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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
第一章 アルフレッド編
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冒険者達

 シトリーと冒険者達のいざこざの件から一夜明けた。ニワトリと躍る女神亭の朝はいつも通りだった。

 宿泊客にモーニングセットを用意し常連客相手の接客をする。アルフレッドとリーシャの二人はすでに登校した後だ。

 一階のホールに居るのはミレット含めた白銀の群狼の面々と昨日の騒ぎの新人冒険者一行、他数組の冒険者パーティーと常連客だけだ。

 昨日の夜フィーナ達の部屋に泊まったミレットに、新人冒険者達にゴブリン四十匹の相手なんて対処出来るのか聞いてみたところ、まず無理との返答が返ってきた。

 また、ベッドをミレットに明け渡したフィーナがソファーで寝ようとしたところ、ミレットにアルフレッドのベッドでの添い寝を提案されてしまうという珍事もあった。

 なんとか断わったものの、今度はアルフレッドが自分のベッド使ってくれ、自分がソファーで寝るから……と言い出した為に中々収拾がつかなくなってしまった。

「ふぁあ……」

 お陰で今朝は寝不足である。口に手を当てて大欠伸のフィーナは大分お疲れだ。女神に睡眠は必要無いと言うのに。

 昨日からフィーナが気になっているのは新人冒険者達についてだ。シトリーの話から考えれば彼らの仕事が失敗した事で悪魔であるシトリーの仕事が増える事になる。

 そうならない様に新人冒険者達に原因となる依頼に関わらせない様、大立ち回りをしてまで警告したのだろうとは思う。

 冒険者達の事の顛末を事細かに話していた事から、魔界でも天界と同じ様に異世界の歴史の推移を見る事が出来るのだろう。

 つまり、新人冒険者である彼等が件の依頼に関わらなければシトリーにとって何も問題が起こらない事になる。

 天界の女神レアに今回の件の歴史の動きがどうなっているのか確認したいとも思うのだが、数年前に話したきりで何度呼び出しても応答が無い。

 異世界と天界では時間の流れが違うとは言え……少しはこちらの事も気にかけて貰いたいと考えてしまうのは贅沢なのだろうか。

 フィーナにとっては新人冒険者達の生死は対処すべき優先事項では無い。現地の人々への対応はこの異世界の担当女神レアの仕事だ。

 優先事項ではないとは言え、新人冒険者達の動向は気になるものでフィーナが昨日の彼等の会話に聞き耳を立てていると

「ねぇ、どうするの? 今日の仕事」

「請けたんだから行くしかないだろ」

「でも、昨日の黒い女の人……私達負けるって……」

「ギルドの話だとゴブリン十匹退治のはずだし余裕余裕!」

「そうだ、俺達はこれからもっとジャンボになるんだ。ゴブリンなんかに脅えてどうする!」

 どうやら、彼らは既に仕事を請けていてキャンセルするつもりは無い様だ。シトリーの話が本当なら彼らには悲惨な結末しか待っていない。

 シトリーの話に確証は無いもののフィーナは彼らの会話に口を挟んでみる事にした。

「お客様方は今日はどちらまでお仕事にいかれるのですか?」

 モーニングのおかわりコーヒーの補充がてら冒険者達に話しかける。

「王都から西に半日行ったとこにある小さな村さ。そこでゴブリンが出るって言うから退治してくれって」

 答えたのは昨日シトリーと睨み合っていた戦士風の男だ。まだまだ十代後半の駆け出しの少年といった感じで、よく見れば周りのメンバーも同い年くらいの若者ばかりだ。

 フィーナも見た目は十代後半から二十代前半位なので見た目だけならそう大差は無いのだが……。

 フィーナとは違い、彼らからは若者独特の経験の少なさから来る頼りなさの様なものが感じられる。

 自分と見た目がほとんど変わらないエルフィーネにはベテランの貫禄があったのだが……やはり積み重ねた経験によって、見た目の違いだけでは分からない雰囲気や所作に違いが出るのだろう。

「あー! お腹すいたー! 店員さーん、このお店のオススメちょーだーい!」

 そうそう、こんな感じの物言いだった。あっけらかんとして騒々しいエルフの冒険者……

(……ん?)

 聞き覚えのある声に、フィーナが入り口から入ってきた人影を見ると

「あれ? フィーナじゃない。なに、どーしたの? あの屋敷辞めちゃった?」

 皮鎧に緑色のワンピース、背中に長弓を携えたエルフィーネが入ってきた。彼女はフィーナに気付くなり駆け寄ってきた。そして


ーギュッー


 人目も憚らず抱きついてきた。

「おおー、我が同胞よ! いつの間にか居なくなっちゃってたからお姉さんは寂しかったゾ!」

 芝居がかった演技でフィーナの頬にまるで猫の様に自分の頬を擦り付けてきた。しかも店内に響き渡る程の大きな声で。

「あ、あの……」

 フィーナは一ヶ月くらい前まではオーウェン家で働いていたので長い事会っていなかったのはエルフィーネの都合に過ぎないのだが……。

 エルフィーネはフィーナの近くの冒険者達のテーブルに躊躇なく着き

「ほら、早くご飯ご飯!」

 と、フィーナを急かしてきた。フィーナが女将さんにモーニングセット一つ追加を告げると、木製のお皿に盛られた料理がすぐに出てきた。

 目玉焼きとベーコン、生野菜のサラダとバゲットが一皿に盛られたワンプレートである。比較的短時間で用意できる朝食の定番だ。

 フィーナがエルフィーネの元にモーニングセットを届けると彼女は少しガッカリした顔で

「えー、お肉少なーい!」

 クレームを申し出てきた。

「こちらが標準のセットです。お肉の追加は別料金で」


ーダン!ー


 フィーナはやや強めにプレートをテーブルに置いた。文句を言いながら出された料理にがっつきながらエルフィーネがフィーナに

「ねぇ、ところでさ。このテーブルの子達、なんでお通夜みたいな雰囲気なの?」

 しっかり周りに聞こえているであろう声量でフィーナに尋ねてきた。

「それは……」

 新人冒険者達のリーダーの戦士風の少年に目で確認すると、フィーナは昨日のシトリーの経緯と本日の彼等の仕事について、エルフィーネにかいつまんで説明した。

「ふーん、ゴブリンねぇ……」

 目玉焼きまるごととベーコンを頬張りながらエルフィーネは何かを考えている様だ。

「あなた達、新人っぽいけど経験は?」

 エルフィーネの問いに新人冒険者達は自分の冒険者証を彼女に見せる。新人冒険者達の冒険者証はいずれもブロンズのマイナスだ。彼等パーティーの構成は戦士が二人、武道家が一人、魔術師と神官が一人づつだ。

 昨日宿に入ってきた時には確かもう一人誰かが居たはずだが……

「こっちのお姉さんがゴブリン四十匹って言ってるけど……勝てると思ってる人居る?」

 エルフィーネからの本題に新人冒険者達の顔は優れない。力が弱く馬鹿で間抜けなゴブリンと言えどそこまで大量の数は彼等も見た事無いのだろう。

「でもギルドでは十匹くらいって言ってるし……」

 冒険者の戦士の一人がもっともな事を言う。通常、ギルドからの情報が間違っている事などほとんど無いのだから……

「まぁ、行くだけ行ってみましょうか。この超ベテラン有能冒険者の超エルフィーネ様が前途有望な若者達を手伝ってあげるわよ!」

 話を聞いていただけだと思っていたエルフィーネが同行すると言い出した事に、新人冒険者達は遠慮がちに恐縮している。

 やはりエルフィーネの胸元で赫くプラチナの冒険者証は眩しく見える様だ。

「本当は貴女も来てくれると助かるんだけど、有能メイドの超フィーナさんにもなぁ……」

 エルフィーネはバゲットを噛りながらチラッチラッとフィーナをチラ見してくる。自分の名前に超を付ける痛々しい発言は非常に恥ずかしい。

(巻き込み事故は止めて下さい……)

 手伝いたいとは思うがフィーナにも優先すべき仕事がある。彼女が逃げる算段を考えていると……

「駄目ですよ! 先輩はアルフレッド様のお世話とこのお店のお仕事もあるんですから!……ニャ」

 近くの席のミレットが牽制射撃をしてくれた。横槍を入れられたエルフィーネがミレットの方を見ると

「あら、貴女達も冒険者なんじゃない。丁度良いわ、貴女達も手伝って」

 ミレット達がそれなりの冒険者と見たエルフィーネは、彼女らしい話し方で仕事の手伝いを依頼し始めた。

「はぁ? なんで俺等が?」

「そーだ! そーだ!」

「ゴブリン退治なんて新人の仕事だろ!」

「俺達に頼むなら報酬持ってこいや!」

 上から目線なエルフィーネの態度に不満を顕にするオオカミ四人組。しかしエルフィーネにはそんな彼等の怒りもどこ吹く風の様だ。

「未来ある若者達が危ないってのに助け舟も出せないのかしら〜? それに本当にゴブリン四十匹もいたらギルドへ結構な額の違約金も請求出来るはずだし」

 エルフィーネの話だと依頼内容と実際の仕事内容に大きな相違があった場合はある程度の違約金と報酬の割増が見込めるだろうとの事である。

 もちろん仕事内容に応じた冒険者ランクの上昇も見込めるのは言うまでも無い。

 もっとも一回の依頼云々で簡単に冒険者ランクが上がる程に甘々なランク制度でもないのだが……

「わーったよ! 手伝ってやるよ! ゴブリン少なかったらすぐ帰るし報酬は山分けだからな!」

「そーだ! そーだ!」

「俺達が同行してやるんだからありがたく思えよ!」

「足手まといにはなるんじゃねぇぞ!」

 見事に口車に乗せられたオオカミ達は文句を言いながらも同行を了承した。彼等が文句を言っている様を見ていたプロージットもやや遅れて

「私は三属性と補助魔法が使えます! 巻き込まれない様に気を付けてくださいね!」

 一生懸命考えたであろう言葉をエルフィーネ含めた新人冒険者達に告げる。

「プロージットさん、無理してオオカミさん達に合わせなくてもいいんですよ……ニャ」

 オオカミ四人組のノリに染まらない様ミレットがツッコミを入れる。彼女の普段の立ち位置が見て取れる。

「それじゃ早速行きますか。ちゃちゃっと終わらせてきましょーか」

 エルフィーネの言葉とともに冒険者二組のバーティーは騒々しく宿屋を出ていった。

 フィーナは彼等の無事と仕事の成功を祈り、元気に手を降って去っていくミレット達を見送るのだった。

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