宰相派の辞職
祖父率いる宰相一派は、一斉に政界から去りました。職を辞して領地に戻る者もいれば、祖父と共にスタンリー公爵領にやって来る者もいました。
そのこと自体は別に良いのですが、問題は――
「引き継ぎもしないまま辞職なさって本当に宜しかったのですか?」
「ふぉふぉふぉ。構わん構わん」
「今頃、王宮は大騒ぎでしょう。無責任ではありませんか」
「何を言ってるんじゃ。それが狙いじゃ。王太子ども右往左往しておるだろうよ。諸外国の大使達からの追及もあろうて。暫くの間は、そちらに掛かりっきりになる。何せ、前代未聞の辞職騒動じゃからのぉ」
騒ぎを起こした張本人だというのに祖父は暢気なものです。いえ、違います。王都の様子を影を使って逐一報告させている位です。用心深い処は変わりません。
「この騒動のお陰で身辺整理も出来たしのぉ」
王都に蔓延っていた悪徳商人や裏組織の一斉取り締まりが数日前にありました。何でも密告があったらしく、警察組織によって一網打尽にされたそうです。かなりの大捕り物だったようで、負傷者の数も多く、中には命を落としたとも聞き及んでいます。
「あの王太子殿下は腐敗を毛嫌いしておる。思った通り直ぐに公開処刑をしおったわ!」
そうなのです。
捕まえた者達は全員処刑。
「尋問の時間は少なかったと聞きますが、何故でしょう?」
「アジトで捕獲されたのじゃ。証拠はたんまりある。尋問という名の言い訳を聞く必要はないと判断したんじゃろう。それにの、こういった大きな事件は民衆の関心をよぶ。勿論、貴族達の関心もな。公開処刑を言い渡したのは王太子殿下じゃ。次の自分達のご主人様が誰か印象付けるにはもってこいの演出じゃ!」
偶然ではないでしょう。
祖父が裏で手をまわした可能性があります。
そうでなければ、この時期に彼らの悪事が明るみになるなどおかし過ぎます。裏の組織と関係を持っていたのは我が国だけでなく諸外国にも広がっていました。他国も上を下への大騒ぎ。要人達の失脚が相次いでいます。我が国と懇意にしていた外交官が何人も失脚しているのです。当然、祖父が関与しているはずですが、きっと証拠は出てこないでしょう。王太子殿下も祖父に疑いの目を向けているようですが調べれば調べるだけ祖父の無実の証拠しか出てこない状況なのでしょう。ご愁傷さまです。




