緊急脱出
荒野を捜索するフィーナの前に原型を失った二機分の偵察機の残骸が現れた。見るからに粉々で搭乗員の生存は絶望的に見えた。
(あれ……? もしかして……!)
残骸からそう遠くない場所にオレンジ色の布がはためいているのが見えた。近付いてみるとそれは緊急脱出用のパラシュートであり、近くには地面に横たわる偵察機搭乗員の姿があった。
ーウイイイィィィンー
フィーナはコクピットのハッチを開けるとすぐに搭乗員の救助の為にレギンレイヴから降り始めた。当然酸素濃度を確認した上ではある。
モニターの表示は八十パーセントは超えていた。しかも、今も神力で酸素濃度を高めている最中である。フィーナが生身で降りても問題は何も無かった。
ータッー
地上に降りたフィーナはすぐに倒れている搭乗員の男性に駆け寄った。そして
ーパアアァー
いつものヒールとキュアの重ね掛けをする。死んでいなければこれで大丈夫なはずである。彼女が搭乗員の容態を診ていると
「少尉殿、交代します!」
救難機から担架を携え隊員達がやってきていた。
「あ、回復魔法は掛けましたので意識の回復待ちです。救難機の人達は大丈夫ですか?」
フィーナは救難機の隊員達に仕事を引き継ぎつつ彼らに何かの問題がないか尋ねる。
「あ、救難機の離陸が可能かどうか未確認できてそこは今、確認中ですが……護衛の方、よろしくお願い致します!」
一人の隊員がフィーナの質問に答えていた。多分、レギンレイヴのコクピットに戻った方が今のフィーナに求められている事がこなせるだろう。
フィーナは救難機の隊員に敬礼をすると大急ぎでレギンレイヴのコクピットへと戻る。
ーピピッ!ー
その時、モニターから警告音が発せられた。神力で八十パーセントまで回復させていたはずの酸素濃度が五十パーセントを再び下回っている。フィーナが神力で再び酸素濃度を上げ始めたその時
ーガシャンガシャンー
「少尉殿、おまたせしました。ドラコ軍曹、ルービンシュタイン伍長の両名、只今到着しました」
ドラコ軍曹とクリムローゼ伍長の二人が現場に到着した。
「お疲れ様です。軍曹と伍長は付近に行方不明の搭乗員が居ないか探して下さい。後、付近の酸素濃度には気を付けて下さい」
二人に付近の捜索を指示したフィーナは自分達の帰還方法について資料を見てみる事にしたのだが……
(あれ……?)
資料には現地でH・A・Wを下ろせた時の手順しか記されていない。そうなると輸送機に着陸して貰っても収容方法は無くH・A・Wが徒歩で大陸の西側まで歩いていかなければのらないと言う事になる。
空中から投下された時点で台車を投棄してしまったからどうしようもないのだが……これを二人に話すのは気が重い。これは帰ったらH・A・Wに搭乗したまま帰還出来る輸送機の開発を上申しなければならないだろう。
何ならレア経由で歴史に介入してしまっても仕方が無い。母艦がない人型機動兵器など片手落ちも良いところである。
「輸送機のパイロットに通達。私達アインホルン小隊は陸路で大陸の西端まで移動します。あなた方は帰還の途に着いて下さい」
役目がない輸送機を飛ばせていても意味が無い。フィーナは彼らを基地に返してしまう判断を下すのだった。
「少尉殿、生存者です!」
軍曹から唐突に行方不明者発見の報が入ってきた。彼の話によるとフィーナ達がいる場所からさらに東に進んだ場所で見つけたとの事で、おそらくバラシュートで風に流されたのではないかというのがドラコ軍曹の見解である。
「すみません。あちらに進んだ所で生存者発見の知らせがありました。対応お願いします」
フィーナがスピーカーで救助隊に生存者の救出を要請したその時
「しょしょしょ少尉殿ぉ〜! ててて……」
時間を同じくしてクリムローゼから上ずった声で慌てた様子の無線が割り込んできた。
「はい。どうしました?」
なるべく彼女を落ち着かせようとフィーナが冷静に努めながら状況を聞き返すと
「て、敵の大群が一……二……沢山です! 数え切れないくらいタコが一杯居ます!」
「クリムローゼ伍長、落ち着いて下さい! 敵の方位は? 相手には気付かれてませんか?」
いくらなんでも多勢に喧嘩を売れる程の余裕はフィーナには無い。少なくとも味方の救難機が撤退するまでは敵との交戦はしたくは無い。
「え〜と、敵はこっちには気付いてないですね」
彼女の言葉をそのまま受け取るならこのままやり過ごせる可能性がある。
「とにかく、今からそちらに向かいます。軍曹、救助隊の作業が終わり彼らが飛び立ったら連絡して下さい」
フィーナはレギンレイヴをクリムローゼの元に進ませながらドラコ軍曹にも指示を飛ばす。
クリムローゼが向かったのは外人部隊の基地で訓練をした時の岩場の様な場所だった。岩山が林の様に乱立していて見通しが悪い。
「クリムローゼ伍長! 無事ですか?」
彼女のセイズコナを見つけたフィーナはレギンレイヴを彼女の元へと寄せていく。クリムローゼは岩陰からその先の開けた空間を注視していると様だった。
「あ、少尉殿〜。見て下さいよ〜アレ」
岩陰に隠れながら先の開けた空間を指し示すクリムローゼのセイズコナ越しに覗き見たフィーナが見たのは
「な、何あれ……!」
円錐形の塔の様な巨大な建造物と近くに停泊する輸送船数隻。そして半球状のドームが複数建設されている光景だった。
半球のドームの中には住居の様な何かがあり、そこではマーズスフィアの者達がヘルメットを脱いで普通に活動しているのが見える。
そしてドームと円錐形の塔を守る様に多脚兵器が百体は下らない数が配置されていた。




