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活路はどこに

歓声、ヤジ、怒号、罵声。全てに包まれながら、コマチはゆっくりと、ミハルに向かって歩いてくる。


服の左袖を拾った短剣で斬り裂き、止血代わりに腕に巻く。痛みはあるがまだ動く。

わかっていたことだが、コマチ相手に飛び道具の有利はない。

近接戦も駄目。遠距離戦も駄目。となればもう、この戦いは打つ手なし。


「なんて、諦められれば、いいのにな」


そんなに単純ではない。勝ち目が無くても、前に進み続けなければ、未来は暗い闇の中だ。

近寄るコマチを見据えながら、腰に鞭を巻き付ける。いつも使っている縄代わり、しっくりとは来ないが、少しでも平静を取り戻したかった。

敵意が強まったのを感じ取った瞬間、ミハルはがむしゃらに駆け出した。


追うように見事な破裂音が響いた。

目もくれずに小刻みな空間知覚で感じ取る。コマチは拳を突き出した格好をしている。ということは、信じられないが拳撃の音らしい。


逃げながら頭を回す。

進路無し。退路無し。迂回路も無し。

この状況をひっくり返す秘策を、武器も動きも限られた状態で作り出す。作り出せなければ終わりだ。


「く、そっ!!」


置かれた武器を駆けながら拾う。拾えたのは剣と魔術用の杖。

剣はユイが昔使っていたような無骨なもの。杖は魔術の発動を補助するこぶし大の宝石が飾られたもの。どちらも初心者向けの武器だ。

どちらも得意な武器ではない。だが。

頭で策を組み立てる。

見せしめとして嬲るのを楽しむ闘技と一角に集められた聖職者クレリック

舞台に設置された火霊灯。鞭。短刀。杖。置かれた武器の山。

そして、いまだ余裕を見せているコマチ。


「なぁ、コマチ」

「なんだ」

「降参させてくれないか。腕がもう、痺れてきた」


わざとらしく、剣を握った左腕を力なく持ち上げる。

たった一呼吸分の隙でいい。それだけあれば、「罠師の腕」が罠への工程を手繰る。

その一呼吸分を稼ぐには、ある程度の痛手を覚悟しなければならない。

ミハルの見立てが少しでもずれたなら、この身体に残るのは痛手だけだ。

だが、前に進むなら―――


「許すと思うか?」

「昔の仲間だろ。俺なんかに勝っても」

「私はお前のその顔が大嫌いだ。

 ヘラヘラと媚びへつらいながら弱さを盾にする顔が。

 その顔を見る度に、殴ってやりたかったんだ。その顔を見せてくれてありがとう」

「そうか、よッ!!」


左腕に渾身の力を篭め、剣を投げる。痛み、若干の痺れ。それに非力も合間って、投げたというより投げ渡したというくらいの弱々しさ。

コマチは避けない。飛んできた剣を難なく掴み、矢の時同様投げ返そうと構える。

掴んで構える一呼吸分。ぐるりと身体を回しながら、今度は右腕の全力で杖を投げる。

だが、それも当たらない。構えた剣がコマチの手を離れ、高速回転しながら空中で杖を両断したのだ。


当たれば体ごと両断の一投。だが、来ると分かっていれば避けるのは容易。杖を投げた勢いそのままに、全力で駆け抜ける。

回収するのは、策を完成させるための武器。小ぶりなハンマーだ。

石舞台が割れる音。聞き慣れた音だ。コマチが駆けた。ミハルを狙って駆け出した。


「おおおぉぉぉッ!!」


拾った勢いで身体を回し、槌を振り抜く。回転の力を加えれば、非力なミハルでもそれなりの破壊力は出せる。

振り抜いた槌がコマチの身体に迫り、一瞬で槌の頭が消し飛んだ。一瞬遅れて壁が轟音とともに崩れる。

鉄の槌の頭を、人間の拳が千切り飛ばした。コマチの身体能力にもう驚きもない。

それに、驚いている余裕もない。


槌の一撃なんてなかったかのように一切速度を緩めず駆けてくるコマチ。拳は握られている。


「はっ」


軽い。とても軽いかけ声。

追ってずどんと一撃。胸に拳が突き刺さる。

まるで体の内側が粉々に砕け散るような衝撃。空気が裂け、音が響き、体の隅々まで痛みが走る。

その瞬間、すべての思考が置き去りになり。

気付いた時には、ミハルの身体は槌の頭同様壁を叩き割りめり込んでいた。

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