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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
第二章 ザック編
202/821

餞別

 バルコニーでのヘルムートとの時間はフィーナにとっては晒し上げな時間に思えた。得意気にあなたの頭に直接語りかけていますと言っていた自分がとんだ道化に思えてきたからだ。

 耳まで真っ赤になってしまったフィーナは一刻も早く話題が変わる事を祈るしか無かった。

 神に祈るといってもこの異世界の担当神はあのレアなのだがそれでもフィーナは藁でも掴む勢いで神に祈っていた。

「フィーナ樣、貴女のお陰で私はかけがえのない女性に気付く事が出来ました。重ねて感謝を申し上げます」

 ヘルムートからの言葉は感謝の言葉で綺麗に締め括られた。ヘルムートは別にフィーナを嘲笑う目的で話していた訳ではなく、単純にお礼を言うためにここに来たのだろう。

 一人で早合点していたフィーナは深呼吸をして平静を取り戻すと

「……私は大した事はしてません。ヘルムートさんの行動が良い方向に働いたのです」

 自分はさほど大した事はしていない。彼に行動を促した点はあっても最終的に判断し行動したのは彼なのだから彼が導き出した結果が今なのだ。

(…………)

 しかし気まずい。言葉が全く続く気がしない。相手はこの国の次期皇帝であり婚約をしたばかりの青年である。

 好意を寄せられていた事を知っている以上、意識するなというのが無理な話なのだ。フィーナがふと彼の方を見ると

(あわわわ……!)

 ヘルムートににこやかに微笑まれてしまった。前の世界のジークハルト王子も顔だけはイケメンだったが彼に言い寄られた時であってもこんなにも慌てる事など無かった。

「ヘ、ヘルムートさん! 私には大事な人が居まして……だ、だからあなたの気持ちは嬉しかったんですけど応える事は出来なかったんです! 本当にごめんなさい!」

 しどろもどろになりながらフィーナはヘルムートに思い付く限りの謝罪の言葉を口にする。

 自分の何気ない行動が彼に気を持たせ勘違いさせてしまったのなら申し訳無い気持ちしか出てこない。

「フィーナ樣、謝らないで下さい。私の方こそ気を使わせてしまって申し訳ありませんでした」

 二人して謝るばかりでなんともしまりが無い一時となってしまった。そんな二人のやり取りを同じバルコニーの陰から見ていた人影が複数あった。



「だから言ったじゃないですかぁ〜。フィーナさんなら絶対変な気起こさないって♪」

 フィーナ達の様子を陰から見ていたのは既に普段着に着替えていたイレーネと

「そ、そうみたいですね」

 ほっとした表情を見せるルイゼに

「用が済んだのなら帰るぞ。覗き見なんて行儀が良いとは言えないからな」

 無理矢理付き合わされたであろうザック。

「そうですよ。お二人の私的な会話をこっそり見るなんて……」

 口では皆を戒める様な口調で諭すマリーに

「ん? 終わったんだろ。なら帰ろうぜ。なぁ?」

「ウン。ソーダネー。カエッテネヨウヨー」

 隣のビリーに話し掛け、ビリーの声真似をして本当に腹話術師の様なやり取りをしているガイとビリーのコンビだった。

 ビリーは口元に木炭で線を二本足されておりその服装も相まって正真正銘の腹話術人形とされてしまっていた。

 そんな不当な扱いをされているビリーは当然面白い訳が無い。傍目から見てる分には面白いのだろうが、彼は強くて格好良い冒険者を目指す少年である。当然、彼は不満を隠そうともしない。

「お前、良かったな。冒険者止めても食うには困らないぞ」

 ザックのフォローも今のビリーにはありがた迷惑でしか無い。

「僕をおちょくるな!」

 ビリーはザックに殴りかかろうとしたが頭を抑えられてしまい、腕をグルグル回しているだけでしかなかった。

「とりあえず帰るか。もう良いだろ?」

 これ以上ここに居る意味は無いと、ザックはビリーを担ぎ上げるとバルコニーを出ていってしまった。

「そうだな。俺達も行こうぜ」

「そうですね」

 そしてそんなリーダーの後を追うガイとマリーの二人。

「ルイゼさん、帰りましょ? 大丈夫ですって」

 残るイレーネもフィーナ達の事が気になっているルイゼの手を引いて二人でバルコニーから去っていくのであった。



(うーん……)

 あれだけ大騒ぎしていてエルフ耳を持つフィーナがザック達の存在に気付いてないはずは無かった。

 ヘルムートとのやり取りを最初から最後まで見られていたであろう事にフィーナは落ち込まざるを得なかった。

 特に何かやましい事をしている訳ではないので気に病む必要は無いのだろうが……どんな顔をしてパーティーに復帰すれば良いのだろうか?

「フィーナ様?」

 フィーナが浮かない顔をしているのに気づいたらしいヘルムートが心配そうに声を掛けてきた。

「……数日後に私は帝都の南にある平原での戦いに赴きます。あなたも彼らと一緒に行かれるのでしょうが……あなたにはどうか安全な場所に居て頂きたく思います」

 彼が言うのは帝都に迫っているというキングと呼ばれている巨大なタイラントスパイダーの事だとは思うが……。

 心情的にはそんな大きな蜘蛛は見たいとも思わないのだが、ザック達が行くのであれば自分も行かない訳にはいかない。彼の気遣いには申し訳ないのだが……

「すみません。他の皆さんが行くのに私だけ行かない訳には……」

 申し訳無さそうに答えるフィーナだがヘルムートには答えが分かっていたらしく

「……そうですか。せめてものお願いとして、あなたのご無事をお祈りしております」

 ヘルムートはフィーナの頬に手を添えると何かを躊躇う仕草を見せた後、軽く礼をし去っていった。



 帝都の城を後にしたフィーナは馬車に乗せられ一人バルトゥジアク卿の屋敷へと戻っていた。

 バルトゥジアク卿は先に帰ってしまったのか既に姿は見えなかった。彼女が自分の部屋へ戻ると自分が捕まる前に使っていた服やレザーアーマー等の装備品が置かれているのを見つけた。

(これ……、もう出て行っていいという事でしょうか……?)

 周りを見回してみるが誰も来る気配は無い。フィーナは一人着替えると久しぶりのワンピースに動きやすさを感じていた。

 装備品一式も、軽いレザーアーマーと言えやはり重さはある。弓や矢筒、エストックまで含めるとかなりである。

 全てを着用し終えたフィーナは装備品の置かれていたテーブルの上に小袋が置かれているのに気が付いた。

 袋を開けてみると中には銀貨……ではなく希少な白金貨が何枚も入れられていた。

(え? これって……?)

 フィーナは思わず辺りを見回してしまうがやはり誰も居ない。

 元々自分が持っていた現金は元通りにきちんとあるから、紛失分の補填とかでは無い。

 そもそも白金貨など価値がどれほどあるのかも分からない。

(このまま出て行くのは……止めておきますか)

 このまま出て行っても良いのかもしれないが、バルドゥジアク卿に挨拶も無しに出ていくのもどうかと思ったフィーナは、結局明日の朝まで屋敷に留まる事にしたのだった。

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