元宰相side
「おじい様、王都の友人からお手紙が届いておりますわ」
ノックの後、優雅に部屋に入って来た孫娘。ヘスティアのふっくらとしたお腹に目を細めてしまう。ヘスティアは昨年結婚し、妊娠中じゃった。来年には新しい家族の誕生という事で息子夫婦も大喜びしておる。結婚相手は東方の王族。お陰で東の国々との貿易が盛んに行われ収益が増え続けておる。近隣諸国との貿易も更に増えておるし、今では王都よりも公爵領の方が華やかじゃ。儂自らが率先して貿易交渉に赴いた時は各国がそれに驚いていた。儂が平身低頭する姿に真っ青になっておったな。公爵領の発展と次世代当主の成長のためなら幾らでも頭を下げてやるわ!
「王都が大変な状態のようです」
「ほぉ……手紙を見たのか?」
「見なくとも分かります。最近、きな臭い噂しか聞きませんから」
「ふぉふぉふぉ。ヘスティアの友人も情報収集を頑張っておるのじゃな!」
「若い芽は確実に育っていると仰ってください」
次代の公爵家の影も優秀に成長していっておるようじゃ。
ヘスティアから受け取った手紙の内容とほぼ変わらない情報を既に得ておるのじゃろう。友人からの手紙にも「新人達は粗削りな処が目立ちますが懐に入り込むのが非常に長けております」という内容じゃった。
「なんとも大変な事態じゃな。王都で小規模な暴動が起こっておる。民衆が王宮の門の前で抗議活動をしているとは世も末じゃ」
「ここ数年、王都の経済は低迷していますから致し方ありません。物価も年々上昇傾向ですし……民衆はパンを求めて政府官僚の家を襲うという事件まで起こっていますわ」
「嘆かわしい事じゃ」
「王宮からの帰りの馬車を襲われて大怪我を負った大臣もいらっしゃるとか……」
「痛ましい事件じゃな」
「大臣が乗っている馬車を民衆は把握している節が見られますわ。不思議ですわね。何故でしょう?」
「はて?何故じゃろうのぉ」
すっとぼけてみる。
ヘスティアも裏で儂が動いている事を知った上で聞いておる。
「あまり派手な事はなさらないでくださいね。王家の影が動いているようですから」
「奴らに何ができるのじゃ」
「おじい様、油断大敵と申します。こちらにまで火の粉が掛かってきては目も当てられませんよ」
「う~……む」
確かにヘスティアのいう通りじゃ。
大火になった時の対策を今から立てねばならん。暫く大人しくしておるかの。




