イソギンチャク戦
「きゃあああっ!」
ーバシィィィン!ー
「うぐっ!」
足をイソギンチャクの触手に捕まえられたフィーナは飛んで抵抗しようとしたものの、イソギンチャクの力には勝てず勢いよく水面に叩きつけられた。
それでも何とか飛んで抵抗しようとするフィーナの事をイソギンチャクは
ーバシーン! バシーン!ー
「うあっ! いつっ!」
何度も振り回し水面に叩き付ける事で抵抗の無意味さをフィーナに解らせたのだった。
水面に何度も叩き付けられた衝撃は確かなダメージとなってフィーナの身体に蓄積されていった。
女神の能力である光の矢が使えないという事は回復の奇跡であるヒールすら使えないという事になる。現に今ヒールで治療しようとしているのにうんともすんともいわないのだ。
(な、なんとかしないと……)
回復は出来ず短剣で触手を切ろうにも絶えずイソギンチャクに振り回され水面に叩き付けられており、自力では逃げる事すら不可能な状況だった。その時
ードーン!ドーン!ドーン!ー
上空に現れたガーゴイルの編隊が口から火の玉をイソギンチャク目掛けて投下し始めた。
(リリス様! ご無事ですか? スケルトン隊、これより援護に入ります)
ーピュン!ピュン!ピュン!ー
死神配下のスケルトン達はそれぞれ弓矢を構えると独自の判断で矢を射掛け始めた。
ーズバッ!ー
「リリス樣! 大丈夫ですか?」
フィーナのところまでやってきた死神は手にしている大鎌を振るうといとも簡単に触手を切り裂いてフィーナを開放した。
「先生! 早くこちらへ!」
開放されたが水面に叩き付けられたダメージにフィーナが動けずに居ると、エイミを除くセシル達パーティーがフィーナの事を担ぎ上げて大急ぎで岸まで避難させてくれたのだった。
(…………)
目まぐるしく変わる眼の前の状況にフィーナは自分がどうするべきか分からなくなっていた。しかし、このまま流れに任せていて良い話では無い。
イソギンチャクが本当にレアの代行者としての勤めが任されているのであれば触手を振り回すだけの実力であるはずが無いからだ。
(総員、街の広場まで後退! 急いで!)
フィーナが念話での指示を終えるより先にイソギンチャクが新たな動きを見せた。触手の先端を手当たり次第にガーゴイル達に向けたかと思うと
ーパアアァァァ!ー
触手の先端から明るく輝くレーザーの様なモノを撃ち出し始めた。ガーゴイル一体に対し二本以上の触手を使ってあらゆる方向から攻撃する事で、上空を飛び回るガーゴイル達は回避に専念するしか無く一方な戦いになっていった。
そしてそれは岸辺のスケルトン達も同様で、レーザーを回避できなかった何体かのスケルトンは瞬時に消滅させられてしまった。
「駄目です! 皆、早く逃げて……!」
眼の前のイソギンチャクは見た感じ湖に近寄りすぎなければ無害とは言わないまでも被害は抑えられるはずである。
「セシルさん達も早く護送車まで避難して下さい! エイミさんは大丈夫ですか?」
フィーナは自分が回復の奇跡の一切を使う事が出来ない現状を自覚した今、気がかりなのは溺れさせられたエイミの存在だった。
「だ、大丈夫です。エイミはショックは受けているみたいですけど、ちゃんと息はしています」
フィーナを運ぶ手伝いをした後でエイミの介抱に戻っていたエルナが答えてくれた。
「では、エイミさんを連れてあなた達も避難して下さい! あれは私が対処します!」
フィーナは叩き付けられたダメージが残る中、フラフラと立ち上がりガーゴイル達が対処中のイソギンチャクの近くに戻ろうと歩き始めた。
「待って下さい! あんな化け物相手にどうやって……」
「そうですよ! 先生が強いのは分かりますけど相手は神様なんですよ?」
そんなフィーナの腕を掴んでセシルとミーシャが引き留めを始めた。確かに無策で突っ込んでも二の舞いを果たすだけだ。
イソギンチャクに自分が天界の女神である事を分からせる事が出来れば簡単に話は終わるのだが……今のフィーナに妙案は浮かんでおらず
「放っておいては被害が増えてしまうんです! 今、あれをなんとかしないと……」
スケルトン達は退避を始めたがガーゴイル達は退却する素振りがない。実のところフィーナが逃げないからガーゴイル達も退却しないのだが……。
悪魔の身体になったからとは言っても闇の力だけでは無く他の力も使えたはず……現に電撃弾は苦も無く使えた覚えがある。
光属性の相手に闇属性の攻撃は効果が薄いはずだが、火水風土の四元素に代表される攻撃魔法なら或いは……。
「離れていて下さい! 魔法を使います!」
フィーナは腕を掴んで引き留めようとしているセシルとミーシャの二人に警告し両手に神力を込め始め
「ライトニングボルト!」
両手を組み前に突き出したフィーナは可能な限り巨大な雷の束をイソギンチャクに向けて放った。
ードドオオオォォォン!ー
「ぐおおおおっ!」
雷が空気を伝わる大きな音が辺りに響き渡ると同時に雷が命中したイソギンチャクが大きな悲鳴を上げ明らかにダメージを受けた様子を見せた。 やはり水棲系には雷は有効打であるらしい。
(これなら勝てる……!)
勝ちを確信したフィーナが二撃目を溜め始めると、そうはさせじと痺れた身体でイソギンチャクが無数の触手の先端をフィーナに向け
ーピュンピュンピュン!ー
レーザーの乱れ打ちを始めた。触手の有効半径から離れているフィーナには全方向からの包囲攻撃は出来ないが、ある程度の多方向からの攻撃なら出来るとばかりに、イソギンチャクは全力でフィーナを狙い始めた。
「くうっ!」
多数の触手に多方向から狙われたらフィーナは回避に専念せざるを得ない。回避ついでに溜めながらと思われるかもしれないが不慣れな行動をしつつ他の行動もするというのは中々難しいものである。
例えるならお手玉をしながらドッジボールをする様なもので、仮にお手玉の俵を見なくてもひょいひょいこなせる熟練者であろうと四方から狙われるボールを避けるのが難しい事は想像できるだろう。




