訓練のし直し
午後イチに模擬戦を終わらせたフィーナは爆発魔法を得意としていた学徒兵達から十名程を無作為に引き抜いて彼らを運動場に集めていた。
皆生身の状態であり、また体力作りかと近くの仲間同士でヒソヒソ会話を交わしていた。そんな彼らの前にやってきたフィーナは
「これからあなた達には実際に木剣を使った練習を始めて頂きます!」
開口一番、彼らを集めた目的から説明を始めた。H・A・W乗りである自分達がどうして生身で白兵戦の訓練をしなければならないのかと訓練内容を訝しむ声が当然の様に学徒兵達から漏れ始めた。
「え、今更剣術なんて意味あんの?」
「私は魔法学園の出身なのよ?
どうして一般人みたいな事させられなきゃならない訳?」
「こんなんボイコットだろ、意味ないし」
彼ら学徒兵達から漏れ聞こえてきたのは愚痴に近い否定意見ばかりであった。そんな彼らを無視してフィーナは説明を続ける。
「実際に剣を手にして動く事とH・A・Wで白兵戦で戦う動作は違います。ですが、どういう斬撃を加えるか、頭の中にきちんとイメージ出来ている事は大事です。また、相手の動きを見極める技術を養う事が出来ます ではこちらの木剣を取りにいらして下さい」
と、フィーナはいつの間にか用意していた木剣を取りに来る様に学徒兵達に指示する。学徒兵達はこんな古風な訓練が役に立つのかと半信半疑ではある様だ。
(う〜ん……)
可能であればH・A・Wを使った訓練から始めても良かったのだが、まずは彼らのセイズコナから肩部キャノン砲の撤去を進めなければならない。
彼等に出撃命令が下されるまでどれほどの時間が残されているのかは分からないが、H・A・Wが使えないからと言って彼らを遊ばせておく余裕など無い。
「それでは片手での素振りから始めます。半身に構え!」
学徒兵達の前に立つフィーナは自身が手本となって木剣を手に半身に構える型を見せる。
「はっ!」
ーブン!ー
フィーナが袈裟斬りを見せると学徒兵達も見様見真似で木剣を振り始めた。それを見ていた彼女から
「相手の左肩口から逆の脇腹に向けて斜めに振り下ろしますからね。では初めから……半身に構え!」
再び元の位置に戻ったフィーナは最初の構えから袈裟斬りを放ってみせる。それに続けて学徒兵達が木剣を振り始めた。
その後、フィーナはその流れのまま横薙ぎ、逆袈裟斬りと一通りの振り方を実演しそれらの素振りを実践させていく。そんな彼らを見ていたフィーナは
(なんだか……懐かしいですね)
ふと王都の宿屋の裏庭でアルフレッドやリーシャ、友人のポールを含めた三人組に剣術の稽古をしていた過去をピンポイントで思い出していた。
それにしても、魔法学園は貴族の集まりだと思っていたのだが最近の貴族は剣術の稽古はしていない様に見える。誰も彼も初心者のそれである。
出来れば応じ技や返し技、模擬戦までやっていきたいのだが、今日一日ではそこまで持っていけそうには無い。
しかも剣術を教えて終わりでは無く、H・A・Wでの白兵戦の戦い方まで教育してやっと終了である。今の生身での剣術訓練は彼等のセイズコナを接近戦用の改修が終了するまでの話なのである程度は適当な辺りで切り上げても良いのかもしれない。
とりあえずは接近するレギンレイヴに乗る自分に対し、何も出来なかった学徒兵の現状を変えなければ生き残る事は出来ない。
咄嗟に身体が動かせて機体を操作するまでのタイムラグを減らさないと……元々想定されていた遠距離戦前提なら今の彼等でも戦力の一端になったのだろうが、魔法が通じず遠距離戦に効果が望めなければ戦線に投入しても弾除けにしかならない。
(とりあえず、今は出来る事をやっていくしかありませんね)
結局その日は木剣の素振りと足さばきを教えた辺りで終わる事となった。剣術訓練を終えたフィーナは改めて学徒兵を整列させると一人の兵士に対し
「デニス・シュライヒャー一等兵、貴方にこの隊のまとめ役をお願いします。明日の朝九時にこちらに全員を集合させておいて下さい」
明日もこの運動場に集まる事を告げ学徒兵達を解散させるのだった。その足で格納庫に向かったフィーナは
「お疲れ様です、ハンスさん」
犬耳整備兵のハンスにセイズコナの改修状況を聞いておく事にした。
「あ、アインホルン少尉殿。お疲れ様です!」
「お忙しいところすみません。改修をお願いしたセイズコナなんですが作業完了はいつくらいになりますか?」
仕事の手を止めさせるのは申し訳無く思いつつ彼に現状を聞いてみると
「キャノン砲の取り外しと機体制御プログラムの更新だけですからね。三日もあれば終わらせられますよ」
爽やかな笑顔で答えるハンスの尻尾がブンブン振られているのが気になるが、三日あるならその間は軍曹の体力作りと自身が剣術の訓練をしていればカリキュラムに問題は無いだろう。
ーガシャン! ガシャン! ガシャン!ー
フィーナがハンスから機体の整備状況を聞いていると格納庫の外からH・A・Wの動作音と振動が伝わってきた。
「あ、私はこれで。ハンスさん、お忙しいところすみませんでした」
これから格納庫内が慌ただしくなる事を察したフィーナは挨拶もそこそこに格納庫を後にするのだった。
その日の夜、夕食を撮る為にフィーナが食堂の列にトレーを手に並んでいると
「男爵家の成り上がりが調子に乗ってんじゃねぇよ!」
ーガシャーン!ー
列の前の方から男性同士が言い合う声が聞こえてきた。一体何事かとフィーナが現場に駆け付けてみたところ、三人の男性が一人に掴み掛かっている状況だった。
全員が学徒兵である事を確認したフィーナは
「止めなさい! 一体、何があったんですか!」
四人を制止し状況を彼等に問い正すのだった。




