表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/70

家族のような何か 

 

 恐らく、ヴィランは「スタンリー公爵家()自分の家族」と思っていたんでしょうね。

 本人に確かめた事はないけれど、きっと間違いないでしょう。


 本当の家族以上に近い存在ではあったから……あながちヴィランの「思い違い」という訳でもなかったのです。何しろ、結婚すれば本物の家族になるのですから。それまでは飽く迄も「ヴィランは()()()()()()()」でしかありませんでした。結婚して本当の家族になるまでは「疑似家族」に過ぎません。


 教育に関しても()()です。


 ヴィランに最低限の教育しか施さなかったのは何もヤルコポル伯爵家の体面を気遣っての事ではありません。本人の気質の問題でした。スタンリー公爵家としても婿になるヴィランには、私の()()()をして欲しいという狙いがありました。

 最初の頃はヴィランも素直に机に向かっていたのです。

 ただ、どう教えても頭に入らない様子でした。


「ヤル気が欠けているせいです」


 担当していた教育係の言葉は正しかった。

 勉強よりも遊びを優先させるヴィランに失望を覚えるのに時間は掛かりませんでした。これには両親も首を捻るしかありません。

 両親もお兄様達も優秀な方々なのです。何故、三男のヴィランだけが出来が悪いのか……と。


 ですが、物は考えよう。優秀過ぎる婿よりも「スタンリー公爵家の運営の邪魔をしない婿」の方が全体的にメリットがあると判断したのです。


 とどのつまり、ヴィラン本人に価値はなくとも彼の実家である伯爵家とその家族には多大な価値があると公爵家が判断した故に婚約が継続し続けたと言っても過言ではありません。



 法務大臣の父君、王妃殿下の腹心と名高い女官長の母君、王太子殿下の側近の双子の兄君、将来有望な弟君。

 ヴィランを除いた優秀な家族のお陰で、彼は、スタンリー公爵家で何一つ気に病む事なく自由気ままに日常を送れていたのです。

 将来有望な家族の存在に守られて生きているというのに、それを彼は理解できなかった事が非常に残念でなりません。


 結果として実の御両親と御兄弟が積み上げてきた実績と信頼と信用、その全てを犠牲にしたのです。



 愛人候補を公爵家に連れ込もうとしたのは結果論に過ぎませんが、伯爵家が何れ近いうちに排除されていた事は間違いないでしょう。

 彼らは敵が多過ぎた。

 伯爵一家を妬む者達は数多くいました。

 彼らが今まで何事もなく過ごせていたのは王家とスタンリー公爵の庇護の元にあったからです。もっと言うなら、おじい様である先代公爵。宰相閣下が目を光らせていたからとも言えます。

 だからこそ、あれだけの事を仕出かしておきながら命だけは助かったのです。

 今まで忠義を尽くして国家と王家に仕えていた情けで「死罪」は免れた。もっとも伯爵夫妻にとっては死んだ方が遥かにマシかもしれませんね。

 特に伯爵夫人は一生病棟から出られません。

 彼女もその事を理解しているはずです。


 王妃殿下の腹心という立場は「王家の秘密を知り過ぎている」という事です。


 伯爵夫人は大変頭の良い方。「夫を立てる事が出来る賢い女性」です。そしてとても用心深い方とも言えます。自分に何かあった場合の事もあらかじめ予想を立てていた事でしょう。惜しむべきは三男の教育を怠った事。王家は伯爵夫人が生きている間はその家族を生かし続けてくれるでしょう。


 ですから、伯爵夫人。

 長生きしてください。

 狂ったフリをしながら……。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 末尾の伯爵夫人のとこがよくわかりませぬ。 一族そろって有能で重鎮だったために妬みも全方位からされている。 今回の件で権力が失墜したために誘拐されたり暗殺されたりをされかねない。 失態…
[一言] 伯爵家ばかり責めてますが教育を怠ったのって公爵家の方じゃ? 側から見て伯爵家三男が入り浸ってる状態を伯爵家に抗議もない以上その状態を言ってしまえば容認、つまり公爵家が正しい事と認めてたと判断…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ