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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
第一章 アルフレッド編
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街での買い物

「フィーナさん、今日は買い物お願いね」

 夜勤帯だったフィーナは知らなかったのだが、日勤帯のメイドには買い物も任される様だ。

 そして、一週間に数度の買い出しも当番制という事で、早速フィーナの番が回ってきたのだ。

(…………)

 外出する事はアルフレッドに伝えておくべきだろう。彼から預かっている本の件もある。

 彼は一日のほぼ全てを自室で過ごしているから、探すのに苦労は無い。アルフレッドの部屋に着くとノックをして中に入る。

「アルフレッド坊ちゃま。私はお買い物に出るので、お呼び出しには応えられなくなります。申し訳ありません」

 フィーナが深く頭を下げると、

「…気にしないで下さい。戻ってきたらお願いしますから」

 アルフレッドの口調はどこか他人事の様に聞こえる。

 自分が買い物に出てる間に記憶を取り戻されたら一大事ではあるが、見た感じ彼は元気そうだ。

 余程の事でもない限り大丈夫だとは思うが……

「それでは、失礼致します」

 フィーナはアルフレッドの部屋を後にしアニタの元へと急ぐ。

 メイド長は買い物に必要な物を揃え、すでに屋敷の入り口で待っていた。

「それじゃ、買い出し頼みましたよ」

 アニタからメモと大きなリュックサックを渡され、はじめてのお使いに赴くフィーナ。

 屋敷内では流石に慣れたとは言え、外出するのにいつものミニスカメイド服とは……

(……誠に遺憾です)

 この時代に来た時に使ったマントもあるにはあるのだが……今の時期は少し暑い。

 辱めに耐えるか暑さに耐えるか、思案のしどころではあるがやはり暑いのは気持ち悪い。


ーザッザッザッザッー


 自分の歩く音のみが聞こえてくる街までの往路。

(暑いですね……)

 街までは歩きで二十分位の距離であり、街道沿いの街なので交易も盛ん、食材も数多く取り扱っている。買い物には非常に便利な街なのである。

「フィーナせんぱ〜い!」

 いきなり後ろの方から自分を呼ぶ声が聞こえてきた。声の主はミレットであった。

 彼女は息を切らせながら走ってくるとフィーナの目の前で止まった。

 服装は簡単なワンピースで普通の町娘と言った風貌だが、フィーナにはそれがとても羨ましかった。

「アニタさんから、先輩を手伝ってこいっていわれちゃいましたぁ〜……ニャ」

 ミレットから話を聞いてみると、彼女の言う通りアニタから手伝いを指示されたらしい。

 また、お使いの仕事も覚えておいてくれとの事。後から別の誰かに付けるより見知った間柄のフィーナに教えてもらった方が良いだろう……と。

 おまけに今日の買い物は残業扱いで夜勤は休みにしてくれるそうだ。

「おっかいもの〜! おっかいもの〜……ニャ」

 ミレットはすごく楽しそうだ。ほぼ毎日屋敷での生活で完結しているからか、外出が楽しいのだろう。

 スキップしながらフィーナの前を進むミレットを見ていると、なんだかこちらまで幸せな気持ちになってくる。



 そんな事を考えながら歩いていると、すぐに街が見えてきた。

 この王国において、比較的大きな街は大体が高い石壁で囲まれており、衛兵が街の警備に就いている。

 だから魔物が彷徨いていようと、街の中であれば比較的安心出来る世界なのだ。

「お疲れ様です」

お仕事、お疲れ様で〜す……ニャ」

 街の入り口に居る衛兵に挨拶し、街道に設置された門を潜る。

 すると、露天が街道沿いにずっと続いている光景が広がっていた。

「それじゃ、私は肉や魚、野菜などを調達してきます。ミレットさんは……適当に市場を見ていて下さい」

 フィーナ自身、ここでの買い物は初めてなので教える事など当然あるはずもない。

 残業扱いとは言えミレットと一緒に行動したら、一生懸命な彼女の事だから自ら率先して荷物持ちとかしてしまうだろう。

 せっかく来てくれているのに、あまり仕事を手伝わせてしまっては申し訳ない。

 彼女には街で自由にしてもらっていた方がフィーナとしても気が楽なのだ。

 とりあえず買い物を済ませようと、周囲を見てみると野菜や果物を取り扱っている露店が並んでいるのが見えた。

 買い出し内容から考えると、肉類が結構重いので肉類を買ってから野菜を買う方が鞄に入れる都合上その方が良さそうだ。

(え〜と……)

 キョロキョロと辺りを見回して見たところ、少し街中に進んだ所に食肉を取り扱っている露店があるのが見えた。

 フィーナは立ち並ぶ露店を見ながら肉屋に向かう事にするのだった。



「いらっしゃいませ~!」

 肉屋に行くと、気弱そうな背の高い青年が挨拶してきた。

 露店には似つかわしくない深緑色のローブを着ている。彼はどう見ても魔術師の様だが……

「あの、牛肉の大きい塊を二つ欲しいんですけど……」

 アニタからのメモに書かれている食材が欲しい旨をそのまま伝える。

「あ、おかみさ~ん!注文で~す!」

 青年は露店の奥で串焼きの調理をしている中年の女性に声をかける。すると

「あいよ~!」

と言いながら気の良さそうな恰幅の良い女性が出てきた。

「にいちゃん、奥で代わりに焼き物見といておくれ。焦げなきゃいいから」

 青年は女性と入れ替わり店の奥に行ってしまった。代わりに出てきたおかみさんにフィーナは先程の注文内容を再び伝える。

「おや?アンタ、オーウェン様のトコの使いかい? エルフのメイドさんなんて初めてだねぇ」

 日頃から屋敷の人達が世話になっているのだろう。おかみさんが親し気に話しかけてくる。

「あ、はい。お昼のお仕事する様になったのつい最近なので……」

 フィーナの返事に相槌を打ちながら、おかみさんは慣れた手つきで注文した肉を蓮の葉に幾重にも包み始めている。

 フィーナがほんのちょっと目を離した隙に、本当にあっという間に蓮の葉に包まれた肉の塊が二つ出てきた。

「お待たせ。お代は銀貨二枚だよ」

 フィーナがアニタから預かった袋から銀貨二枚の支払いをし、代わりに肉を一つ受け取る。

 肉に触れて初めて気が付いたが、この肉は冷凍されてカチコチに凍っている。

 肉が冷たい事に驚いた彼女の様子に気付いたのか、おかみさんが笑いながら

「どうだい? あのにいちゃんの魔法で凍らせてんだ。すごいだろ?」

 おかみさんは笑いながらそう話し掛けてきた。聞いてみるとローブを着た青年はやはり魔術師で、依頼を受けて来てくれた冒険者なのだそうだ。

 暖かい時期には食材の品質保持の為、こうしてギルドに依頼を出すのが普通らしい。

 特に、今来てくれている青年は魔法の魔力調整が繊細で、お客の細かい要望にも応えてくれるのでお気に入りとの事。

 フィーナが肉をリュックサックにしまう間、話好きらしいおかみさんはずっと喋っていた。

「せんぱ~い! これも買っていくんでしたよね?……ニャ」

 リュックに品物を詰める為にしゃがんでいたフィーナが、ふいに話しかけてきた声に反応し顔を上げる。

 そこには、すでに買い物を済ませていたのか、ミレットが串に刺された焼き魚を片手に蓮の葉の包みをいくつか手にしていた。

「あ、すみません。私の仕事なのに手伝わせてしまって……」

 フィーナはミレットから包みを受け取りながら、反射的に謝ってしまう。これは彼女の性格的なものなのだろうが……

「いいんですよ。たまたまお魚食べたくて寄ったら丁度売ってただけですから〜……ニャ」

 ミレットが愛くるしい笑顔で答える。耳がピョコピョコ動いてその仕草は実に猫らしい。

「お客さん方、他のトコで生物買ったのかい? 良かったら、冷やしてくかい? にいちゃ〜ん! ちょっと〜!」

 フィーナが応える間もなく、おかみさんが魔術師の青年を呼ぶ。奥からやってきた青年はフィーナが持っている包みを確認すると、魔法の詠唱を始め

「アイスフィールド」

指先から白っぽく輝く球体が、フィーナの包みに向かってフワフワと向かっていく。


ーカキーン!ー


 球体が包みに接触すると包みはあっという間に凍ってしまった。

 もちろん、フィーナの手には何の影響も無い。普通に冷たい物を手にしている感覚だけだ。

「凄いんですね。ありがとうございます」

 素直に感心しお礼を言うフィーナに青年は照れてしまっている様だ。

 包みをリュックサックにしまい、フィーナ達が会釈をして露店から離れようとした時……

「おい! クラウスじゃねぇか! お前こんなトコでなにやってんだ?」

 フィーナ達の後ろから男の声が聞こえてきた。振り返ると軽装の革鎧を装着た男達が五人程……。

 冒険者なのか盗賊なのか分からない位、粗野な雰囲気の男達が並んでいる。

 どう見ても、肉屋に食材を買いに来た一般客には見えない。

「クラウス、おめぇ俺達のパーティクビになってから、どこにも入ってねぇらしいじゃねぇか。へっへっへ……」

 リーダー格の髭面の男が言う。他の男達も下卑た笑いで相槌を打っている。

「あんた達とはもう関係ない。ギルドの規約違反を繰り返すあんた達とはやってけない」

 クラウスと呼ばれた青年はキッパリと男達に言い放つ。だが、そんな彼の態度が気に入らなかったのだろう。

「なんだとぉ? クラウスのくせに生意気だぞ!」

 男達は今にも武器を取り出しそうな雰囲気だ。言い草が完全に某ガキ大将のソレである。

「あんた達、買う気が無いなら帰っとくれ!」

 おかみさんがたまらず口を挟む。このまま放っておいたらひと騒ぎ起きそうな雰囲気である。

「あなた方、街中で武器を抜くつもりなら衛兵を呼びますよ」

 フィーナとしても市井の人々の平穏を脅かす行為は見逃せない。後々、必ず天界にとっての不都合を生じさせる。

 世界の安定を司るのは自分の仕事では無いのだが、トラブルを見逃していい理由にはならない。

「ちっ、行くぞおめぇら」

 衛兵を呼ばれるのが嫌なのか、男達は文句を言いながら去っていった。

「すみません。おかみさん。お客さんもすみません。ご迷惑がかけちゃって」

 クラウスが本当に申し訳なさそうに謝ってきた。おかみさんは全く気にする素振りは無い。

「あんたも大変だねぇ」

 と、バシバシとクラウスの背中を叩いている。フィーナとしても謝られる程の事はしていないので、

「お気になさらないで下さい。それより、さっきの冷凍ありがとうございました」

 フィーナはリュックサックをひょいと背負いながら、改めてさっきの冷凍魔法のお礼を言う。

 これで鮮度を気にせず買い物を続けられる。

「メイドさん達、これ持ってきな」

 おかみさんが立ち去ろうとするフィーナ達によく焼けた串焼き肉を渡してきた。

 戸惑うフィーナが遠慮がちに断ろうとすると

「あたしからのお礼だよ。次はお代を頂くからね」

 おかみさんの圧に負け、フィーナは串焼きを二本受け取り一本を隣のミレットに渡し

「ありがとうございました」

「おばちゃん、ありがとですニャ!」

 二人でおかみさんにお礼を言う。こうして肉屋を後にした二人はアニタのメモ通り野菜と果物のお使いも済ませ、帰路についたのだった。

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