二度ある事は……
翌日、野営中に襲撃を受けたフィーナ達だったが予定が遅れているいう事で休息もそこそこに旅路を再開していた。
本日は山間部の街道を馬車隊がゆっくりと走る行程だった。
山肌に木々は無く、資源採取の為だろうか……山々には抉られた様な跡が沢山あった。
そんな荒涼とした風景を眺めながら、フィーナは同乗しているエドワードに
「あの、盗賊の襲撃が二回続いているんですが、本当に心当たりは無いんですよね?」
フィーナがこう言うのも無理は無い。貴族令嬢やお姫様の馬車が襲われるのが日常茶飯事な異世界であろうと、こうも立て続けに襲われるのには納得がいかなかった。
日を跨いで中一日とかならまだしも……それでも納得は出来ないが、昼間襲われその日の夜にも襲われでは作為的な何かを疑いたくもなるというものだ。
「私には皆目見当が付きません。あなたのお迎えの日時はおろか移動ルートすら極秘中の極秘です」
フィーナの目にはエドワードが嘘を付いている様には見えない。これが演技だとするなら大した役者っぷりである。
「でも、私達は二回も襲われているんですよ? それに二回とも盗賊達の目的はディアナ様の誘拐です。どうして滅多に森からお出になられないディアナ様の予定が知られてるんですか?」
盗賊の生き残りから聞き出した情報も踏まえてルシアがエドワードに追い込みを掛ける。
「わ、私にもさっぱり分からないんです。本当に……」
エルフ二人に詰め寄られエドワードはタジタジになってしまった。ガックリと肩を落とし小さくなりながら
「ここまで状況が揃ってしまっては我々の落ち度である可能性が高いと思います。エンダール王国を代表してあなた方にはお詫びを申し上げたい」
馬車の中で土下座する勢いで謝罪してきた。フィーナもルシアも彼のそんな姿を見たかった訳ではなく
「ちょちょちょ! そういうのはやめて下さい! 私は原因を知って対策を立てたかっただけですから……」
「そーですよ! ディアナ様の言う通りです! 私は今後も襲われる可能性があるのかどうか知りたかっただけですから!」
フィーナとルシアが慌ててエドワードの土下座を止めさせる。こんな事がエンダール王国側に知られてしまえば明日の新聞の見出しが【エルフの王女!馬車内でパワハラか!土下座強要の真実!】になってしまい大炎上不可避となる。
これはフィーナだけの問題では無く本物のディアナ王女はおろかグリンウッド王国の評判はもちろんの事……俯瞰して見れば、今後の両国関係の火種となってしまう恐れがある事は明らかである。
「とにかく、あなたの下から外部への情報漏れが無いのならエドワードさんの上から漏れているしか無いと思うんです。私達の今回の移動を知っているのは誰なんですか?」
やや決めつけとも取れるルシアの意見だがフィーナもそれには同意見だった。
こうまで自分を標的に盗賊達が襲ってくるのをただの偶然と片付けるには無理がある。
「あの……素朴な疑問なんですが、私ってエンダール王国の皆さんにどう思われているのでしょうか?」
ここでフィーナが話題を変えてきた。
「国賓として迎えて頂けるのは大変喜ばしい事なんですが……、もしかしてご無理をなさってたりとか……国民の皆さんに嫌われてるとか……そういう事があったりほしませんか?」
フィーナはエンダール王国におけるディアナ王女の受け止め方をエドワードに聞いてみた。
もし、彼女が妬みや嫉みの対象となり変に恨みを買っているのなら盗賊達の襲撃が重なる可能性が万に一つも無いとは言えなくなるからだ。
「そんな事はございません。ディアナ様は……その、凛とされていて……可憐でいらっしゃいます。今回初めてお会いして改めて実感させて頂いた次第でございます」
エドワードは顔を赤くし語尾が小さくなりながら本音を話してくれた。どうやら今回より前にもエンダール王国民の前にディアナが姿を見せる機会があった様だ。
彼の話によるとディアナが特別エンダール王国民から嫌われていたとかそういう話も無かった様だ。
そうなると怨恨やそういう動機から来るものではなく、今回の盗賊達による度重なる襲撃は作為的なものである可能性が高い。
(…………)
しかし、軍の少佐と言えばエドワードの年齢から考えても出世コースまっしぐらな人物のはず。
自分に何かあれば彼の経歴に傷が付くどころか閑職に追いやられてしまってもおかしくはない。
今、馬車が通っている山間部を無事に抜ければエンダール王国王都まですぐのはず。そうすれば流石に襲撃の可能性は少なくなると思う。
フィーナが馬車のカーテンの隙間から外を覗くと、今までと変化の無い荒れ果てた禿山が連なる光景が目に入った。
「エドワードさん、この付近の山って随分荒れてますけどこれは……?」
フィーナが外の風景を見ながらエドワードに尋ねると
「これは小田の政策によるものです。我が国に資源がある事を知ると大々的に山林の開発に力を入れる様に国王陛下に進言したのです」
ため息混じりに答えた。彼の話ぶりにどこか引っかかるものを感じたフィーナが外を見るのを止めて窓から視線を移そうとしたその時
(い、今のは……?)
視線の端、街道横の山に繋がる側道の影に何か動くものを見つけた。 フィーナが再度よく確認しようと外を見た瞬間
「いけない! 伏せて!」
フィーナは隣に座るアレクに覆い被さる様にして身を低くさせつつルシアとエドワードにも伏せる様に促す。
流石に三度目ともなると襲撃に対する対応も二人ともすんなりこなせている。
「襲撃だ! 応戦しろ!」
外からクラックスが指示を出す声が聞こえてきた。馬の鳴き声や護衛の騎士達の叫ぶ声も聞こえてくる。
身を屈めていたルシアが窓から外の様子を確認すると
「ちょっと、何回盗賊に襲われれば気が済むんですか? 一行程で三回なんて有り過ぎですよ!」
再び身を屈めて隣のエドワードに抗議していた。彼女の言う通り正に三度目となる盗賊達の襲撃だ。
「わ、私に言われても困る! 盗賊の襲撃などそれほど頻繁にあるものでは無いのだ!」
どうやら今回の旅は盗賊襲撃の当たり回であるらしい。




