵は高貴な貴族な所作をしてみせた。明らかに高慢で鼻に付く嫌な貴族の典型である。杖を手に店員を差しながら自己主張をするトラキュア子爵の姿にフィーナ達は周りの注目を集めてしまっていた。通常の亜人なら喫茶店内にも普通にお客として来店しているが小人なコウモリの獣人などは中々居ない。

「あの、これで大丈夫ですか?」

 フィーナが恐る恐る店員に尋ねてみる。今のトラキュア子爵は確かに人の姿はしているし獣人であればお客さんのカテゴリーに含まれても支障は無い。

「まぁ……そうですね。獣人の姿のままでしたら……」

 言質は取れた。これで心置きなくスイーツの制覇に入る事が出来る。

「それでは今、取り分けますのでお願いします」

 フィーナがテキパキとトラキュア子爵の前の小皿にデニッシュパンを山の様に切り分ける。彼女の手際が良いのは記憶こそ無いとは言え、長年のメイド仕事で魂に刻まれた経験が成せる技だからだろう。

「ほう、中々やるではないか。お前ならどの貴族の屋敷でもメイドとして働いていけよう」

 そんな事を言いながらトラキュア子爵はデニッシュパンの片付けに取り掛かる。始めのうちは好ペースそのものであり見る間に皿が空いていく。そこへ

「次、どうぞ!」

 皿が空いたと見るやフィーナがすぐさまデニッシュパンを切り分けて山の様に積み上げる。そのルーチンも二回三回と続くと流石に

「わんこそばか! すぐに補充するの止めろ!」

 異世界にわんこそばの風習があるのかは定かではないが、乙女ゲー準拠の異世界だけに何があろうと不思議は無い。トラキュア子爵からのクレームにもめげずフィーナは彼の皿にパンを積む。食べては盛られ食べては盛られを繰り返しフィーナの手が止まった頃

「ぐふっ……、我の勝ちだ」


ーバタンー


 口元に笑みを浮かべたトラキュア子爵はその場に仰向けに倒れた。山と残っていたデニッシュパンは綺麗に消え去っている。見事に漢を見せた彼のお腹は大きく膨れ上がっていた。



「今日は本当にお疲れさまでした」

 喫茶店からの帰り道、完全にダウンしている小さいオジサン獣人であるトラキュア子爵を抱えながら挨拶するパトリシアの顔にも疲れが見える。

「あのお店は気を付けようね。量が多過ぎだよ〜」

 同じく疲れ切った様子のアリアが今日の反省点を口にする。今日の予定は実力テスト対策の作戦会議だったはずがいつの間にか過酷なフードファイトになってしまっていた。

「次に行く時はメニューの内容を店員さんにしっかり確認しましょうね」

 フィーナが今日の問題点の反省を踏まえて次の機会への心構えを語る。ここは異世界だけにメニューに写真などは掲載されていない。文章から料理を察するしか無い以上、分からないことがあれば横着せずに店員に尋ねるより方法は無い。

 勢いで注文する事の危険性を嫌と言うほど味わう羽目になってしまった三人組を西に大きく傾いた夕日が照らし長い影を形作っていた。

「フィーナお嬢様、本日は奥様が腕によりをかけたスイーツを用意しておられますよ?」

 パトリシア達と別れ馬車で自宅へ向かう車内で、フィーナは侍女のノルンから自分の母親による嫌がらせ行為についての話を聞いていた。

 何を思ったのか、いきなりスイーツを作ると言い出し、それこそ今日のついさっきまでフィーナ達が相手にしていたデニッシュパンのチョコがけスイーツを山の様に作り上げ、他のメイド達と共にフィーナの帰りを手ぐすね引いて待っているというのだ。

「うぇ……」

 話で聞いているだけで何かがこみ上げてきたフィーナは実の母親の嫌がらせとも言える暴挙に今回ばかりは辟易していた。

 その日、フィーナは体調不良と言う体で、全てを察したノルンに匿われる様に自室に引っ込んでしまったのは言うまでも無い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ