16 ラウンドトゥ····
青髪の少年が狼男と向かい合う
狼男は右腕を失い満身創痍なのに対し、少年は無傷。
戦局は、誰がどう見ても少年に傾いていた。
「グッ····やってくれたな小僧ォォォッ!」
自分の必殺技が効かないだけでなく、逆に操られ、あまつさえ戦場で右腕まで失う大痛手···。
「よくも····よくもォォォッ!!」
静かに佇む少年に吠えるが、少年は相も変わらず隙だらけの体を晒している
だが、打ち込めない····。
先程未だかつてない位の痛い目を見たばかりだからだ。
あの餓鬼を殺すよりも、その後ろで震えている子供達を人質にするの方が遥かに簡単だ
だが、ヴォルグは狙った獲物以外には絶対に危害を加えないというある種の仁義がある。
睨み合いが続く····
太陽は落ちきり、空には月が浮かんでいる
サァッと、草を揺らして風が吹く
「そろそろか·····」
少年がハードボイルドに呟いた。
風に吹かれて青髪が舞う。
静かな戦場と綺麗に整った風貌が相まって、そこらの女子なら黄色い声を上げて卒倒する位には絵になる光景だが、本人の頭の中は····
『そろそろ晩ご飯の時間だなー···今日の夜ご飯何だろ?』
目の前に手負いの魔王軍幹部がいるのに呑気なものである。
最も、当の狼男はスライムと勘違いされているが····。
何はともあれ、初めての魔物討伐にしても時間をかけ過ぎた····これだけ時間をかけたんだからさぞ強い魔物を倒したんだろう、え?と村の大人達に聞かれて、スライムです、って答えるのは何かムカつく。
絶対じっちゃんに弄られる。
頭に浮かんだ目を三角形にしたウザイじっちゃんの顔をかき消してスライムと向かい合う。
ちなみに何度も言うが、彼はスライムでは無く魔王軍の右腕的存在である。
「さて、余り時間もかけられないし、そろそろ決めるか·····」
フッと笑い、呟く。
この男、見た目だけは一流である。
·····中身はポンコツだが。
その呟きに、ヴォルグがたじろぐ。
「必殺!超ウルトラスーパーダイレクトギャラクシーバーニング·····」
「グッ!?····防御結界(防護領域)!」
レイの詠唱(?)に、ヴォルグが防御魔法を使用する。
「ドラゴニックエンジェル·········小石投げ!!」
「!?」
すざましい速度で投げ出された小石がヴォルグの結界にぶつかり、弾き返された。
「あれ?」
「·····?」
静寂が場を支配する。
気まずい空気感が漂ったその時·····
狼男の顔目掛けて光の矢が飛んできた
「大丈夫かい、レイ君。····何はともあれ、間に合って良かった」
「子供達は無事ね。気をつけて····あれ、黒狼師団長よ。」
半透明の弓を持って空から降りてきた優男が、ニッコリと俺に微笑みかける
「王国騎士団《王の弓》団長、シャムロック・デニア・アテラス」
「同じく王国騎士団、《王の弓》副団長、アイリス・アテラス」
男に続いて、空から降りてきた金髪の女性が名乗りを上げた。
2人は二ーファの両親だ。
チッと、大きく舌打ちをした狼男が吐き捨てる様に名乗る
「魔王軍、黒狼団師団長、ヴォルグ・ガロドルフ····」
「じゃあ尋常に····」
「いざ勝負!」
シャムロックは弓の弦を引き、アイリスはロングソードを正眼に構える
「グルァァ·····最悪の日だぜェ····」
第2ラウンド開始のゴングが鳴った····