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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
第一章 アルフレッド編
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メイドは見た

 意気揚々と潜入調査に戻ったフィーナだったが、特にやる事は無かった。今の時間は授業中だし、アルフレッドとリーシャの居場所も把握出来ている。

 今はただ、ぼーっと授業風景を眺めているだけで、一人で授業参観をしている様なものだ。

 異世界でも授業風景は変わらないものなんだとフィーナは変な所に感心していた。授業中に騒ぎ出す子はいない様でなんとも平和で退屈な授業風景だった。

 唯一この世界ならではの特徴があるとすれば、男子生徒の多くがキノコ型の髪をしている事だった。

 ごく普通のアルフレッドの髪型が異端に見える程に教室内はキノコに侵食されていた。

(そういえばさっき……)

 少し前、廊下を大勢の生徒達が大移動していた時も、ほとんどの男子生徒はキノコ頭だった。ふと、アルフレッドをキノコ頭に散髪した姿が脳裏をよぎる。

「ブフッ!」

 思わず吹き出すフィーナ。想像の産物とは言えキノコ頭のアルフレッドは絶望的に似合っていない。逆に似合われても困るところではあるが。

 しかしこの女神、潜入調査にはつくづく向いてない。姿を消している事とクラウスから公認を得てしまった事で、すっかり授業参観気分になってしまっていた。


ーカランカランー


 授業終わりの鐘が鳴らされた。授業合間の休み時間らしく教室から出ていく者、友達同士で固まる者、次の授業の準備をしている者…と、様々だった。

 年齢的には校庭でサッカーや野球などで遊んでもおかしくは無いのだがここは異世界。サッカーや野球があるはずもなく校庭も無い。

 あるのは魔法の実技授業の為の運動スペースがある程度である。アルフレッドは何をしているのかと見てみると、彼は一人教科書を読んでいる。

 勉強熱心と言うよりはただの興味本位なのだろう。教科書なども学校に来て初めて目にするモノのはずだから無理も無い話である。

 フィーナとしては勉強だけでは無く友達も作っていってもらいたいところではあるのだが、その辺りはすぐにどうこうなる話でもない。気長に見ていくしかないだろう。

 一方のリーシャの方を見てみると……他の女生徒達と何やら話している。かと思えば女生徒達の後に続く様に教室を出て行ってしまった。

 フィーナは少し迷ったがアルフレッドの肩をポンポンと叩きリーシャ達の姿を見る様に誘導した。

 リーシャの表情が相変わらず優れなかったのが理由である。どう見ても友達同士で遊びに行くという空気では無かったからだ。

 出来ればアルフレッドにもリーシャの様子を見に来て欲しいのだが、彼がどうするかはアルフレッド自身に任せるしかない。

(もう、リーシャさんの後を追わないと……)

 フィーナはとりあえず一人でリーシャ達の後を追う事にするのだった。



 リーシャが女友達に連れられてやってきたのは実技訓練場の裏の人気の無い場所だった。

 校舎からは完全に死角になっていて用がなければ誰も来ないだろう場所に思う。

 わざわざこんな場所に来るという事は……ある程度察しがついたフィーナは姿が見られていないのを良い事に女生徒達のピッタリ後ろに付いた。これなら彼女らの会話も漏れなく聞く事は出来るが……近過ぎである。

 姿が見えていたら女生徒の取り巻きの一人に見られてもおかしくない位置にフィーナは居る。

 とりあえず何が起きたとしてもこの距離なら対処出来るだろう。もはや丸聞こえの位置ではあるが、フィーナは聞き耳を立てる事にした。

「あなた平民でしょ? ワタクシに恥をかかせてタダで済むと思ってないでしょうね!」

 女生徒の中央に居る薄紫色の髪色をした女生徒がリーシャに強い口調で言い放つ。降ろした髪という髪を全て縦ロールにしてあるかの様な髪型が特徴的で、ある意味髪型で威嚇している様に見えなくも無い。

 髪の毛が傷まないか少し心配になってくるレベルの見事な縦ロールにフィーナが感心していると

「黙ってないで謝りなさいよー! カトリーヌ様怒らせたらどうなるか分からないわよー!」

 カトリーヌと呼ばれた中央の女生徒の左側に立つ女生徒が続いてリーシャに向かって追い打ちをかけた。

 こちらの女生徒はあまり特徴らしい特徴の無い没個性な女の子だ。こちらは薄い茶色の髪色をしている。

「そーよ! 許して欲しかったら今度の給食のプリン、私におよこしなさいよね!」

 こちらはカトリーヌの右隣に居る取り巻き二号。少しぽっちゃり…いや、かなり余分なお肉が付いて遊ばされな残念な女の子である。

 カトリーヌに先んじて自身の筋違いな要求をするあたりこちらは中々の問題児である様に見える。

「勝手に話を進めないで! ワタクシがこれから言うんだから!」

 と、カトリーヌに窘められる始末である。三人の女生徒に詰められリーシャはすっかり怯えてしまっていた。

 彼女が下を向いて俯いてしまっているのが気に入らないのか、カトリーヌが背中の杖を手にリーシャに向ける。

「あいたっ……わわっ!」

 その動作の過程で背後のフィーナの胸に杖が当たってしまった。反射的に声が出てしまい慌てて口を抑えるが……この女神油断し過ぎである。

 子供が手にした杖が身体に当たったフィーナが痛みに悶えている間にリーシャとカトリーヌ達の話しは進んでいく。

 話を聞いていると事の発端が分かってきた。数日前の授業の最中カトリーヌが先生に質問された問題を自信満々に答えたところ盛大に間違えてしまったらしい。

 そして、その後で先生から差されたリーシャがすんなり正答を答えてしまったというのだ。

 自爆をしたカトリーヌの完全な八つ当たりであり言い掛かりなのだが、赤っ恥をかかされたとカトリーヌは大層ご立腹が続いている様だ。

(…………)

 なんとも下らない話なのだが本人達にとっては大事のはずである。

 事の経緯は分かった事だし後は今後の対応をどうするか……フィーナが思案に耽っていると

「なんとか言いなさいよ! 平民!」

 カトリーヌ様はリーシャの煮え切らない態度に大層ご立腹である。縦ロールが怒髪天を衝く勢いなのが恥をかかされた事に対する怒り具合が見て取れる。

 カトリーヌは今にも手にした杖をリーシャに振り下ろしてもおかしくは無い。

 フィーナは万が一を考えて彼らの間にいつでも割って入れる様な位置に移動する。その間もカトリーヌ様のイライラは増している様だ。

 思った以上に怒りの沸点が低いお嬢様だ。フィーナがいつでも割って入れる場所に移動したところで

「こっちを見なさいよ! 平民!」

 カトリーヌ様がリーシャに対し杖を振り下ろす。その時、フィーナの背後から

「やめろ!」


 ーボフッー


 男の子の声と共にフィーナのお尻の辺りに何かがぶつかる衝撃と共に前に押し出され、振り下ろされようとしていたカトリーヌ様の杖がフィーナの肩口に当たった。


ーガツッ!ー


「あたっ!」

 勢いが乗る前だったので杖によるダメージは大した事は無い。杖が空中で止まった事カトリーヌ様は不思議そうな表情をしている。

「なにこれ? 魔力防壁?」

 杖でポンポンとフィーナを叩き続けるカトリーヌ様に対し、これ以上叩かれてはたまらないとフィーナが杖を掴もうとしたその時


ームニュー


「ひゃあっ!」

 突然フィーナお尻に何かが触れてきて素っ頓狂な声を上げてしまった。

 後ろを見るとアルフレッドが不思議そうな顔をしながらフィーナのお尻を何度か叩いたり撫でたりしている。先程ぶつかってきたのはアルフレッドだったらしい。

 彼の目にはフィーナは見えていなかったのだからぶつかるのも仕方無い。

 何も無いところにいきなり何かにぶつかったのでアルフレッドの反応も当然である。

 どうやらリーシャを探して事態を止めようとやって来た様だ。

 フィーナはカトリーヌ様の杖に手を添えながら反対側に移動する。フィーナが移動した事で目の前の空間に何の感触も無くなった事を確認したアルフレッドはリーシャ達の間に割って入ってきた。

「イジメは……良くないですよ」

 割って入ったのは良いものの、あまり覇気の無い言い方だ。とは言っても女の子同士の話だしアルフレッドは男でもあるし…難しいところではある。

「リーシャさん、行こう。もうすぐ授業はじまっちゃうし」

 アルフレッドはリーシャを先に行く様促した。

(え……?)

 帰り際にアルフレッドが自分の方を見た気がした。傍から見たら何も無い空間のはずなのに……。

 いきなりの事に気が動転しているフィーナをよそに二人は教室へと帰っていった。

 一方のカトリーヌ様とその取り巻き達はその間もギャーギャー言っていたのだが、フィーナがカトリーヌ様の杖を必死に抑えていたので被害は特に何も無かった。

(そろそろ良いですかね……)

 二人の姿が見えなくなったところで杖を離したが、カトリーヌ様達三人は腑に落ちない顔をするばかりであった。

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