行き遅れ
「男性陣は極力件の冒険者達の前には晒さない様に! 彼女達の説得には私自らがが出ます!」
フィーナは彼女達の声を聞いてピンと来ていた。だが、異世界にもそういった女性が居るとはにわかには信じられなかったが。
ドライアードから冒険者達の特徴は聞いていたが、異世界で婚期を逃し若い男性エルフに執着する中年女性が居るとはフィーナの想像を超える現実だった。
「族長さん! この集落に最近人間の国から帰って来たばかりのエルフの若い男性は居ますか?」
フィーナの質問に族長は何か思い当たるフシがあったらしい。
「そういえば……アルトリウスが出稼ぎからつい最近帰ってきとりましたな」
「すみませんが、その方にお会いしておきたいのですが……そのアルトリウスさんはどちらに?」
時間がないせいもあってかフィーナの判断は迅速だった。族長はフィーナに御足労願うのは申し訳ないと彼を呼んできてくれる事となった。
ーガチャー
すこしの質問、族長の自宅で待っていると家の扉が開き二人のエルフの男性が入ってきた。
一人は当然風の部族の族長だか、もう一人は栗色の髪をしたエルフの若い男性でかなり線が細い優男であった。世界が違えばアイドルとして通りそうな程の美形である。
「あ、あの……王女様がボクに何かご用でしょうか?」
少しオドオドと話してきたアルトリウスは気弱な性格をしている様だ。フィーナは彼に警戒心を抱かせない様ににこやかに話し掛ける。
「初めまして、あなたはアルトリウスさんですね? 私はディアナです。どうぞよろしくお願い致します」
全力の王女の演技で自分を作りまくったフィーナの物腰の柔らかさはアルトリウスに通じた様だ。彼の表情から明らかに緊張の色が薄くなっていく。
「は、はい。こちらこそ」
彼は確かに美形である。人間の女性に好かれてしまうのも仕方がないだろう。だが、一つ確認しておかなければならない事がある。
「アルトリウスさん、貴方は人間の街に出稼ぎに出ていたとの事ですが、その街でお知り合いになった方は居ませんでしたか?」
フィーナは今もこの集落に接近を続けている三名の冒険者の詳細は伏せて彼に尋ねてみた。しかし
「え? 僕は臨時の弓兵として冒険者のパーティーに参加しただけで……知り合いという程の人は誰も……」
彼はフィーナの質問にいまいちピンと来ていない様だった。なんだかもう大体事情が飲み込めてきたフィーナは
「わかりました。それでは本日は私が良いと言うまで屋内に隠れていて下さい」
「そ、それはどういう……?」
アルトリウスに屋内待機を指示した。突然の話に彼は全く理解が追いついていない様だったが
「に、人間だ! 人間が来たぞー!」
家の外から集落の者の大声が聞こえてきた。
「思ったより早かったですね。私が彼女達にお引き取りをお願いしてきます。アルトリウスさんはくれぐれも表に出ない様に」
フィーナはそう言うとアルトリウスと族長に軽く会釈をし族長の家を飛び出していったのだった。
集落を走るフィーナは近くに居たエルフに件の冒険者のいる方向を聞きながら冒険者に近付いていく。
(あ……)
遠目でも分かる女性の冒険者が三人、森の向こうから集落の方にやってくる女性……の姿が見えた。戦士が二人、魔術師が一人の編成だ。
ドライアードからは彼女達の容姿は聞いていなかったが、声の感じからある程度の年齢は察していた。
案の定、三人の冒険者は異世界の物差しで見ればいずれも年齢をかなり重ねている様に見える。
ポジティブな捉え方をするならかなりのベテラン冒険者であろうと思われる。
しかし、件の冒険者達の姿はフィーナの予想を遥かに超えていた。
ある程度の年齢を重ねた者達だろうとは察していたが、三人の先頭に立っていたのはスモウレスラーの様な体型をしたボンバーヘッドの戦士の女性であった。年齢は四十は超えているだろう。
その身体にはビキニアーマーを装備している以外には素肌を晒しており、背中には棍棒の様なモノを背負っている。
(…………)
彼女のは装備はビキニアーマーと言うよりまわしを付けている様にしか見えなかった。
むしろスーパーなんとかな感じで頭突きで宙を飛んで今にも突っ込んで来そうな勢いであった。
彼女の後に居るのは同年代の女戦士でありこちらもビキニアーマー装備の戦士であった。
筋肉質なレスラー体型であり男と間違えてもおかしくはない姿をしていた。
もう一人はいかにも魔女といった感じの二人とは対照的なガリガリ体型の年配の女性だった。そんな三人の女性にフィーナは大声で
「そこまでです! ここはエルフの集落であり人間であるあなた達が立ち入れる場所ではありません!」
静止を呼び掛けた。三人は突然現れたフィーナに対し
「なによ、アンタ。私はアル君に用事があって来たの。ここに居るんでしょ?」
ドスンドスンと地響きが聞こえてきそうな足取りでスモウレスラーはフィーナに近付いてきた。
そんな彼女達にフィーナは
「私はこのグリンウッド王国の王女、ディアナです。あなた方には不法入国の疑いがあります。速やかにお帰り下さい」
言葉遣いこそ丁寧なフィーナの物言いだが、そんな彼女の何かが気に触ったのか途端に不機嫌そうな顔をしてきた。
「アタシはただアタシの王子様のアル君を探しに来たの。ここに居るんでしょ? アル君」
スモウレスラーがアル君連呼する度フィーナは複雑な気持ちになっていった。
(…………)
アルとはアルフレッドの愛称だったし、アル君とはフィーナ達の下宿先だった宿屋の娘のリーシャが使っていた呼び方である。
使い手が変わるだけでこれほど言葉の印象が変わるとは……アルトリウスには何の罪も無いのだがフィーナは彼女らしくもなく少しイライラし始めていた。
「アル君とは本名ですか? 源氏名ですか? その様な方はこの集落のみならず国内には居ません」
今度は少々イライラした態度で言い放ってしまった。そんな
フィーナの態度が気に触ったのか、それとも彼女の整った容姿が妬みの対象になったのか地団駄を踏みながらスモウレスラーは威嚇を始める。
ードスン! ドスン!ー
「アル君って言ったらアルトリウス君に決まってるだろうがぁ! 大体アンタ何様なのよ!」
王女様である。お飾りではあるもののこの国における最高権力者であるのは間違い無い。




