作戦会議
「これは砂漠の時の事を思い出して閃いたんだけどね」
イレーネの思い付いたプランはこうだ。まず、フィーナのウンディーネに水を大量に砦の上空に集めて貰い、それを砦に落とし水浸しにする。
そこにイレーネが全力でライトニングボルトを撃ち込み水に触れているオーガ達を感電させて倒す。
仮に倒しきれなくても行動不能に追い込む位は可能なはずなのでザック達戦士が砦に乗り込んでオーガ達にトドメを差して回って貰えば確実という事らしい。
さらに安全策としてフィーナのノームに砦を崩してもらえばオーガ達を生き埋めに出来て安心だろうと言う事の様だ。
「砦相手なら遠距離でも偏差射撃の必要も無いから完璧じゃない?」
イレーネの言葉に意見を述べる者は誰も居なかった。ザック達のプランはイレーネの案を踏襲するとして、次の議題はフレデリカ達をどうするかであった。
経験の少ない彼女達を連れて行っても危険なだけで価値ある経験など得られないだろうと言うのがザックとガイの見解だった。
しかし、その意見に異を唱えたのは他でもないフレデリカ達メンバーだった。
「私達も参加させて下さい! オーガ達と戦うのは無理でも道中の護衛なら出来ます!」
フレデリカは自信を持って応え、他の三人もフレデリカの意見に反対の意志を持っている者は居ない。
彼女達の熱意と意気込みにザックは折れざるを得なかったが、同行に当たり条件を提示した。
「俺達がヤバくなったとしても、お前達は迷いなく逃げる事。俺が退却の指示を出しても逃げる事……だ」
冒険者としてはベテランに差し掛からうとしているザックの言葉はフレデリカ達新人に届いただろうか?
「……わかりました。皆、行こう」
表面的にはザックの提案を受け入れたフレデリカ達は明日に備えて宿で休む為に冒険者ギルドから退出して行った。
残されたザック達の次の議題はビリーの処遇に関する事である。
今回の一件から鑑みるにビリーは放ったらかしてもトラブルを呼び込む可能性が高いという事が証明されてしまった。
従って今回のオーガ討伐にも問答無用で連行し、スカウトとしての立ち回りをみっちり仕込むという事で話が付いた。
(私が……やるんですよね)
当然、仕込むのはフィーナしか居ない訳だが。
話がある程度固まった事で明日の早朝ここに集まる事を約束しパーティーメンバーは各々、夜の帝都に消えていった。
宿を取ったフィーナは明日の仕事について考えてみる事にした。
(少し疲れましたね……)
レザーアーマーを外しグローブとブーツも脱いでラフな格好でベッドに腰を掛け、天界で見た自分がオーガに殺される光景を事細かに思い出す。
(…………)
自分が殺された場所は砦の敷地の中だった様に思える。地面に瓦礫の様な物が沢山転がっていたのをよく覚えている。
また、オーガは一匹で周りに沢山居た様には見えなかった……はずだ。
そうなるとイレーネの作戦はある程度首尾良く進んだ未来だったのかもしれない。
話の前後は分からないが自分は何かの拍子にオーガに捕まってしまったのだろう。
それを避けるには単純に砦に足を踏み入れなければ良い。少なくともこれだけでフィーナが見た未来は避けられる。
また、もし万が一にもオーガに捕まってしまった時には、砂漠でレアが見せたノームによる土を利用した防御魔法を使えばオーガの攻撃での即死は避けられ、歴史を変えられるのではないだろうか?
或いはレアがサンドワームを切断してみせた風の精霊シルフのウインドカッターを試してみるのも策の一つだろう。
落ち着いて考えてみれば今のフィーナにも出来る事は沢山ある。最悪、神力で光弾を使えばなんとかなる様に思えてきた。
普段から楽観的な傾向が強いフィーナだけに対抗策の見込みが立てば悩みなど無かった事になってしまう。
「サラマンダーさん、今日はありがとうございました。お休みなさい」
フィーナはサラマンダーにお休みなさいを告げるとベッドに横になり明日の戦いに備えるのだった。
翌朝、天気は快晴になりそうな空模様だった。宿の窓から外を確認したフィーナは装備品を身に着け宿を後にした。
冒険者ギルドへの足取りは昨日よりは重くは無い。オーガ相手でもなんとかなるかもしれないという希望が彼女の心の負担を軽くしていた。
フィーナが冒険者ギルドに到着するとイレーネ以外のザック達パーティーメンバーとアリッサ以外のフレデリカパーティーのメンバー、そして昨日の戦士風の男達のパーティーがすでに到着していた。
戦士風の男達の編成は戦士二人に神官一人、魔道士一人だった。しかも全員二十代程の男性陣でありフレデリカ達パーティーとは対照的であった。
フィーナが着いた時には彼らの雰囲気は微妙なモノとなっていた。戦士風の男のパーティーとフレデリカ達のパーティーとが一触即発な雰囲気であった。
「なんだよ。人数ばっかで女子供ばかりじゃねーか」
戦士風の男の仲間の戦士の一人が悪態をついた。
「そう言うな、アンドレ。お嬢さん方のお守りくらいやってやれ」
魔導士の男が軽口を叩く。彼は濃緑色の帽子とローブを着ており尖った顎と丸メガネが特徴の糸目である。
「ジェームス、あまりアンドレをからかうなよ。こいつは単純なんだ」
戦士風の男が魔道士に話し掛けている。魔道士の名前はジェームスと言う様だ。
「デビット、いつまで俺達は待たされるんだ?」
今度は神官が待ちくたびれたと言わんばかりに戦士風の男に話し掛けている。
これからオーガ討伐だと言うのに彼らには緊張している素振りが無い。
「おい、そっちはいつになったら集まるんだ? いつまでも待ってらんねぇぞ」
デビットと呼ばれた戦士風の男がザック達に話し掛けてきた。後はイレーネとアリッサがくるだけなのだが……
「お待たせ〜!」
イレーネがアリッサを伴ってようやく冒険者ギルドにやってきた。彼女達は道具屋にでも寄ってきたのか大荷物を背負っている。
「ゴメンゴメン。さすがに朝早くはお店開いて無くてさ〜」
かなりの大荷物を背負ってきたイレーネとアリッサが何を持ってきたのかはよく分からない。
「やっと来たか。それじゃ出発するぞ」
デビットが出発を宣言するとザック達はゾロゾロと冒険者ギルドを後にするのだった。




