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異世界転生係で神畜の女神やってます  作者: 大鳳
第一章 アルフレッド編
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屋敷の支配者

 ミレットが屋敷に来て一週間、彼女が仕事を一通りこなせる様になった頃、フィーナに日勤帯への異動が命じられた。

「え〜、先輩と離れるなんて心細いです。分からない事とか出てきたらどうすればいいんですかぁ……ニャ?」

 仕事がこなせる様になったとは言え、まだまだ新人の彼女は不安なご様子。

「分からない時とかあったら遠慮なく起こしてくれて良いですから、そんな心配しないで下さい」

 ミレットを落ち着かせる様にフィーナは優しく言い聞かせる。こうして二人で夜勤をするのも今日が最後となった。

 共用部の掃除をしながらフィーナは自分の知っている業務内容をミレットに伝えていく。

「そういえばアルヴィンお坊ちゃま、今日王都へ出発されていかれましたね。この先何年も戻られないだろうとか……ニャ」

 ミレットの言う通りアルヴィン本人も話していた通り、彼は王国軍の兵士となるべく王都にある年少用の軍学校に入学する為旅立っていった。

 現場幹部を養成する意味合いの強い学校だが、本人の能力と努力次第で士官学校への道もあり、地方貴族の次男としては決して悪い進路とは言えないだろう。

「彼なら大丈夫ですよ。きっと」

 フィーナの言う通り、アルヴィンならきっと軍学校でもやっていけるだろう。

 弟を思いやる優しさと、何度も自分に向かってくる様な負けん気があるのだから。

 しかし、こうなると気がかりになってくるのが弟アルフレッドの事である。

 彼と初めて会ったのはアルヴィンと同時だったが、会話らしい会話も交わせず現在に至ってしまっている。

 その仕草から大人しい性格なのは伺えるが……後の時代に王都で出会った敬語使えない系の少年とは大違いだ。

 まぁ、日勤帯になればアルフレッドとの接点は嫌でも出来てくるだろう。

もし無ければ無理矢理にでも作るしかないが、彼が高熱を出すまでは一年以上の時間があるはず。

 まだ慌てる様な時間じゃない。

「せんぱ〜い、もしこのお屋敷に泥棒とか来たらどうすれば……ニャ」

 仕事内容の質問が無くなったのか、ミレットからあまり想定されない事態に対する質問が飛んできた。

 考えてみれば、貴族の邸宅への窃盗行為はあまり聞いた事がない。

 オーウェン家は地方貴族なので警備など無いに等しいのだが……防犯など精々戸締まりをしっかりするくらいのものである。

「大声で誰かを呼んで下さい。決して一人でなんとかしようと思わない様に」

 フィーナからミレットに出来るアドバイスはこれくらいのものだ。

 それでもまだ彼女は不安そうである。そんな彼女に対し出来る事と言えば……

「大丈夫です。あなたなら夜間、人の気配を察知するの上手じゃないですか」

 こうやって彼女の両肩に手を置きを元気付ける事くらいである。

 あまりに不安がるのでこっそり強運の特性は付与してしまったが、これ位なら歴史の大勢に影響は無いだろう。

「神様もきっと見守っておられます。ですから自信を持って」

 神様へのフォローも忘れない。末端の女神も大変なのである。



 とある日のオーウェン家の屋敷内の長い廊下にて三人の女性が会話をしていた。

「フィーナとか言ったかしら? 亜人を雇ったとは聞いていたけど、やっばり出来がよろしくなくて?」

 一人は豪華なドレスを身に纏い、扇子で口元を隠しながら貴婦人らしき女性が話している。

 その女性はガッツリメイクを決めていると言うか、全力で老化に逆らっていると言うか……。

 性格の悪さが隠せない程のシワがほうれい線に浮かび上がっている。

「申し訳ございません。ジェシカ様」

 彼女に謝っているのはフィーナであり、彼女は深々と頭を下げつちな嵐が過ぎるのを待っていた。

 フィーナは基本的に敬称など細かい事は気にしない性格をしている。だが、初対面の人間に呼び捨ての上罵倒されるというのは気分が良いものでは無い。

 さんを付けろよデコ助野朗!とまでは思わないまでも、面白くないのは面白くないのだ。

「ほら、さっさと仕事にお戻りなさい」

 ジェシカに促され仕事に戻ろうとするフィーナが彼女の横を通り過ぎようとしたその時


ーガッ!ー


「きゃっ!」

 ジェシカに足を引っ掛けられフィーナは無様にも転ばされてしまった。

「あらあら、ドン臭いわねぇ。おほほほ……」

 扇子で口元を隠しながら嫌味ったらしく笑うジェシカ。

 一方、彼女に付き従ったままのアニタは表情一つ変えない……が、転ばされたフィーナに手を伸ばし

「ほら、奥様の手前よ。きちんとなさい」

 と、立ち上がるのをそれとなく手伝ってくれた。

 これまでに何人ものメイド見習い達が苛められているのを見てきたからだろう。

 新人に対するフォローの仕方も慣れたものだった。

「じきに昼食の時間よ。大広間の準備は私達がしますから、貴女はアルフレッド様のお食事を御用意なさい」

 アルフレッドは自室で食事を一人で摂るのが決まりであるらしい。

 特に病気とか身体が弱いとかではなく、生まれてからずっとそう育てられているそうなのだ。

「すみませ〜ん。アルフレッド坊ちゃまのお食事お願いしま〜す」

 フィーナはキッチンに戻り調理担当にアルフレッドの食事を用意してもらう。ジャガイモパンにソーセージ入りのポトフ、あとは飲み物である紅茶だけ……。

 ふと、準備が進められている他の家族用の昼食の献立を見てみると……ポトフは前菜扱いでメインはローストチキンと豚の丸焼き。

 加えて豪華なプリンがデザートとして添えられている。

 ここまであからさまに差を付けられていると、さすがにアルフレッドが不憫になってくる。

 だが、とりあえずは用意された物を持っていくしかない。

「それじゃ、失礼します」

 フィーナは料理をワゴンに載せ、アルフレッドの部屋へと向かうのだった。



 アルフレッドの自室前に着いたフィーナは


ーコンコンコンー


「アルフレッド坊ちゃま。お食事をお持ち致しました」

 軽くドアをノックし、彼からの返答を待つ。

「……どうぞ」

 少し間が空いたその声のトーンは低いものだった。

「失礼致します」

 ワゴンを押しながらアルフレッドの部屋へと入る。

 室内にはベッド、木製のテーブルとチェア、タンス……と、必要最小限といった程度の家具しか置いてない。

 木製の椅子に座り本を読んでいた黒髪の少年、アルフレッドからは子供らしい表情が読み取れない。

 四歳くらいの男の子なら、親が手を焼く程に活発なのが普通なのだろう。

 そういった意味では彼は普通の子供とは言い難かった。

「それではお食事を御用意させて頂きます。恐れ入りますが御本を……」

 フィーナは食事の妨げとなる本をアルフレッドから本を預かって片付けようとする……。

 だが、この部屋には本棚らしい物はおろか収納場所も見当たらない。

「しまうところないので、タンスの中に入れてください……」

 アルフレッドからのお願いに少々困惑気味のフィーナ。本をタンスの中にしまうのは湿気を考えればあまり推奨出来る方法ではない。

 まして、この世界の防虫技術などあって無い様なものだろう。

「タンスの中でよろしいのですか? タンスの上でも差し支えなければなさそうかと思われますが……」

 タンスに本をしまう事に気が進まなかったフィーナはとりあえずタンスの上に置く事を提案する。

 タンスの位置は日光も当たらない位置のため日焼けする心配はない。しかし、アルフレッドは

「その本はアルヴィン兄様からいただいた御本なんです。母様に見つかったらきっと取り上げられてしまいますので……」

 フィーナからの提案は受け入れられない様だ。他には適当な場所など見つからないしどうにもならない。

 それにしても、息子からこれほどまでに信用されていない母親の素行の悪さはどうにかならないものだろうか。

 天罰の一つでも下したくもなるが、自分はその立場には無くその権限も無い。

 上からの命令があれば天罰出来なくもないが今の状態で行使してしまっては、それはただの越権行為であり単なる自己満足でしかない。

「それでは、適当な収納場所が出来るまで私がお預かり致します。御本が必要な時はいつでもお呼び下さい」

 仕方がないのでフィーナは自身で本を預かる事にした。

 女神である彼女には日焼けも湿気も虫も何の心配もいらない、某青猫ロボも真っ青の女神特権収納場所がある。

 何かを人知れず隠しておく収納場所としては破格の待遇である。しかし……

「……でも、わざわざメイドさんをお呼びするのもわるいですし……」

 そう言うアルフレッドはどこか余所余所しい。四歳そこそこの少年としてはあまりに不相応な反応だ。

 普通ならこの年頃の少年ならば元気一杯で騒々しいくらいが普通である。

 このままでは一人の人間として健やかな成長は望めそうにない。

「私の我儘とお思い下さい。それでもご不安でしたら……」

 フィーナはどこからか小さな手持ち用のベルを取り出した。

「こちらを鳴らして頂ければすぐにアルフレッド坊ちゃまの元に駆け付けます。どこに居ようとこの耳なら聞き逃しませんのでご安心下さい」

 自身の長い耳を指し示し微笑みながらフィーナはアルフレッドに言い聞かせる。

 ハンドベルを手渡すと彼はようやく安心した様だ。

 少し時間が掛かったがようやく食事の準備が始める事が出来る様になった。

 フィーナはテーブルにクロースを掛け料理を次々と載せていく。

 ジャガイモのパン、野菜とソーセージのポトフ、温かい紅茶……。

 この世界の食事としては十分なのだろうが、彼女としてはもう一品二品付け足したい心情である。

 料理の数はジェシカ奥に厳しく制限されているため、アルフレッドの分を余分に用意するのは不可能に近い。

 彼女はよほど暇なのか姑の様に屋敷の家事を常に監視しているのだ。自分の意に背こうものなら徹底的にいびり倒し苛め抜く。

 メイドが定着しないのも原因の十割は彼女が原因である。

 一組織として考えてもジェシカ奥はただの無能な働き者でしか無いと断言出来る。

 アルフレッドに食事用の前掛けを付けたところで食事の用意は完了である。

「……いただきます」

 アルフレッドは出された料理を黙々と食べ始めた。

 彼の他にはフィーナ以外誰も居ないのだから当然なのだが静かな食事である。

 少しの間、食器同士の接触音以外物音の無い静かな時間が流れた。


ーガチャー


「あら、食事中だったかしら。失礼」

 その時、唐突にドアが開きアニタを従えてたジェシカ奥がズカズカと部屋に入ってきた。

「何か御用ですか? アルフレッド坊ちゃまはお食事中でいらっしゃいます」

 今にもアルフレッドに何かを言おうとしたジェシカ奥に対し、先手を打ちフィーナは自身に注意を向けさせる。

 親子同士とは言え、真っ青な顔になっているアルフレッドを見れば介入もやむ無しである。

「ああ、貴女に聞きたい事がありましてね。本日のデザートは何だったかしら?」

 扇子で口元を隠しながらフィーナに尋ねてきた。どうして、今この場でそんな質問を……?

 どう考えてもアルフレッドへの当てつけとしか思えない。日頃から扱いに差をつけているであろうアルフレッドの劣等感を刺激するには十分だろう。

 こんなくだらない事でも、それが毎日ともなれば幼い子供に与える精神的負担は相当な筈だ。

 さすがにこのまま看過する訳にはいかない。黙認は容認と大差ないのだ。

「本日のデザートは、奥様のお好きなババロアでございます。」

 なんて事のない普通の返答である。しかし、ジェシカ奥は見るからにムッとした表情をしている。

「お聴こえにならなかったみたいで申し訳ございません。奥様お気に入りのバ・バ・ロアでございます」

 次にフィーナは声量を上げて一部を強調して言ってみた。

 奥様とババの部分を特に。ぶっちゃけ奥様ババァとしか聞こえない。

「ブフッ!」

 ジェシカ奥の後ろにいたアニタがフィーナの台詞に思わず吹き出す。

 一方のジェシカ奥は能面の様な顔をしている。目元はピクピク動き口元は明らかに引きつっているのが分かる。


ーバシッ!ー


 ジェシカ奥は扇子を畳むとそのままフィーナの頬を扇子で殴りつけた。

 一方のフィーナは避ける素振りも見せずに扇子を頬で受ける。

「面白い娘ね。その強がりがどこまで保つか楽しみだわ」

 そう言うと、ジェシカ奥はアニタを従えて部屋を出て行ってしまった。

 どうやら今のやり取りでフィーナ自身が、ジェシカ奥の苛めの標的となってしまった様だ。

 だが、アルフレッドを護れるのなら何も問題は無い。

「アルフレッド坊ちゃま、お茶のお替りはいかがですか?」

 いつの間にか食事を終えていたアルフレッドに紅茶のお替りを勧めるが、あまり欲しくは無さそうだ。

「それでは、こちらが食後のデザートです」

 フィーナはどこからともなくババロアタルトを取り出しアルフレッドの眼の前のテーブルに置いた。

「あの……これは……?」

 素直に喜べないらしいアルフレッドが心配そうに尋ねてきた。

「私の特別製です。さぁ、冷たい内にお召し上がり下さい」

 確かに彼女の特別製である。フィーナ自身の神力で創造したものなので特別製で間違いは無い。

 神力の補充が難しいとは言えこの程度なら残量を気にする程でも無い。

 フィーナに促されたアルフレッドはババロアタルトをはにかみながら口に運ぶ。

 こういったデザートは久しぶりだったのだろう。アルフレッドは嬉しそうに食べ進めていく。

(…………)

 やはり、誰かに喜んでもらうというのは良いものだ。

 フィーナが使える神力が無尽蔵ではない以上、同じ事を続けていくという訳にはいかないが。

(何か方法が必要ですね……)

 目的が本筋から外れそうだが、最優先はアルフレッドが前世の記憶を取り戻さない事である。

 それには記憶を取り戻す可能性の芽を一つ一つ摘んでいくしか無い。

 自分のやっている事が間違いでは無いと信じて歴史を進めていくしか、方法は無いのだ。

(頑張りましょう……)

 前途多難を感じながらフィーナはアルフレッドの記憶復活阻止を心に誓うのだった。

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