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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
天界の日常編(伍)
462/821

社会問題

 フィーナは転生候補者が送られてくるまでの間、久しぶりのミレットのモフモフ具合を堪能していた。

 考えてみればミレットはフレイアの頭の上が気に入ってしまったのか、中々彼女と触れ合う機会が取れなくなってしまっていた。

「ミレットさん? ミレットさんだったら敵に手も足も捕らえられてしまった時はどうします?」

 前回の異世界の仕事を引き摺ったままのフィーナはミレットにそんな疑問を投げ掛けてみた。

「センパイ……そんな危険な目に遭っちゃったんですか?……ニャ」

 そんな事あるのかと素で聞き返されてしまったフィーナは恥ずかしさのあまり黙って顔を背けてしまった。そんな時


ーパアアァァァー


 フレイアの言葉通り転生候補者がフィーナの仕事場に送られてきた。相変わらず失敗してしまった前回の異世界の出来事を引きずり気味なフィーナだが、気を取り直し

「ようこそいらっしゃいました。 田崎……これは何とお読みすれば良いのでしょうか?」

 見るからに男子高校生な転生候補者に名前の呼び方を尋ねるフィーナ。そんな彼女を見る男子高校生は明らかに不機嫌な様子を見せている。

 黒髪短髪の無個性主人公といった感じのその男子高校生は

「それ騎士って書いてない? それでアーサー王って読むんだよ」

「ブフッ!」

 秒で失礼なリアクションを取ってしまったフィーナ。騎士と書いてあって誤字の可能性も無いとして、ナイトと呼ぶ可能性は考慮していてもまさかのアーサー王は想像の斜め上だった。

「ひ……ひぐっ。ニャ……ア、アーサー王て……ニャア……」

 フィーナが抱いているミレットも過呼吸に陥るほどツボに入ってしまっていたらしい。ブルブルと震えながらフィーナの胸にしがみついている。

「う、うるせー! 俺だってこんな名前嫌なんだよ! なんで名前だけで笑われなきゃならねーんだよ!」

 田崎騎士は明らかにイラついている陽だった。しかし、当人の苦労を考えればそれも仕方がない。両親の気分で罰ゲームを強いられてしまったのだから、その苦労は察して余りある。

「え〜と……そ、それでは名字の方でお呼びしますね。……コホン!」

 フィーナは咳払いで感情を誤魔化しながら言葉を続ける。

「田崎さん、天界へようこそいらっしゃいました。私は異世界への転生のご案内を務めさせて頂いております女神フィーナと申します」

 自己紹介を終えたフィーナはミレットを床に放すと

「あなたは人生を終えてここにいらっしゃっています。そんな貴女には異世界への転生の機会が与えられます。何か希望の様なものはございますか?」

 フィーナの問いに田崎は考え込んでいる。フィーナとしては世界に影響をもたらす能力でなければ出来るだけ彼の意向に沿うものを、と考えていた。

 確実に苦難の人生を歩んできたであろう彼には健やかな人生を送ってもらいたかった。

「ん〜、特になんか欲しいわけじゃないけど……まともな名前の人生だったらそれでいいや」

 田崎の希望はフィーナの予想を裏切っていたが、なるほど確かにと頷かせるものであった。

 藪を突付くつもりは無いが、彼くらいの年頃はスキル・ガチャ・チートの三種の神器を求めてくる事が往々にしてある為にフィーナも気にはなった。

「あの……人生が楽になる様な、そういった能力の様なものは要らないのですか?」

気になったら聞かずにはいられない。後からクレームを入れられても困るフィーナは田崎に尋ねてみた。しかし

「名前普通なら人生楽だよ。学校もそうだけど病院とか地獄だぞ。ガキなんか気遣い無しに母親に聞いてたりするからな」

 田崎は生前苦労したであろうエピソードを交えて答えてくれた。確かに彼の人生は平和な島国において過酷な人生だったと言えるだろう。

(…………)


ーパアアァァァー


 フィーナは転生先の候補先リストを取り寄せた。束になったリストの中から見繕った何件かの転生先を提示してみた。

「じゃあ……これかな」

 田崎はリストを受け取ってそれぞれを見比べた後、特に迷う様子も無く一枚の紙を返してきた、


【ブランド】

ごく普通の農家の家庭に次男として生まれる。継ぐ畑がなく食い扶持を稼ぐ為に冒険者となる。仲間が出来てパーティーを組むようになり日々の仕事をこなしていく。パーティーの盾役を買って出る彼は仲間から一目置かれていたが、ある時、パーティーがバーサーカーに襲われた際

「ここは俺に任せて行け!」

と、仲間を逃がす為盾の役目を全うして戦死。享年は二十二歳であった。


「本当にこちらの人生でよろしいのですか? あなたが未来を変えるのは大変だとは思いますが……」

 天界が異世界への転生を促すのはより高い信仰心を天界に送ってもらう為のもので、貢献度の低い人生へのテコ入れも同然である。

 そんなフィーナの目から見てもブランドの人生を破滅から救うのは難しそうに思えた。

「いや、これでいいや。なんか面白そうだし普通だし」

 彼は名前が普通っぽい人生が気に入ったのか、特にこれ以上の要望は無さそうだ。

「わかりました。それでは……」


ーパアアァァァー


 フィーナはここぞとばかりに田崎にあらゆる特性を付与していった。頑強、不屈は当然として反射神経向上、身体能力向上、運動神経向上。トドメに幸運も忘れない。

「それではいってらっしゃい。どうか良い人生を」

 能力を付与し終えたフィーナは田崎をレアの元に転移させていった。もちろん添付資料に名前尋ねるの禁止と付箋も添えてである。

「ふぅ……」

 久しぶりの通常業務がすんなりこなせた事にフィーナは安堵していた。一人目から素直な良い魂なら幸先良いなと、気を良くした彼女は自分にも幸運が舞い込むのではないかと勝手に妄想していた。

 だが、そんな彼女の希望が打ち砕かれるのは本当にこの後すぐの話になってしまうのであった。

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