アースガルド王都
「あの、話を続けてもよろしいですかワン……?」
軍曹の言葉に話が止まってしまったが元々はマイクの話の途中であった。マイクはベンチの前にある貨物を見ながら
「王都に着いたら式典の後にH・A・Wを使ったデモンストレーションが行われるのはご存知ですかワン?」
ご存知な訳が無い。全くの初耳なフィーナは
「あの、それってもしかして……私もやるんですか?」
聞くまでもない質問だがせずにはいられなかった。
「あ、大丈夫ですよ、演舞とかする訳じゃなくて……光の魔法を空に撃って祝砲みたいにするだけって話ですからワン」
マイクの話から判断すると、式典を開いて詰めかけた群衆の前でこの異世界では珍しいとされる、光……聖属性の魔法を使ったプロパガンダとするのだろう。
アースガルドでは敵の侵攻を受けている基地がまだある。いわば戦時中の気分高揚の為に今回の式典を計画したのだと考えられる。
(…………)
ほぼほぼ素人同然のフィーナだが、光の矢を空に撃つだけならなんとかなりそうではある。 それならかんたんな仕事かな……と、フィーナがちょっと安心していると
「演舞は王都守備軍の方達と一緒にやるみたいですよ? 着いて一泊して式典して演舞やってそれで帰りみたいですワン」
マイクが簡単に今後の予定を話してくれた。 明日に式典なら今日着替える必要はあるのだろうか?と、フィーナが首を傾げていると
「そろそろ時間だ。モニク秘書官の所に行って来い。馬子にも衣装と言うからな」
隣の軍曹が声を掛けてきた。 気がついたら結構時間が経っていたらしい。
「わ、分かりました」
フィーナは立ち上がると貨物室を機首方向に歩き始めた。途中階段を見つけ登った先の扉を
ーコンコンー
「アインホルン伍長です、失礼します」
先が分からないフィーナがとりあえずノックと声掛けをしてみたところ
ーガチャー
中からモニクが顔を覗かせた。
「あら、お疲れ様。さぁ入って」
モニクに言われるまま扉を抜けたフィーナが見たのは多少座り心地が良さそうな椅子が置かれた簡素な部屋だった。そこに基地司令のフューゲル大佐と秘書官のモニクが座っていた様だった。
てっきりファーストクラスみたいな光景が広がっているのかと思っていたフィーナは拍子抜けしてしまった。
「じゃあ、こちらに掛けて。まなたの髪型から変えましょうか」
フィーナを椅子に座らせたモニクは慣れた手付きでフィーナの髪を結始めた。
「心配しないで。はい、手鏡」
フィーナが不安そうにしているのが顔に出てしまったのかモニクが手鏡を渡してくれた。
モニクはどうやらフィーナをクラウンハーフアップという髪型にしようとしているらしい。いつだったか、別の異世界でエルフの国のお姫様をしていた時にそんな髪型に変えられた事もあった。
そういえばあの異世界でも色々な事があった。自分が剣術を教えていた勇者のあの子は元気にしているだろうか?
髪の色は全く違うものの彼の素直さと強くなる事への熱心さは、フィーナにどことなくアルフレッドを思い起こさせていた。
(…………)
フィーナの心が過去への憧憬に傾きかけたその時
「はい、出来上がり。どうかしら?」
モニクが後ろで三面鏡を構えてクラウンハーフアップに結った髪を見せてくれた。綺麗に整えられた自分の髪にフィーナが言葉を失っていると
「後はこっちだ。化粧室で着替えて来ると良い」
白い儀礼用の軍服がフューゲルから渡された。 今着ている緑の軍服を脱いで着直すだけなので大した手間は無さそうである。
「あ、ありがとうございます」
例の言葉を口にするとフィーナは二人に一礼し化粧室へと消えていった。
儀礼用の白の軍服に着替えたフィーナは化粧室の鏡に映る自身の姿を見て
(これは……粗相の無い様にきちんと軍人を演じなければなりませんね)
密かな決意を新たにしていた。もしかしたら自分の働き如何でアースガルドに住む人々の士気が変わってしまうかもしれないのだ。
例えプロパガンダの偶像になろうとも、敵を退けられればフィーナの目的に近付く事は間違いない。 敵軍に所属している転生者である安室祐一に一発入れて彼に分からせなければならない以上、
自分が属する勢力の戦況は好転させなければならない。
戦局好転の一助となるのなら式典で有能アピールするのも出来る軍人と演技するのも吝かではない。
(……よし)
フィーナは自身の頬を両手でパシパシ叩いて表情を引き締めると化粧室を後にするのだった。
「アインホルン伍長、もうすぐ着陸よ。席に着いて」
化粧室から出たフィーナにモニクが声を掛けてきた。
「は、はい!」
航空機の着陸に関して良い思い出のないフィーナは慌てて座席に着く。うっかり慌ててしまったが取り乱すのはこれで最後……と、フィーナは有能な軍人を演じ切ろうと改めて気を付けるとシートベルトを締めて着陸を待つ。
ーキュキュキュッ!ー
輸送機は静かな着陸を披露し、ゆっくりと停止する。そしてタキシングを行い定位置へとゆっくりと移動を始めていた。
「アインホルン伍長、私に続いて降りてきてくれ。君の後にモニクが続く、慌てない様にな」
フューゲル大佐が自身の身なりを整えながら、フィーナにタラップを降りる時の注意点を簡単に説明してきた。
彼の後に続いてタラップを降りるだけの話なのに何がそんなに難しいのだろうとフィーナが首を傾げていると
「緊張して足を踏み外したりしない様にね、私が後ろに付いているから安心なさい」
隣のモニクにこうまで言われてもフィーナは何が何を心配されているのかピンと来ていなかったが
「「「おおおおおおお!」」」
輸送機の乗組員が昇降口の扉を開けたとたん、外からどよめきの様なザワザワとした音圧のある沢山の人々の声が聞こえてきた。
「それでは降りよう。アインホルン伍長、気を楽にな」
フューゲル大佐は立ち上がるとそのまま機外へと消えていった。観衆のざわめきに特に変化は無い。
「さぁ、降りましょう」
モニクがフィーナに立ち上がるのを促す。フィーナが言われるがまま昇降口から外に出ると




