とある苦労人side
「で、俺は何をすればいいんだ?」
この男が俺に話したって事はよっぽどだ。断れば身内でも容赦ないだろう。
「宰相閣下の庇護下にいた者達の調整役を頼みたい」
「……ああ。王宮に残った連中か」
自分達のトップがいなくなったのに、よくぞ残ったもんだ。針の筵どころじゃないだろうに。
「因みに、誰が残ったんだ?」
残った者達は当然ながらエリート揃いだった。
しかも全員が実力はピカ一。ただし人付き合いがド下手くそな連中ばかり。仕事は出来るけど交際関係が乏しい。
「なんでこのメンバー? もしかして宰相閣下の嫌がらせ?」
「……本人達の意志による決定だとは聞いた」
「マジ?」
「マジだ」
「確かに仕事はできる奴らだ。でも……こいつらに人望はねぇ」
「ああ」
「仕事をキッチリとこなしてはくれるが協調性が皆無だ」
「ああ」
「実力は折り紙付きだ。だがな、その残っている連中は下位貴族出身者ばかりだ。政財界に縁者がいる訳でもなく、社交界に顔が利く親戚がいる訳でもない。言っちゃあ悪いが本人の実力以上に合理的な宰相閣下の庇護下だからこそ出世できた世間知らずどもだ」
「その通りだ」
「こいつらバカなの?」
「全員が頭脳明晰だ」
「じゃあ何? 自殺志願者? もう宰相閣下はいない。その派閥も去った中でどうやって生き残っていく気だ!?」
「信じがたい事に、彼らは今まで通りだと思っている」
「え?何が?自分達が?宰相がいないのに?」
マジでどうやって魑魅魍魎の渦巻く政界で生き残る気だ?
実力だけでどうにかなる世界じゃないだろう。
「彼らの言い分では、今まで偶々宰相閣下に目を掛けられていただけの話らしい」
「なんじゃそりゃ?」
偶々な訳ないだろ。
「宰相閣下がいなくとも自分達の実力なら今と同じように出世できていた、という話だ」
「アホか」
そんな訳ないだろう。
宰相閣下がいたから面倒事に巻き込まれなかったんだ。
「アンドレには彼らに現実を教えないで上手く仕事をさせて欲しい」
「はい!?」
「ああいった世間知らずのエリートは挫折というものを知らない。だから一度の挫折で起き上がる事も出来なくなる場合が多いんだ。今、そうなられたら困る。連中、仕事はできるんだ。上手く仕事だけをやらせて欲しい」
つまり連中に大量の書類仕事をさせろと言う事か。
王宮のごたごたに巻き込ませず、余計な事を考えさせずに、与えられた仕事をこなすように躾けろという。それなら俺にもできるか。連中に「王宮での生き方を教えろ」とでも言われるのかと思ったが、その逆だ。
なら答えは決まっている。
「了解」
それだけ。
連中が望んだ通り、今までと変わらない。いや、今まで以上に仕事をさせてやろうじゃないか!




