元伯爵side
「室長は頭いいのにバカなんだね」
罵倒から始まった。
バカと言われたのは生まれて初めてだ。
「室長の考えなしの極めつけのアホの三男坊が高位貴族の子息との間に壁があったのは当然の事だ」
「……何故?」
うちは一般的な伯爵家だった。友人を作るのに壁がある筈がない。現に他の息子達には友人がいる。寧ろ多い方だ。全てを失っても秘かに交流を続けてくれる友人もいる。なのに何故、ヴィランだけそれがないのか……。
「室長の事だから『なんで?』って言葉が頭の中をグルグルしてるだろうから、優しい部下が教えてあげます! ズバリ、天才と凡人の差って奴ですよ」
よけいに分からん。
「すまない。分かり易く言ってくれないか?」
「あれ~~? これ以上ない位に分かり易いと思うんだけど? まあいいか! 早い話が、優秀な家族の中で唯一出来が悪い息子が、公爵令嬢と婚約して将来安泰だって事が原因」
「嫉妬か?」
「惜しい! それもあるけど、三男坊って白鳥だらけの中に一匹だけ醜いアヒルが混ざっているような存在でしょう? 『特別』な両親と『特別な』兄弟達に囲まれて『特別』な家柄の令嬢と婚約中。なのに彼自身は『凡庸』だ。容姿も才能も秀でた処が全く無い」
「それがどうした? 凡庸の何がいけないというんだ?」
凡庸というなら伯爵家だった我が家は元々「凡庸な爵位」だ。
「いけなくはありませんよ。全く、これだから恵まれた人間は……」
グチグチと小声で何かを言っている。「部下」は勘違いしているぞ。そもそも恵まれた人間ならこんな事になっていない。
「はぁ~~~。いいですか、室長夫妻は貴族として『特別な人物』なんです。双子の兄弟も文と武の双璧とされて『特別な人物』だった。末の四男も美麗な容姿で『特別な人物』だ。なら三男坊は? 何もない。しいて言うなら『特別な人物達を家族に持った凡人』だ。その『凡人』の婚約者もまた『特別な人物』ときた。周囲が『特別』で埋め尽くされちゃってる。三男坊の報告書に記載されてない部分でかなり陰口を叩かれていたらしいよ。それこそ『皆が出来るのに何でお前は出来ないの?』とかね。三男坊が室長夫妻のどっちにも似てないのも拍車かけちゃってたしね。『余所の子供』とか、『慈善事業の一環で孤児を養っている』とか。一番多いのは、『夫人が不義を働いて出来た子供』だよ。知ってた?」
「社交界で噂になっていたのは知っている」
「ははっ! 知っていて放置してたんだ!」
「根も葉もない事で、私も妻もバカらしいと相手にしなかっただけだ」
「ま、確かに。でも、あんたら夫婦は何とも思わなくても三男坊は違ったと思うよ?」
気にしていたという事か?
一体何を気にすると言うんだ?
両親に似ていない子供など他に幾らでもいる。大体、ヴィランは私の亡き母親似なんだ。顔立ちも髪の色も目の色も全て。そんなもの家の肖像画を見れば一目瞭然だろうに。