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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
天界の日常編(弐)
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対案

 天界でもそろそろ夜明けが近付いていた。もちろん便宜上の区切りにしか過ぎないが始業時間が近付いている事に変わりは無い。

 フレイア的には小田のあまりのやりたい放題ぶりに、やけ酒したいところの様だった。

 自分が彼を異世界に送り込んでしまったのでその失態と迂闊さを忘れたかったのだろう。

 だがフィーナが乗り気で無かったために飲み明かしは今回は無しとなった。

「とりあえず、私の役目は小田信永が率いる連合軍から帝国を守る事ですよね? 後世の歴史に不都合をもたらす亊無く……」

 フレイアはフィーナの言う事にうんうんと頷いている。

 自分の役割を心得ている部下であるなら、全面的に仕事を任せてしまっても差し支えは無い。

 むしろ小人の靴屋よろしく仕事を綺麗に片付けてしまうのだからフィーナの存在はフレイアにとっても非常に有用である。

 前任者と違いフィーナは超現場主義なのも有り難い点であり、不具合が起きれば彼女はサッと現場に出て解決してきてしまう。

「それで、帝国軍と小田の連合軍との戦いはどうなるんですか?」

 フィーナが肝心要の帝国軍と連合軍の戦いについて尋ねてきた。

 それに対しフレイアは神力で戦場と両軍の配置を記した簡略した映像を二人が見やすい位置に大きく映し出した。

 両軍の歩兵は凸型で表記されており兵の総数に合わせて大きさで差が分かる様になっている。凸の大きさが帝国軍の方が二倍以上大きく長く映し出されており歩兵の数においては帝国軍は圧倒的に見えた。

騎兵においては三角形で表記されており、騎兵はどちらも歩兵隊の両サイドに置かれていた。

 騎兵の数は歩兵とは逆で連合軍の方が帝国軍を一・五倍から二倍程度上回っている。帝国軍が騎兵を左右同数に振り分けたのに対し連合軍は騎兵戦力を左翼に集中させ右翼側は帝国軍と同程度に抑えていた。

 魔法兵団についてはこちらも凸型表記がなされており、両軍ともほぼ同数が歩兵隊の後方に位置している。

 しかし、歩兵の数が多く縦に長く伸びた陣形となったためか、帝国軍の魔法兵団は陣形の遥か後方に位置する結果となってしまった。

 この配置図を見たフィーナは一つの知識に思い至った。

「これって、カンネー……?」

 フィーナの個人的な知識ではなく女神としての一般教養の中にそれは含まれていた。

 古代のローマ帝国とカルタゴという商業国の間で行われた会戦の一つである。

 細かい説明は省略するが、数で劣るカルタゴ軍がローマ軍を相手に完全勝利とも言って良い包囲殲滅戦を決めた歴史的にも稀有な戦例である。

 しかし、陣形を真似るだけで包囲殲滅が出来るのなら苦労は無く稀有な例ともなる訳が無い。

 そもそもとして、カンネーでは両軍の練度に違いがあったはずで、傭兵を多数雇い入れていたとは言え経験豊富な歴戦のカルタゴ軍に対し、新兵が多かったと言われるローマ軍の戦いの結果が包囲殲滅戦である。

 小田信永の率いる連合軍や帝国の現状とは事情が全く違う。

 まず、小田の連合軍に関しては練度はさほどでも無いはずなのだ。エンダール国の兵士達は常備軍としての訓練も最近になって始めたばかり。

 その数も一万どころか五千すら越えていないはずである。

 彼の歩兵戦力はそれら自軍とガイゼル国の兵士とを合わせた約二万でしかない。

 そんな練度では、ハンニバルが見せた包囲殲滅戦を行える程の左右への展開と敵の包囲に向けた戦闘機動が行えるとは到底思えない。

 一方、帝国軍についてだが敵がタイラントスパイダーの大型の亜種であるキング相手ではあるが、そのキングを包囲するという練度は見せていた。

 相手が人と化け物の違いはあれど軍隊としての練度を計るには十分である。

 そんな事を頭の中で考えていたフィーナにフレイアが話を続ける。

「帝国軍は一丸となって連合軍を押した。ここまでは史実のカンネーと一緒だ」

 フィーナがかつて居た紀元前の世界であっても異世界であっても、勝利条件は敵軍の陣形を完全に崩す事である。

 一旦崩壊した軍勢を立て直すのは容易では無い……と言うよりは不可能に近い。

 戦況を映し出している画面にもお互いの凸がぶつかり合い帝国軍の凸が押していて優勢に見える。

 騎兵の動きに関してはカンネーと同様で数に勝る連合軍左翼が容易く帝国軍騎兵を打ち破り、互角の戦いを続ける連合軍右翼の騎兵の援護の為に帝国軍の後方を大きく迂回している。

 その時、連合軍の凸から小さい凸が分離し左右に広がり始めた。中央の歩兵が敵を抑えている間に後続が左右に展開し包囲に入るのはカンネーのカルタゴ軍と同じ動きと言える。

 いつの間にそこまで軍隊の質が上がったのかフィーナが困惑していると

「左右に展開したのはエルフの弓兵達だ。彼らだけは最初から経験豊富だからな。王女の命令通りに動くなど造作もない。」

 前進を続ける帝国軍の勢いも手伝って連合軍は鶴翼の陣形へと変わりつつあった。

 また、エルフの弓兵が左右に展開した事で厚みが減った歩兵隊の後方に魔法兵団が付いた。

 彼らは自軍の歩兵達の頭を越える様に次々とファイアーボールを撃ち込み始める。

 被害が出始め前進が止まってしまった帝国軍はエルフの弓兵によるクロスファイアにも近い矢の嵐と雨の様に落ちてくるファイアーボールに次々と数を減らされていく。

 後退しようにも後方からは騎馬隊に攻め立てられており逃げ場は前しか無い。左右からは遠距離からのエルフの矢に晒される。

 前方には重装歩兵が行く手を塞ぎその後方からはファイアーボールが雨あられと降り注いでくる。

 その頃には歩兵隊の後方に居たはずの帝国軍魔法兵団は影も形もなく消え去っており、退却したか騎兵の餌食となったかであった。

 もはや帝国軍に出来る事は無く死ぬのを待つか、死ぬ気で包囲を突破するかの二択しか残されていなかった。

 多数の小さい凸に別れた帝国軍は無秩序に方々へ散り始めたがそのいずれも脱出は叶わず消えていく。

 そして日が落ちる頃になってようやく戦闘は終わった。帝国軍の凸が消えた事によって。

 概ねカンネーと同様の結果となってしまったアカシックレコードから、フィーナ達は世界を改変しなければならない。

 その回答を見つけ実践に移すのが今回のフィーナの仕事となる。

(…………)

 フィーナが頭の中で対案を探っていると

「この戦いが終わった後の小田のコメント聞いてみろ。メッチャ腹立つから」

 フレイアが異世界の歴史から抜き取ってきたであろう該当の音声を流し始めた。多数の歓声の中から小田の声が聞こえ始めてきた。

「あれぇ? やりすぎちゃいました? でも戦争なんだから仕方ないっしょ。弱いなら出てくんなってカンジ? だって……」


ーガシャン!ー


 そこまで再生したところでフレイアが音声データを床に思い切り叩きつけていた。

「こいつ、戦争を何だと思っているんだ! いっぱい……いっぱい死んだんだ! 遊びじゃないんだぞ!」

 フレイアは叩きつけた音声データを何度も踏みつけている。音声データさんは自分の仕事を果たしただけなのに、なんとも不憫である。

(これは……なんとかしなければなりませんね)

 一方のフィーナも好ましくない未来に対し改変への決意を新たにするのだった。

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