15 二ーファ②
退屈な日だった。
両親が留守の日は剣術の練習ができないので、日課である魔力トレーニングを終わらせるともう何もする事が無くなってしまった。
あまりにも退屈過ぎたので、家に置いてある魔術本を再び読み直そうかと思い、部屋の本棚から本を下ろす。
《 水と風の魔術 著者グレールーツ・ガロア》
グレールーツ・ガロアは、200年前の大魔法使いだと母が言っていた。
魔法使いには大まかな位があり、地方によって名称が変わるが、王国の公式の発表によると上から順に····
────
大魔導師
魔導師
大魔法士
魔法士
上級魔法使い
中級魔法使い
初級魔法使い
────
····だ。
その他にも、魔法使いに師事する者は見習い魔法使いと呼ばれたりと、特に明確な差はなく、呼ばれるきっかけも国の試験に受かったとか、強大な敵を倒したとか、世論の働きも大きい。
最も、大魔導師ともなると歴史上5人しかいないとされていて、それぞれがもれなく歴史に残る大偉業を成しているので位の中でも大魔導師だけは別格とされている。
何度も読み返した本をまた開く
《水の魔術を上手く使いこなすには他属性との均等を·····》
分かりきった内容を見て、やっぱりつまらないと感じて本を閉じる
本当に退屈だ。
閉じた本の黒い表紙に、柔らかな陽が差し込む
····あったかい。
·····外に出たい。
でも、父と母が·····。
外に出る位良いじゃないか、もう7歳なのだから。
ピンクの髪を手で整えながら脳内会議を開く
····ちょっとだけなら。
ダメだよ·····危ないから。
危なくないよ·····魔法があるから····。
最初から答えは決まっていた
外に出てみよう·····。
危なくなれば魔法を使って家に逃げ帰えればいい。
「《ウィンド》·····」
風魔法を使って窓枠に飛び付き、鍵を開けて外に出る
よく晴れていた····のどかな田舎村に吹くそよ風は暖かく、素足に当たる土の感触はくすぐったい
「フフっ·····」
初めての体験に思わず溢れる笑みを抑えて、上機嫌に歩き出す
昼間だからか村に人通りは無い、畑で働いているのだろう。
しばらく歩いていると、村のはずれに着いた。
村外れには小さな池があり、その横に1人の少年が胡座をかいて座っていた
青い綺麗な髪に、整った顔。
歳は7歳位か、そんな少年が何故1人で座っているのかは分からないが、1つ気になる事がある。
····あの少年の魔力が見えない。
魔力が無いのだろうか。
そう思い遠くから観察していると、少年が何か呟いた
石ころが、浮き始める
····放った魔法の魔力は見えない。
やがて大量の石ころが宙に浮かんだ。
それでも魔力は見えない
薄ら寒いものを感じた。
自分達とは全く異なる異質な何か·····。
少年がその場を立ち去ってからしばらくした後になって、二ーファはようやく我に返った。
帰り道····行きは興味深かった全ての景色は、二ーファの目に写らなかった。
急ぎ足で家に帰る·····
····浮遊魔法····無詠唱···魔力の制御·······。
さっき見た魔法が頭をグルグルと駆け巡る
家の呼び鈴を鳴らす
何度も何度も·····
5回程押した所でようやく扉が開いた
「ッ!!どこ行ってたの!?」
心配して涙目になっていた母を無視して、早歩きで家に駆け込む
「ちょっ、二ーファ!?」
父を押し退けて自分の部屋に引きこもる
魔法を打つ·····何度も何度も·····。
二ーファ・アテラスに、目標ができた瞬間だった。