専用機受領
「あ、あの〜……この機体は?」
フィーナは駆け寄ってきたマイクに分かり切った質問をぶつけてみた。これは分かり切った答えが返ってくる事を期待してのものでは決して無い。
何かの間違いである事に一縷の望みを託しての事である。果たしてマイクからはどんな答えが返ってくるのだろうか……?フィーナが固唾を飲んで見守る中マイクの口から発せられた答えは……
「准尉殿! 機体の点検完了しました! いつでも出られますワン!」
(あ……、やっぱり……)
ちなみにこの格納庫には女性騎士を模した角付き機体しか駐機していない。眼の前の真っ白で派手目な機体が自分のモノである事にがっくりと膝から崩れ落ちるフィーナ。
そんな彼女を見た軍曹が笑い掛けながら
「准尉、どうされました? いや〜、最新機種の様ですな。私の旧式とは違う様で」
床の上に崩れ落ちているフィーナに話し掛けてきた。なんだか軍曹にはフィーナが感激のあまり言葉もなくしているのだと勘違いされている様だ。
「あ、あの……私これに乗らなくちゃ駄目……なんですか?」
フィーナは呆然と女性騎士を模したH・A・Wを見上げながら力無くマイクに尋ねてみた。すると
「あ、それはもう! なんでも王都の技術者の人達の夢枕に女神様が現れたとかって話がありまして……」
マイクの話によると、王都では予てより機体の小型軽量化に向けた試作機を開発中であったらしい。しかし軽量化による脚部の強度と防御力の不足が解決出来ない問題として壁となっていたと言うのだ。
しかし、王都にフィーナがやってきた数日後、技術者達の夢枕に女神が現れたのだという。
機体のスカート部分に使用されている魔導複合繊維の生成に関するヒントが女神から授けられ、脚部の軽量化を果たしつつ防御力の向上が達成出来たのだ。
それはもう、技術者達は毎日お祭り騒ぎだったそうなのである。
「いや〜、皆さんすっごいキラキラした目で引き渡してくれましたよ。レギンレイヴが活躍するのを見るの期待していますってワン」
王都の技術者達の様子を語るマイクの目もフィーナに対する期待に満ちていた。まるでフリスピーが投げられるのをワクワクして待つ飼い犬の様に、曇りや疑いの全く無い信頼に満ちた目である。
機体に愛称まで付けられている事態にフィーナには既に逃げ場など無い事が明白になっていた。純白で派手派手な機体では目立たない様にするのは不可能である。呆然と機体を見上げているフィーナの頭に
(フィーナちゃ〜ん? 気に入ってくれたぁ〜?)
今回の件の張本人、女神レアからの念話である。かなり上機嫌で念話を送ってきている辺り、レアの希望通りの展開となっているのだろう。
(あの、気に入るも何も……なんでこんな派手な機体にしちゃったんですか?)
レアに尋ねるフィーナの声には元気が全く無い。こんな派手な機体で戦えば周囲からの注目が集まってしまうのも容易に想像はできるのだが、いかにもな機体で初心者丸出しな動きをする訳にもいかない。要するに周囲からのハードルが無意味に上げられてしまっている様なモノである。
(大丈夫! 神力でぱぁ〜っとやっちゃえばピンチになんてならないから♪)
レアからは何も考えてなさそうな返事が返ってきた。神力をバンバン使えてそれが信仰心となってもそれが仕事の成果となるレアらしい返答である。
(あの、もしかして私が信仰心を得ても不問になったりとか……?)
一縷の望みを賭けたフィーナからの質問に対しレアからの返事は
(そんな訳ないじゃない。そこはいつも通り? それより今は王都の技術者に人工筋肉と人工皮膚、人工毛髪の技術継承に忙しいから……楽しみにしててね? じゃあね〜!)
何やら不穏な文言を残して、レアからの念話は切られてしまった。とりあえず今は機体に慣れる以外に道は無さそうだ。
(頑張ってみるしかないですね……)
フィーナはゆっくりと立ち上がるとウッキウキのマイクに連れられ機体の搭乗用リフトへと向かうのであった。
コクピットに座り、機体の起動手順を始めたフィーナはいくつかのチェックリストが省かれているのに気が付いた。
AIの発展によりいくつか人力で行わなければならなかった箇所がAIがやってくれる様に変わった様だ。他にコクピットの内装に大きな変化は無い。あいかわらず視界は人間の視界と同程度である。
「アインホルン准尉殿! 準備完了です! 格納庫から出発して下さいワン!」
無線からマイクの声が聞こえてきた。足元に障害物は無く、警告灯も点灯していない。
(…………)
フィーナが両レバーをゆっくりと前に押し出すとレギンレイヴがゆっくりと前に歩き始めた。
ーガシャンカシャンー
軍曹の機体より軽いというのは本当の話であるらしく、軍曹の機体と同じ操縦しかしていないはずなのに歩く速度が幾分早くなっている。
格納庫の入口では赤色灯が回っており、中からH・A・Wが出てくる事を周囲に知らせている。フィーナは一応一時停止をして左右の確認をしつつ格納庫を出る。
「准尉殿、それでは訓練場に向かいましょう」
格納庫の外では軍曹がH・A・Wに乗って待っていてくれた。
軍曹の機体も色々と専用となる改修が施されており、背中には巨大な両手剣がマウントされていた。腰のラッチにはいつものライフルが装備されている辺り、軍曹の機体は近・中距離戦を主眼にした兵装であるらしい。
一方のフィーナの機体には軍曹と同型のライフルが同様に背中側の腰に。細めの剣が左腰にマウントされている。もし、今の状況で敵と戦うとなれば前衛二人の脳筋パーティーとなってしまう。
(後方支援役が必要になるかも……)
人型機動兵器での運用は素人であるものの、長年の冒険者生活から前衛二人の不安感を感じながら訓練場へと向かうフィーナであった。




