メンバー達との別れ
救護所に運ばれたフィーナだったが外傷も多少の切り傷と擦り傷くらいだったので同伴していたマリーのヒールで全て片付いてしまっていた。
「ご心配お掛けしました。皆さんありがとうございました」
フィーナはザック達メンバー全員に頭を下げた。彼らが助けてくれなかったら自分はここには居られなかったからだ。
「気にすんな。仲間だろ?」
ザックの言葉にガイもウンウン頷いている。マリーは治療を続けてくれているし、イレーネは日大タックルばりに抱きついてきてフィーナに少なくないダメージを負わせてきた。ビリーは
「地面の下に敵が居るのは分かってたんだからさ〜。そこは注意して避けなきゃだし。なんてーの? 大地の声に耳を傾けるみたいな?」
多分本人も出来ないだろう事をフィーナに講釈している。
「お前は上から目線でよく言えるな。だったら次の仕事の索敵と解錠はちゃんとやれよ? ミミックくらいは見破れるんだろうな?」
イキリ散らかしているビリーにザックからのお叱りが入る。それとこれとは話が別と逃げるビリーに
「じゃあ今から平原出てって一人で散歩してこい。大地の声に耳を傾ければ分かるんだろ?」
ザックが半分死刑宣告の様な事を彼に告げると、その言葉を真に受けたビリーはガイの後ろに隠れてしまった。
その様が可笑しかったのかイレーネが笑い出すとフィーナも釣られて吹き出してしまった。
そしてフィーナの周りはビリーを除く全員の笑い声で満たされたのだった。
帝都に戻ったザック達は各々宿屋に落ち着く事になった。今回の報酬は冒険者達の自己申告と合わせ成果によって公平に分配されるらしい。
必要な申告はザックとイレーネですませてしまったが、フィーナはサラマンダー任せでほとんど何もしていなかったはずなので報酬に関して口を挟むつもりなど全く無かった。
それにキングも倒してしまいザック達が全滅しそうな雰囲気も今のところ無い。全滅のトリガーとなりそうなビリーの脱退も当分は無い様に思える。
(…………)
宿屋の二階部屋の窓から帝都の街並みを見ながらフィーナは物思いに耽っていた。正直、そろそろ天界に戻っても大丈夫なのではないかと思ってはいる。
このままザックやイレーネ達と関わっていたら、離れたくなくなってしまいそうである事も悩みの一つになりかけていた。しかし、何と言ってパーティーを離れるべきか……
冒険者のパーティーというのは利害の一致による繋がりが大半である。
しかし、同じ釜の飯を食うでは無いが共通の苦楽を共にした集団というのは結束が強くなるのもまた事実である。
命懸けで自分を救ってくれたザック達には何か恩を返したいし、彼らに対し何もしないままパーティーを離れる事にも抵抗はある。
「あなたにもお世話になりました。ありがとうございます」
フィーナは肩に乗っているサラマンダーにお礼の言葉を掛けた。サラマンダーとももうすぐお別れになってしまうのはやはり寂しくも思う。
考えてみればこのサラマンダーにはかなり助けられた。
「サラマンダーさんにお願いがあるんですが……聞いてもらえますか?」
フィーナが尋ねるとサラマンダーはキョトンとした顔をしている。
そして、フィーナの頼みを聞いたサラマンダーは彼女の言葉に静かに頷くのだった。
翌朝からフィーナは帝都の冒険者ギルドに来ていた。キング討伐戦の報酬を受け取るためにパーティーメンバー全員が集まるからだ。
冒険者ギルドのホールは報酬を求める冒険者達でひしめいている。
「冒険者の皆さんは列に並んでくださーい! 先着順じゃないので横入りとかはしないで下さいねー!」
受付嬢達の列を整列させる声がギルドのホールに響いてくる。
そんな混雑したギルド内でフィーナはなんとかテーブルの一角を陣取る事が出来た。
後は他のメンバーがやってくるのを待つだけである。彼女がサラマンダーの相手をしながら待っていると
「よう、早いな」
「フィーナさん、サラちゃんもおはよー!」
大きな袋を抱えたザックとイレーネがやってきた。
「ほら、どーお? 今回の報酬これだって。これだけあれば当分仕事しなくても大丈夫でしょ」
テーブルの上に置かれた大きな袋をペチペチ叩きながらイレーネが上機嫌で話しかけてきた。
「お、それが報酬か? 今回はたくさんありそうだな」
「沢山貰えたからって豪遊したりなんかしたら駄目ですよ? 将来の事を考えたら貯金とか自己投資をしないと」
報酬の入った袋を見て率直な感想を述べるガイと、そんな彼を諌めながら現実的な意見を口にするマリーの二人もやってきた。残るはビリーだけだが……
「皆、おまたせ! まだ分けてないよね? 今回は僕の取り分あるんだろ?」
人混みの間を縫ってビリーが息を切らせながらやってきた。果たして今回の報酬はどう分けられるのか……フィーナには皆目見当も付いていなかった。
全員が席に着いたところで袋から報酬の中身が出された。そのほとんどが金貨だったが中にはインゴットや装飾品も含まれており六人で分けるには前途多難が予想された。
まず、装飾品に飛びついたのがイレーネだった。マリーもチラチラ見ているあたり気にはなるのだろう。
「こいつは魔力増幅の効果があるらしいアミュレットだ。これは見るからに女性向けたし、イレーネかマリーかフィーナが持つのが最適だと思うんだが……」
ザックはギルドから受けたらしい説明を交えつつ誰に渡すかの候補を上げた。魔力にプラスの方向に働くのならイレーネが持つのが最適だろう。
彼女の戦闘力向上はバーティー全体の利益になる。しかしここで意外な人物が名乗りを上げた。
「そのアミュレット、僕にくれない? 育ててくれた婆ちゃんに恩返しがしたいんだ」
ビリーである。彼はメンバーの情に訴えかける作戦でアミュレットの所有権を主張してきた。
彼の話が真実ならビリーに所有権が行くのも仕方ないだろう。メンバー全員がそんな空気に流されそうになったその時
「ビリー、お前ずっと前のオーク退治の時、婆ちゃんの葬式とか言って参加しなかったよな?」
何かを不審に思ったザックが過去の話を掘り起こしてきた。それを聞いたガイも
「俺、ビリーに婆ちゃんの葬式だって言われて銀貨五枚貸した事あったわ。それマンドラゴラ探索の仕事の時だったからオーク退治の時とは時期が違うしな」
ガイも別の過去を掘り起こしてきた。それを聞いたビリーは冷や汗ダラダラとなってしまっている。それに釣られる様にマリーも
「そういえば危篤のお祖母様に使いたいってハイポーションを持っていった事ありましたよね?」
過去の逸話を掘り起こし始めた。
「その時は間に合わなくてお祖母様が亡くなったって……お葬式があるとかでパーティー抜けましたよね?」
割としっかり覚えていたマリーによって次々明るみになっていくビリーの暗部。
話を聞いた全員が呆れていたが改めて知ったであろうザックは
「お前……、婆さん何人居るんだよ」
とビリーにツッコミを入れていた。当のビリーは
「婆ちゃん世代子沢山だったんだよ!」
と言い訳するが
「仮にそれが本当だとしても、それ婆ちゃんじゃなくてただの親戚だろ。なら親戚って最初から言え。対応変わるんだから」
とザックは完膚なきまでにビリーを叩きのめしていた。とりあえずビリーに対するメンバーの評価は爆下げとなってしまった。
「とりあえずこのアミュレットはイレーネに渡しておく。前回の戦いでもすげー頑張ってたしな」
該当のアミュレットはイレーネに渡される事になった。こうして金貨以外の報酬はビリーを除くメンバー達に分けられていった。




