帝国の膿
フィーナの居る地下牢にやってきた貴族風の男達は何をしに来たのかと思えば、やってる事はさっきの兵士達と変わらない無抵抗なフィーナに対する暴行だった。
ーバシッ!バシン!ー
「うぁっ! あぐっ!」
兵士達に比べると幾分威力は小さいが、華奢なフィーナにとってはとんでもない苦痛だった。
貴族達は兵士達と違い、建前上自白を強要するという体裁を取り繕う事も無く、単に嗜虐心を満たす為だけにフィーナを甚振っている様だった。
「そろそろ、降ろしてやれ。流石に堪えただろうからな」
貴族の男達は長らしき男の言葉に従いフィーナを吊るしていた鎖を外す。
ーズシャ……ー
力無く床に崩れ落ちたフィーナに貴族の男二人が近付いていき、床の上にしゃがみ込み怯えているフィーナの左右に付いた。
ーグイッー
「きゃあっ!」
男達は未だ枷で両腕を拘束されているフィーナを押し倒すと、彼女の枷を床の上の鎖へと繋ぐ。
そして、抵抗出来なくなった彼女の白いドレスに手を伸ばし
ービリビリビリビリー
「いやあぁぁぁーっ!」
高級なドレスを無造作に破り捨てた。元々、兵士達から暴行を受けている間にボロボロに開けてしまってはいた。
しかし、これでドレスはほとんど脱がされてしまった形になる。
「は、離して……止めて……」
ーガチャガチャー
男二人に力任せに押し倒されここまでされて、今後自分の身に何が起きるか分からない程フィーナは世間知らずでは無い。
ーガチャガチャ!ー
無駄とは分かっていても手足の枷を外そうと渾身の力を込めて足掻き始める。
「くぅ……や、やだ……」
左右の男達はフィーナの両足に手を伸ばすと両足首を拘束している枷を面倒そうに取り外した。
(え……?)
フィーナは開放してくれるのかもと淡い期待を抱いたが、それが間違っていた事をすぐに思い知る事になる。
ーガシッガシィッ!ー
「いい加減諦めろ」
「強情な娘だ、無駄な事を」
二人の男達は枷を外すと、フィーナの足をそれぞれ左右に開かせようと力を入れてきた。
「う! くぅぅ!」
ーグググッ……ー
フィーナは足を開かせまいと必死に抵抗するが大の大人の力には到底敵わず
ーガバッ!ー
「やあぁぁぁーっ!」
無理矢理足を開かされてしまい白いショーツが丸見えになってしまった。
フィーナは恥ずかしさに顔を背けているがその行為には何の意味も無い。
そんな彼女の姿を満足そうな笑みを浮かべながら、宰相と呼ばれている男がゆっくりとフィーナに近寄ってきた。
「こいつが皇子のお気に入りか。確かに上玉だ」
彼はフィーナの開かれた足の下に膝を付くと舌舐りをしながらフィーナの身体に手を伸ばしてきた。
「やだ! やだぁ! 止めて! 止めて下さい!」
無駄とは分かっていてもフィーナは身を捩って全力で男達を振りほどこうとする。
ーガチャガチャ!ー
しかし両腕は枷に繋がれ両足は男二人に抑えられている。
両腕の自由が効かなければ神力を有効に行使する事も出来ない。
「いやぁ、誰かぁ……」
目に涙を浮かべたフィーナが怯えた声を上げる。そんな事はお構い無しとばかりに宰相の手がフィーナに触れそうになる。
「ひっ……!」
もはや彼女の運命は決まってしまったかの様に思われた。その時
ーゴオオオオオオオォォォ!ー
地下牢内の温度が急激に上昇したのが嫌でも分かる程の高熱原体が突如現れた。
「サラマンダーさん……!」
その姿を見たフィーナが声を上げた。一方、貴族の男達は突然現れた炎の精霊を見下す様な態度を見せている。
「精霊ごときのチンケな火などすぐに消し去ってやるわ!」
フィーナの左隣りに居た貴族の男が何やら魔法を唱えだした。左の男も同様に魔法の詠唱を始めた。
一方、男達の拘束が解かれたフィーナは急いでその場から起き上がる。
今の彼女は両足を閉じて身を縮める事しか出来ずにブルブルと部屋の隅で震えるだけだった。
「ウォータースプラッシュ!」
ーバシュウゥゥゥッ!ー
貴族の男はそう叫ぶと翳した右手から大量の水をサラマンダーに向けて放った。
放たれた水は消火ポンプから放水される水の様だったがサラマンダーの炎ですぐに蒸発する有り様だった。そこへもう一人の貴族が
「アイスフィールド!」
ーキイィィィィン!ー
一定範囲を冷気が襲う魔法を発動させた。放水される水ごと見る間に凍っていき、ついにはサラマンダーも凍りつかされてしまった。
「見たか、これが人間様の力よ」
「精霊の力など子供騙しに過ぎん」
勝ち誇った貴族の二人は改めてフィーナを抑えつけようと凍りついたサラマンダーに背を向けた。
ーポタッ……ポタッ……ー
その時、何かが滴り落ちる音が聞こえてきた。
周囲は冷気の魔法の力によって涼しく貴族達はウォータースプラッシュの水滴がどこかに残っていたのだろうと軽く考えていた。しかし
ーゴオオォォォ!ー
周囲に渦巻いた熱気で貴族達もそれが間違いだと気付いた様だ。
「ば、バカな……!」
「確かに凍らせたのに……!」
氷を溶かし尽くしたサラマンダーは小さい炎を貴族達に飛ばした。
ーボウッ!ー
「うおっ!」
「ぎゃあっ!」
炎が当たった二人の貴族は燃え上がりかけた上着を脱ぎ捨てると宰相を残して逃げていった。
「おい、待て! 恩知らず共! ワシを置いていくんじゃない!」
宰相も一人残された事に相当焦ったらしく、いつの間にか下ろしかけたズボンを両手で引き上げながら慌てて逃げていく。
(…………)
地下牢に一人残されたフィーナはただ呆然と蹲っていた。
「あぎゃあぎゃ!」
そんな彼女にサラマンダーは炎を抑えて猫の様に寄り添ってきた。
「サラマンダーさん……ありがとう……ありがとう」
どれくらいの時間が流れたか分からなくなった頃、地下牢の鉄格子の扉が開けられた。
「レティシア様!」
地下牢にやってきたのは侍女を連れたルイゼだった。
彼女はボロボロな姿のフィーナに駆け寄ってくるとそのまま抱きついてきた。
「あ……」
突然抱きつかれたフィーナは大した反応も出来ずにされるがままだった。
「レティシア様、ヘルムート様の件ありがとうございました」
彼女はヘルムートに何があったのかを話し始めた。
フィーナと会っていた時、彼は何者かに毒を盛られていたらしい。
救護室に運ばれたヘルムートは神官による治療を受け、ついさっき意識を取り戻したのだそうだ。
「レティシア様、失礼します」
ルイゼの説明の最中、彼女の侍女がフィーナの枷を外し、大きな布を羽織らせてくれた。
意識を取り戻したヘルムートがフィーナは無実である事をなんとかルイゼに伝え、彼女はここまで来てくれたらしい。
しかし、城内ではフィーナがヘルムートを亡き者にしようとしたという話が既に広まっており、バルトゥジアク卿の姿も見ていないそうだ。
(…………)
ルイゼの話は聞いているものの、地下牢での出来事がショック過ぎてフィーナは終始虚ろな表情をしていた。
「とにかくここを離れましょう」
ルイゼの導きによりフィーナは地下牢から彼女の屋敷へと連れられていくのだった。




