もう一つの旅立ち
いっそ倒れられればどれだけ楽だっただろうか。
だが、快復した身体は現実逃避を許さない。
「先日の戦いでもそうですが、もうミハルくんがコソコソやってなんとかなる段階じゃないんです。
ユイ様だってそう思ってたんでしょ? だからランドリューを……」
違う。
声を張り上げたかった。
ランドリューを迎え入れたのは、ミハルの負担を減らすためだ。
夜も身体を横たえることなく、新たな地に踏み込む際には一人危険な地に飛び込む。
特に最近はそれが顕著で、前線に立てない代わりに休むことなく斥候を行ってくれていた。
彼の助けになればと迎え入れたのであって、ミハルを追い出すため、だなんて。
感情を爆発させてしまえれば楽だっただろう。
だが、勇者であるユイが感情を爆発させるということの意味は、ユイ自身が一番良く知っている。
それでも、そのまま飲み込めるほど、この感情は小さくも丸くもない。
「ユイ様!? 顔色が……」
レジィの声でなんとか混乱の渦の中から「勇者ユイ」を引きずり上げる。
そして、ようやく口にできた言葉は。
「皆に、指示を出す」
きっと、勇者らしくは取り繕えていたはずだ。
「私は、ミハルを連れ戻す。
だから皆は、十分に装備を整えてから、私を追って来た道を引き返してきてほしい。
道中はミハルも居ないし、私も居ない。くれぐれも警戒を怠らないようにしてくれ」
だが、いくら取り繕っていてもあれこれ言っても、根本はただの「ユイ」のもの。
当然メンバーは難色を示す。特に、ミハルの存在に懸念を強く抱いていたであろうニイルとマルカが声を荒げた。
「最前線を離れてまでミハルなんかを連れ戻すですって!? 気は確かですの!?」
「でもですよ、ユイ様! ミハルくんなんて……」
感情を抑え込み、口を開く。口から出たのは、やはり、他人には道理の見えない「ユイ」の願いだった。
「でも、私の旅には、どうしてもミハルが必要なんだ」
言葉を口にしながらミカラの宿屋を後にする。
ミカラは昼夜の最前線。魔物の強さや道中の安全性を考えても進む方向は昼の側に絞られる。
頭の中を整理し、そして思考を一旦止めてユイは駆けた。
駆けて、駆けて、駆け続ければ、きっとミハルの背にたどり着けると、それだけを信じて。




