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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
第一章 アルフレッド編
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帰り道

「いや〜、美味しかったですね! 先輩! ……ニャ」

 屋敷への帰り道、ミレットが楽しそうに話しかけてきた。

 彼女が言っているのは肉屋で貰った串焼き肉の事だろう。

 確かにあれは美味しかった。果物の甘みのしっかりしたタレと絶妙な塩加減。

 スパイスの香りに肉そのものの焼き加減……見事なジャンクフードだった。

 果物屋ではお使いの品だけではなく、個人的に必要になりそうなものも買う事が出来た。

 それらを活用すれば、少しさみしいアルフレッドの食事も少しは華やかになるだろう。

 それなりの出費にはなったが、これまでのフィーナの給金でお代は十分賄えた。


ーザッザッザッザッー


 日が傾きかけている街道を歩く二人。すれ違うのは仕事を終えたであろう冒険者の一団や、農作業帰りの民間人。荷車を押す老人などだった。

 そんな中、メイド服のエルフと猫族の少女というのは周囲の風景に対し少々目立ってしまっていた。

 だからかは分からないが、ある男達の集団が二人の前に立ちはだかる。

 男達は見るからに盗賊といった感じの集団だ。

「よう、お嬢さん方」

 男達の中でもリーダーの様な風体の男か話しかけてきた。

 いきなり襲いかかってこないと言う事は、二人の命が目当てでは無いのだろうが、それでも追い剥ぎの可能は十分ある。

 だが、人気もまばらとは言えこんな目立つ街道で犯罪行為に及ぶものだろうか。

「お嬢さん方には俺達とご一緒して頂きましょうか。くっくっく……」

 男達は二人を取り囲む様に動き始める。このままでは二人共簡単に捕まってしまうだろう。

「ミレットさん、街まで走れますか?」

 フィーナは小声でミレットに確認する。

「は、はい……ニャ」

フィーナのその声に彼女は小さく頷く。

「では、合図と共に街まで全力で逃げて下さい。そして助けを呼んできて下さい」

 その間も男達は逃げ道を潰す様に二人を取り囲んでいく。

 そして、包囲が完成しようとしたその時、フィーナは担いでいたリュックサックをその場に下ろし、そして……

「たあっ!」


ーバキッ!ー


 街への進路を塞ぐ男へフィーナが一気に距離を詰め、放った後ろ回し蹴りが男の顎にクリーンヒットした。

「うぐおっ!」


ードシャッ!ー


顎に強烈な一撃を食らった男は蹴られた勢いそのまま地面に倒れた。

「ニャッ!」

 包囲の穴からミレットが駆け出し、彼女の姿はみるみる小さくなっていく。

 彼女を追おうとした男達の前に、木剣を手にしたフィーナが立ちはだかる。

「こいつ! 抵抗する気か!」

 男達に言われるまでも無い。何もせずに大人しくしている程フィーナは世間知らずでも無い。

 戦う準備はすでに十分である。男達が手にしているのは取り回しの良い小型のナイフ。

 一方のフィーナが持っている剣は木製とは言え長さは十分だ。

 その強度も人間相手なら、問題無いだろうと思われる。ましてやフィーナの剣の技能は人並み以上。

 盗賊くずれの男達に取り押さえられるはずもなかった。男達は一人また一人と数を減らしていく。

「なんだ! こんなに強いなんて聞いてねぇぞ!」

 リーダー格の男は街道沿いの林に逃げ込んだ。

(逃がす訳には……!)

 今後の事を考えると、あの男を放っでおく訳にはいかない。

 後々、またこうして誰かが襲われるかもしれないからだ。

 此の場に倒れている他の男達は、ミレットが連れてくるであろう人達に任せれば良いだろう。



 フィーナが逃げた男を追い林の中へ入ると、前が見えない程ではないが草木の生い茂る地面で非常に進みづらくなっていた。

 先を行く男の姿もしっかり捉えているものの、簡単に追いつけそうには無い。それでもフィーナは、男の後を追い林の中を進んでいく。

 息を切らしているらしい男は、走る速度も段々遅くなってきた。ついには両手を上げ、手にしていたナイフすら投げ捨ててしまった。

「はぁ……はぁ……くそ! 

しつけえ野郎だ!」

 逃げきれないと観念したのか、男は両手を上げたままゆっくりと振り返り

「ほれ、衛兵に突き出すなりなんなり好きにしな」

 諦めたのか棒立ちになってしまった。周囲を警戒しながらフィーナは一歩一歩近付いていく。

 見たところ男に武器を隠し持っている様子は無い。他の誰かが待ち伏せている感じも無い。

 距離を詰め歩いていくフィーナが再び男を見やると

(え……!)

 男が一瞬笑った様に見えた。


ーギュウッ!ー


「あぅっ!」

 突然フィーナの両足に何かが巻き付いてきた。両足首が何かに強く締め付けられている。

「きゃあっ!」

 気付いた時にはもう遅かった。歩く事もままならず、何かに足を引っ張られた彼女はバランスを崩し前に倒れ込んでしまった。


ーザッー


 倒れた弾みで木剣も手放してしまった。何が起きたか分からず突然の事に混乱しながら、草むらに倒れたフィーナが自身の足元を確認する。

「や……! なにこれ?」

 目にしたのは縄で縛られている自身の両足首だった。


ーグイッ!ー


「きゃあぁぁぁっ!」

 状況を理解するより先に縄が引っ張られ、彼女は成す術無く逆さまに宙吊りに吊り上げられてしまった。

「やだ……! 放して!」

 脱しようといくら足掻いても、足を縛り付けている縄はびくともしない。

「馬鹿め、まんまと掛かりやがった。こいつぁ話通りの上玉だ。へっへっへ……」

 さっきの男の声が近付いてくる。たが、吊るされたフィーナからは男が見えない。

「くっ! うぅっ!」

 今のところ両腕は自由に使えるが、ちゃんと目で見て手で狙いを付けなければ、女神としての力を使っても相手には到底当てられない。

 フィーナが何も出来ずに藻掻いている間に、背後から近付いてきた男によって後ろ手に縛られてしまった。

「い、痛っ!」

 全く身動き出来なくなってしまった上に猿ぐつわに目隠しまでされ、周囲の状況も分からない。

「んんっ! んぐぅ!」

 今更ながら、人の気配が複数感じられる。近くに仲間が居たのだろうが全く気付けなかった。

 今、感覚的には地面に降ろされている最中というのは分かるのだが……

「エルフってなぁヘンな格好してんだな」

「お頭ぁ、こいつ売る前に皆で楽しみましょうやぁ?」

「馬鹿言うな。キズモンにしたら値が下がるだろ」

「そういう事だから、大人しくしてろよ」

 男達の声と共に自分が何かに包まれた感じがした。

「んんんー! んんんー!」

 猿ぐつわのせいで話す事も助けを求める事も出来ない。

 声は出せなくとも、天界の女神レアに連絡は出来るはず。

 しかし、この時のフィーナは完全に動揺しており、天界への連絡など発想すら頭から抜け落ちてしまっていた。

 何も出来ないフィーナは、袋ごと男に担がれどこかへ運ばれていく。

 しばらく時間が経ったところで男の動きが止まった。

「依頼の品、持ってきたぜ」

「おう、見せてみな。何もしてねぇだろうな?」

 どうやら他の誰かと話している様だ。相手の声はどこかで聞いた事がある気がする。袋の口が開けられた様で閉塞感が一時的に和らいだ。

「確かに。それじゃ約束の金だ」

 「へへっ、まいどあり」

 男達のやり取りは短かった。フィーナは再び袋ごと担がれ運ばれていく。足音から、林をぬけ街道に出たらしい事が分かる。

「おい、お前達! 何者だ!」

 今度は威圧する様な男の声がした。

「俺らは冒険者ギルドのモンです。今、依頼を終わらせてきたばかりなんでさぁ」

フィーナを担いでいる男が答えている様だ。

「認識票を確認させてもらうぞ。……ブロンズのプラスか。その荷物は何だ?」

「ギルドの依頼品のウェアウルフの毛皮でさぁ。まだ息があるから開けると危ないっすよぉ」

「……そうか。よし、行っていい」

「何かあったんすかぁ?」

「この辺で盗賊が出たらしい。行方不明の女性を探しているのだが……知らないか?」

 男達のやり取りは続いている。話しぶりから察するに、男達の相手はミレットが呼んでくれた助けの様だ。

 ここで声が出せれば助かるのだが……

「んんんー!」

 フィーナは精一杯声を出し、身を捩って気付いてもらおうとした。

 だが、彼女の行動虚しく、自身を担いでいる男とその集団は再び歩き始めていた。

 その事実に絶望するフィーナ。これから自分はどうなるのだろう……?

 こんな事になるなら最初から女神の力を行使すべきだった……。

 力の節約やこの世界の人間の命も大事だが、自身の安全も考えるべきだった。

 女神の自分なら大丈夫……その考えは甘かった。今更だが、後悔してもし足りない。

「んんんー! んんんんんー!」

 こんな機会はもう来ないかもしれない。フィーナが力を振り絞り声を上げ藻掻いていると

「こ、こいつ! 暴れるんじゃねぇ!」

「待って下さい! その人達の中から先輩の声が聞こえました! 匂いも……します! ……ニャ」

 ミレットの声も聞こえてきた。どうやらさっさの助けに来た人と一緒に居た様だ。

 彼女が居た事と気付いてくれたらしい事にフィーナは安堵する。

 そこからはあっという間だった。袋の中身を改められ、全員敢えなく御用となった。

 開放されてから分かった事だが、取り押さえられた男達は昼間に肉屋で会ったクラウスの昔なじみの冒険者達だった。

 昼間に目を付けていたフィーナを手に入れるため……自分達の手を汚さないために、知り合いの盗賊達を唆し拉致の実行犯としていた様だった。

 もしあのまま気付かれなかったら自分はどうなっていたのかと衛兵に聞いてみたら、非合法の奴隷商にでも売られていただろうとの事。

 しかも白金貨数百枚の値段が付いていてもおかしくなかったらしい……誠にありがたくない話ではある。

 衛兵達には身辺にくれぐれも気をつける様にと釘を刺されてしまった。

 助けてくれた衛兵がそのまま屋敷に付き添ってくれたので、アニタから帰りが遅かった事について咎められる事は無かった。

 アニタはともかく、ジェシカ奥に何か小言でも言われはしないかと身構えていたものの、衛兵の手前か何かしら文句を言われる事は無かった。

 どうやら、ジェシカ奥もある程度の世間体は気にする性格であるらしい。

 それなら、使用人への苛めも止めてほしいところだが……期待はできそうにない。

 また、二人の姿を見たアニタは言葉にこそしなかったが、ホッとした様な表情をしていた気がする。

 ただの買い物のはずが、とんだトラブルに巻き込まれてしまった。

(今日は本当に疲れました……)

 フィーナは深い溜め息と共に、自身の行動を反省しつつ一日を終えるのだった。

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