異世界も人間の集まり
「ど、どうしたんですか!」
フィーナが慌てて保健室から飛び出すと、そこに居たのは廊下にへたり込んでいるパトリシアと廊下の遥か先を駆けているタチアナの取り巻きの二人の姿があった。
咄嗟にパトリシアの肩を確認するがトラキュア子爵の姿は無い。
「た、助けてくれぇ〜! 神よ! 全知全能なる容姿端麗性格も控えめな女神よぉぉぉぉぉ! シニタクナーイ!」
ーピーピーピーピーピー!ー
駆けて行く取り巻き二人からトラキュア子爵の絶叫と無情な規則正しい機械音が響いてくる。
「パトリシアさん、立って! 急いで追いかけるんです!」
フィーナはパトリシアに声を掛けると自らも取り巻き二人に追いつくべく廊下を駆け出していた。
ラグビーボールの様にトラキュア子爵を小脇に抱えている女生徒の足は速くなく比較的簡単に追いつく事が出来た。
「そのコウモリさんは返して貰いますよ」
フィーナがトラキュア子爵に手を伸ばしたその時
「へ〜い、パ〜ス!」
女生徒はトラキュア子爵を窓から外に向けて放り投げた。
「へ〜い、オッケー」
そこには別の取り巻きの女生徒達が控えており、トラキュア子爵を受け取るなり反対方向に駆け出した。
ーピピピピピ……ー
トラキュア子爵のチョーカーから聞こえてくる電子音の感覚が短くなっている。このままでは間もなく……
「ヤメロー! シニタクナーイ!」
トラキュア子爵は手足をジタバタさせるばかりで逃げ出すのは無理な様だ。窓から下を見下ろしたフィーナは追跡を諦めざるを得なかった。
「サラマンダーさん! 追いかけて下さい!」
フィーナがサラマンダーに指示すると、サラマンダーは彼女の肩から飛び出し取り巻きの一人を追いかけ始めた。フィーナ自身は周囲を見回して階下に降りる方法を探すがすぐに追いかけられそうな位置には無い。
「えいっ!」
ーバッ!ー
フィーナはトラキュア子爵を救うために窓から飛び降りた。二階から飛び降りたら普通は大怪我は免れないが
ービュオオオオッ!ー
フィーナは飛び降りながら風魔法を応用して上昇気流を生成し落下の衝撃を和らげ
ータッ!ー
制服のスカートを抑えながら地面に降り立ったフィーナは改めて取り巻きを追いかけ始めた。
(あの人達、一体何を考えて……?)
トラキュア子爵を追いながらフィーナはタチアナ達の真意を考えたが、彼女達が何を考えているのかはさっぱり分からなかった。
先を行くタチアナの取り巻きの一人は脚が速いわけでも無いのでフィーナはあっさり追い付く事が出来た。
「そのコウモリさん、返して下さい!」
少々息を切らせながら追いついたフィーナに対し、取り巻きの女生徒はゼーハーゼーハーと荒い呼吸を繰り返していた。少々太めのその女生徒に徒競走は過酷であった様だ。
「フッフッフ、残念だったわね! すり替えておいたのよ!」
振り返った女生徒が手にしていたのはラグビーボールの様な何かでありそこにトラキュア子爵の姿は無かった。その時
「オホホホホ! これでこの使い魔は私のモノよ!」
校舎の二階、先程フィーナが飛び降りた窓のところにトラキュア子爵を抱えて勝ち誇っているタチアナの姿があった。どうやら、フィーナをおびき寄せて引き離すのが彼女達の目的であったらしい。
「くっ!」
フィーナは急いでタチアナの所へ向かおうとしたが
ーギュッー
「きゃっ!」
何かが足に巻き付いており、一歩も歩く事が出来なくなっていた。自身の足元を見ると地面から土の触手の様なモノが伸びて絡み付いてきている。
「あ、アースバインド……?」
これは土属性魔法の初歩、対象の動きを妨げるアースバインドだった。これを唱えたのはそこの取り巻きの一人ですぐそこに居る太めの女生徒だろう。
ーガシッ!ー
フィーナはいきなり肩を掴まれ無理やり引っ張られた。
「わっ!」
ードサッ!ー
「うぐっ!」
足が拘束されているフィーナはバランスを崩し尻もちを付かされてしまった。
「アンタ達、そいつの事任せたわよ!」
タチアナはそれだけ言うとどこかへ行ってしまった。同時に
「アンタは前から気に入らなかったのよ!」
ードガッ!ー
「うっ!」
地面に尻もちをついて動けずに居るフィーナに容赦無く女生徒から蹴りが浴びせられた。反射的に腕で防ぐが蹴りの勢いで地面に倒されてしまった。
ードガッ!ガッ!ー
「うっ! ぐうっ!」
地面に倒されたフィーナに容赦無く蹴りによる追撃が立て続けに加えられた。そこへ
「良いザマじゃない、成り上がりのお嬢様ぁ〜?」
新たな取り巻きが数人現れてフィーナへのリンチに加わってきた。アースバインドによる拘束は解けておらず立ち上がる事も出来ないフィーナはタチアナの取り巻き達にされるがまま、執拗に甚振られるしかなかった。
「地面に這いつくばる気分はどう?」
「特待生なんて身分、アンタには似合わないのよ!」
「いっつもお澄ましして、良い子ちゃん振って気に入らないのよ!」
ードガッ!ガッ!ガッ!ー
「あぅ! ぐっ!」
自由の利く両腕で顔と身体は辛うじて守っているものの彼女の細腕ではあまり防御力は期待出来ない。
「これでトドメよ!」
アースバインドを唱えた太めの少女がサッカーボールを蹴るかの様に片足を後ろに大きく振り上げたその時




