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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
第八章 貴族令嬢編
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一年目の夏季休暇

「それでは、本日で前期の教育課程を修了とする。長い休暇となるが当学院の生徒という自覚を忘れずに自覚と節度を……」

 講堂に集められた在校生は明日からの夏休みを前に魔法学院の校長先生から有り難い訓示を拝聴していた。十五分もの長きに渡った校長先生のお話は数名の貧血者を出した程度で事なきを得たのである。

「フィーナさんは夏休みはどう過ごされるの?」

 全校集会を終えて、教室に戻る廊下にてパトリシアがフィーナに声を掛けてきた。

「いつも通り……特に変化はありません」

 この異世界の王都で暮らす貴族達は、夏場になると避暑地の別荘や自分達の領地へ出かけたりするのが一般的である。もちろん異世界なので遠隔地にバカンスに行ったりとかは現実的では無い。この世界に翼竜は居ても旅客機は無いのだ。

 おまけに遠距離の移動は馬車に頼らざるを得ない以上、暑い時期のお馬さんへの負担は無視出来ないものがある。

「もし良かったらなんだけど……家にいらっしゃらないかしら? 家の方涼しいから過ごしやすいと思うの」

 パトリシアから自宅ご招待のお誘いである。フィーナからすればアルフレッド王子を除けば殆ど初めての友人からのお誘いとなる。また、王都以外幼少の頃に過ごしていた領地と王都以外は未知の世界なので当然見てみたい気持ちはある。

 しかし、パトリシアが寮生活を余儀なくされてしまう位には離れた場所である事は明らかな為、二つ返事で了承してしまう訳にもいかない。かと言って、電話の様な通信手段も無い異世界でこれから離れ離れになるパトリシアに返事をする方法となると……

「ありがとうございます。今は確実な事は何も言えないのですが、お伺いする前にはお手紙を出しますね」

 この異世界には電話こそ無いが、手紙という手段は確立されている。郵便局こそ無いものの冒険者ギルドの冒険者が郵便物の輸送を請け負う訳である。

 街から街への冒険者ギルド間の輸送を担う者、冒険者ギルドから配達先までの郵送を担う者、それらが分業で行う為、手紙一枚の輸送と言えど割高となってしまうのは致し方ない話となる。

 また、貴族家であれば使用人に冒険者ギルドに郵便物を取りに行かせる事も可能である。しかし、手紙は貴族と相手方の情報の塊でありリスクも生じやすい。その時は仕事の難度を上げる=報酬を上げて上級冒険者しか請けられない仕事とする以外には無い。

「ありがとう。お手紙待ってますね」

 フィーナが自分の誘いを受けてくれた事にパトリシアは安堵した様子を見せた。賑やかな教室で二人がそんな会話をしていると

「あ〜ら? クラスの底辺同士が楽しそうだこと」

 タチアナが取り巻き達を連れてニヤニヤしながら近付いてきた。タチアナが言う底辺とは成績云々では無く、単なるクラス内カーストによる位置付けの話である。実際、フィーナとパトリシアには他に話し相手はアリア位しかおらず、残りのクラスメイト達はタチアナを頂点にしたカーストに属していた。

 性格的に積極的に友人を作ろうとしないフィーナと引っ込み思案なパトリシアがクラス内で孤立してしまうのは自明の理であり、何よりフィーナに対し妬みを抱いているタチアナが彼女が孤立する様に立ち回っていたのだからこうなるのは時間の問題であった。

「た、タチアナさん、何かご用?」

 警戒心МAXなパトリシアが少し緊張しながらタチアナ達に尋ねる。正史では立場が全く逆だったのだが随分とシナリオが変わってきている。

「別に。大した理由じゃ無いわよ。あなた達、僻地のウェル地方へ行くんでしょう? パトリシアさんの領地そこでしたものねぇ?」

 クスクスと下卑た笑いを崩さないままタチアナは言葉を続ける。

それに釣られる様に取り巻き達もヒソヒソとパトリシアとフィーナの二人を蔑みながら何かを話している。

「あんな治安の悪いところに行くなんて王子様の婚約者としてどうなのかしらねぇ」

 タチアナの言うパトリシアのウェル地方とは王国の南西部にある地方の一つで古来より魔物が出やすい地域として有名な地域でありプロムナード王国が進出を進めている地域の外苑に当たる。

 そこより王国に近い地域を発展させている為、ウェル地方はそれらを守るための防波堤の役割しか期待されていない他国との緩衝地域の様なものである。土地も痩せていて資源採取の見込みも無く住民も集まらない僻地でしかなかった。

「お、お父様はその領地を少しでも暮らしやすくするために心を砕いておられます! 今は駄目でもいつかきっと……」

 パトリシアは左遷気味に僻地の領地経営を充てがわれた父親の背中をしっかり見ている様だ。

「そう、まぁ精々気を付ける事ね。僻地なんて何が起きるか分からないから」

 タチアナはそう言うと取り巻き達を連れてどこかへと行ってしまった。

「あの、気にする事ありませんよ。パトリシアさんのお父様の尽力で王国の安全は成り立っているんですから」

 タチアナ達に見下され悔しさに唇を噛みしめるパトリシアにフィーナは言葉を選んで語り掛ける。

「ご、ごめんなさい。フィーナさんにもご迷惑掛けてしまって……」

 少し湿っぽくなってしまった二人の元に

「二人で何してるの〜? 内緒話?」

 いつも元気なアリアがやってきた。彼女は本来乙女ゲーの主役ポジションであり、無個性で目立たないキャラクターでありながら、多数のイケメンに見初められる位置付けの人物である。その為、プレイヤーが自己投影しやすい様に自己主張は激しくないキャラクターであるはずなのだが……

「なんだぁ〜? 元気が無いなぁ。明日から夏休みなんだから気張っていこ〜!」

 三上梅子の魂が融合しているからか、無思慮と能天気さがアリアの人格にプラスされた様だ。此の位なら十分許容範囲ではあるのだろうが……あの宇宙人が蘇ったら間違いなくアリアにも不幸だろう。

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