復讐心
「どういうことですか?」
「ハミルトン侯爵自身は正義感故の行動であっても、一族の者達が必ずしも賛同していた訳ではないと言う事じゃ。中には、ハミルトン侯爵の名前を騙って懐を温めていた者も大勢おった。ハミルトン侯爵に勢いがあった時は良いが、落ち目になれば簡単に手の平を返す。不正で得たとはいえ、手に入れた富を失いたくないものじゃ。それに名門侯爵家の当主というのも魅力的じゃった。これは調べて分かったことじゃが、ハミルトン侯爵の両親は叔父夫妻に殺されていた。理由は侯爵家の資産の横領がバレたかららしい。どうやら今まで根回しで何とかしてきたようじゃ。今回も同じ手でいけると思ったのが運のツキじゃな。そこから芋づる式に悪事が表ざたになったのでな、政府が急いでハミルトン一族を処罰したんじゃ」
「それはいい事なのではありませんか?」
「ふぉふぉふぉ。確かにいい事じゃな。臭い物に蓋をする、という意味ではな。厄介な親族が多いと当主は大変じゃ」
「つまり悪事の片棒を担いでいた人達が多かったんですね」
「それもあるが、同じ穴の狢が多かったんじゃ。ハミルトン侯爵家を族滅させることで自分達の保身に走った結果じゃな。民は満足するし、大勢の貴族共も首の皮が繋がる。良いことづくめじゃった。この事を蒸し返されて破滅する者は多い。ゆえに、ハミルトンの名前は貴族籍から消去したんじゃ。初めから居ない者としてな」
政府の腐敗が酷すぎます。
この国、大丈夫でしょうか?
「まさか、生き残りがおったとはのぉ。事が露見すればただではすまん」
祖父は笑いながらも目が冷ややかです。
話を聞く処によると、生き残ったハミルトン侯爵家の女性は関係者に復讐を誓っている様なのです。関係者が地獄を見るのは自業自得です。ですが、それに自分達までも対象になっていると話は別です。幾ら、祖父達の罪とはいえ、連座されるのは御免です!
「楽に殺してはもらえんだろう。公開処刑で断頭台の上にたてたなら上等の部類じゃろう。何十年と経っておるからの。憎しみも膨れ上がっておろう」
不穏な言葉が出てきました。
何ですかそれは。
「許されませんか?」
「儂なら絶対に許さん。あれだけの事をされたのじゃ。地の果てまで追いかけて恨みを晴らす。何十年かかってもな……」
「全てを忘れて誰もいない地でやり直そうとはしないのですか?」
「絶対にせん。与えられた憎悪は何十倍にして返してくれる」
私はおじい様の方が恐ろしく感じます。
きっとこうやって政界で生き残ってきたんでしょう。
やった方は簡単に忘れるけれど、やられた方は決して忘れないと聞いた事があります。どうやら本当のようです。
「潜伏期間が長いほど復讐心というのは膨れ上がるものじゃ。しかも相手は捨て身じゃから余計に質が悪い。死を恐れない者の報復ほど怖いものはないからの」




