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正義1


「ヘスティアが知らないのも無理はない。ハミルトン侯爵家が族滅したのはヘスティアが生まれるずっと前の事だ」


 族滅……恐ろしい言葉が出てきました。


「ずいぶん昔に滅んだ一族だ。名前も我が国でタブーになる程にな」


「何があったのです?」


 一介の貴族の名前が禁句になるなど……反逆者でしょうか?

 いえ、それなら普通に逆賊で終わります。


 答えを返してくれたのは祖父でした。


「我が国は戦争や内乱も百年程ない平和な状態が続いておる。周辺国との仲もそこそこ良好じゃ。そうなってくると内部で争うようになる。何しろ、敵が外におらんからな。貴族も今ある権力や富を更に増やそうと企む。汚職や賄賂は当たり前、出世するために相手をどんな手を使ってでも陥れて自身がのしあがるなど日常茶飯事じゃ」


「貴族にはよくある事ですね」


「そうじゃな。競争社会で隙を見せた方が悪い。無論、現状を憂えて何とかしようと足掻く者達もおった。じゃがな、そういう連中は後ろ暗い奴らにとっては目障りな存在でしかない。当然、芽が出る前に潰す」


 しみじみと言っていますが……祖父もその一人なのでは?

 少なくとも昔を懐かしむように話す内容ではありません。


「ハミルトン侯爵も潰された芽じゃった」


「おじい様、話が全く見えません。潰された側ですのに何故タブーの存在になるのですか?」


「当時、ハミルトン侯爵家は()()()()()によって十九歳の若い当主が誕生しておった。一を聞いて十を知る。頭の回転が速く、リーダーシップに優れ、正義感に溢れる将来有望なよい若者じゃった」


「そのような前途有望な方が何故……」


「正義感が強過ぎたせいじゃ。ただの熱血漢なら捨て置くことも出来たが、ハミルトン侯爵は優秀じゃった。しかもカリスマ性も備えておってな。若い者を中心に共鳴者(シンパ)が大勢おった。政治家全体から見れば少数派ではあったが、ハミルトン侯爵は活発に動き回り市民から学生まであらゆる層から支持されるようになったのじゃ。特に学生からの支持は凄まじいものだった。当時、『学生党派』などという異名が流行った程にな」

 

「政治力を一切持たない者達から応援された処ではどうにもならないではありませんか。そのハミルトン侯爵の支持者である学生達が政界入りするにしても、力を持つのには時間が掛かります。いえ、その前に失脚する恐れもあります。危険人物とは思えませんが?」


「ふぉふぉふぉ。ヘスティアもまだまだ若いのぉ。いや、そうではないの。儂らも始めはヘスティアと同じ考えじゃった。寄せ集めの集団など何もできん。しかもハミルトン侯爵を支持するのは力を持たぬ市民ばかりじゃった。その考えは間違いであった事に気付いた時には遅かった」


 祖父の苦渋に満ちた顔を初めて見ました。

 何時も飄々となさっている方ですのに……。



 


 



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