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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
天界の日常編(弐)
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転生者達

 宇宙人以降、何人かの異世界転生候補者がフィーナの元へとやってきた。

 若くして病死してしまった二十代半ば位の好青年、イジメを苦に命を絶ってしまった薄幸な女子高生などである。

 彼等の様な、本人の意に反して天界に来てしまった者にはフィーナは出来る限り優しく時間を掛けて接した。

 希望を聞き、簡単な飲み物まで提供する徹底ぶりである。そこでも前々回の出張で培われたメイドとしての経験が生きていた。

 紅茶の淹れ方、礼儀作法、本当に女神が本業ですか?と、問いたくなる位に様になっていた。

 青年も女子高生も残してきた家族の事を気に掛けていたが、家族のその後をダイジェストで見せる事でどうにか納得してもらい、異世界への転生を受け入れて貰ったのだった。

「それでは、次の方どうぞ〜!」


ーブウゥゥゥンー


 出だしこそ躓いたが二人連続で優良魂だった事に気を良くしたフィーナは続けざまに次の魂を招き入れた。法陣を展開し魂の到着を待つ。

「あの〜、ここはどこなんでしょう?僕は一体……」

 法陣から現れたのはサラリーマン風の若い男性だ。カバンを持参しているところを見ると自身が死んだ事には全く気付いていない様だ。

「ここは天界……。現世で亡くなられた者達がやってくる場所です。どうぞこちらへ……」

 フィーナは男性をソファーに座る様に促す。男性は言われるがままソファーへと腰を下ろした。

 キョロキョロと辺りを見ていて落ち着かない様子だ。こういう時の反応も千差万別なのが面白い。

 おどおどする者、自宅の様に寛ぐ者、お客様然としてドリンクを要求してくる中年女性、キャバクラか何かと間違えている老年男性などなど……。

 年齢でもある程度傾向はあるのだが、若年層は比較的礼儀正しく歳を重ねる事に横柄さが増していく。

 年齢が増す事にわがままになるというのをフィーナは肌で実感していた。

 魂達に脳細胞がある訳では無いのだが、彼らは死ぬ直前の自身の状態が色濃く反映されるので生前と大差ないのが通常である。

 まぁ、ミレットの様な例外が無い事も無いのだが。そういえば彼女が子猫の姿をしている理由を聞いた事が無かった。

 アルフレッドの未来に関わるかもしれないだけに無意識に聞くのを避けていたのかもしれない……。

「あの〜、すみません。女神様……ですか? まさか本物?」

 ソファーに腰掛けた男性が意を決した様に尋ねてきた。今のフィーナの格好はどう見ても女神な姿をしている為『はい』としか答えようが無い。

 唯一耳だけはエルフ耳のままなのだが、全体的な女神感からすれば些事である。

「はい、天界の女神でフィーナと申します。よろしくお願い致します」

 フィーナがにこやかに挨拶した途端男性は豹変した。

「イィヤッホォー! 異世界転生だぁー!」

 男性はソファーから立ち上がるとガッツポーズをしたり自身の頬をビンタして痛がったりと大忙しだった。

(…………)

 どうやら彼も向こう側の人間だった様で、フィーナの連勝はニでストップしてしまう事となった。

 最近の傾向から見れば連勝自体が稀なのだからいつもに戻ったと言えばそれまでなのだが、それでも気が重い話である。

 フィーナは男性の生前が記載された資料に目を通しながら話し始める。

「武藤貴俊さん、あなたは既にご存知かもしれませんが亡くなられました。死因は……過労死ですね」

 今回の男性、武藤貴俊の死因は過労死だった。激務をこなし帰宅して眠ったら天界に来ていたという事の様だ。

 生前の彼はゲームと小説好きと言うだけで別段罪を犯したり迷惑かけっ放しで亡くなった訳でも無く、自己完結して亡くなってしまった不幸な青年と言える。

 それならばとフィーナは彼の希望を聞いてみる事にした。

「武藤さん、あなたには異世界に転生して頂きます。転生先で天寿を全う出来る様に努力するのが務めとなります。それで何かご希望はありますか?」

 聞いておいて何なのだが、質問に対する答えは見えていた。

「じゃあ……勇者やってみたいんですけど……ありますか?」

 おや?予想と違う?これにはフィーナも驚きを隠せなかった。過去に主役の代名詞でもあった勇者だが近頃は主人公を貶めるいわば敵役としての立ち回りが増えてきた様に思う。

 レアが司る多くの異世界のどこかには正統派勇者の世界もあるのだろうが……、思えばフィーナが前々回に出張で降りた異世界、アルフレッドの時代より千年前に勇者としてソーマが降り立っているという事実もある。

 武藤氏が勇者として生を受け世界をよりよい方向に導けるのなら天界にとっては有益である。

 問題は勇者に問題がある異世界からの求人があるかどうかなのだが……。

 フィーナは自身が前回の出張中にレアから送られてきていた求人書類に一枚一枚目を通していく。

 しばらく書類と格闘していたフィーナに一枚の求人募集が目に留まった。



【急募】

 あなたも勇者カイザーの人生を体験してみませんか?

 実力が認められ国王から勇者と認められたカイザーは冒険の最中パーティーメンバーの役立たずの一人に追放を言い渡し、そこから転落人生が始まってしまいました。

 国王からも悪事のスケープゴートとされてしまいますが、

そんな不幸な人生をあなたの力で改変してみませんか?


あなたの力でレッツざまぁ返し!



 勇者なのかカイザーなのか……名前だけでも大渋滞を起こしている勇者だが、中々に問題のある転生先の様だ。

 求人内容の広告文はレアが記載したモノのはずだが、これに惹かれる転生者が居るとでも思っているのだろうか?

 フィーナは渋々武藤氏に件の求人書類を渡してみる。他の勇者求人は無いかと書類に目を通しながら彼の様子を窺っていると

「この転生先、行かせて下さい!」

 ああ、やっぱり無理か……と、フィーナが思っていたところにまさかの了承の返事である。

「え? 良いんですか?」

 自分の耳に自信が持てなくなったフィーナは思わず聞き返してしまったが、彼の決意は固い様だ。

「なんか面白そうだし、やってみます!」

 第一印象とはまるで違った結果となった。彼は件の異世界行きに他に注文を付ける事無くレアの元へと旅立っていった。

 粗暴な性格の元の勇者の魂と武藤氏の魂が融合すればもしかしたらもしかするのかもしれない。

(うーん……)

 一目で人を判断する事の迂闊さを学んだフィーナであった。

この小説はフィクションでありうんぬんかんぬん。

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