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回り道を選んで

目の前には二つの道がある。

一つはランドリューと別れルセニアを目指す道。

ユイやガルグ達を待たせている以上、無事を知らせるためにも、魔王から得た情報を渡すためにも、優先したい道だ。

だが、そこに地図なし、装備なし、土地勘なし、魔王の影ありのこの状況では苦難は必至。

全てが運良く運ぶことを祈りながら駆けるには、この道は暗すぎる。


もう一つはランドリューを手伝う道。

ルセニア組との再会が遅れるという致命的な短所があるものの、近場の市街までランドリューと行けるというのは大きい。

野営用の道具や装備の補充を行える。ランドリューの使令を手伝えばルセニア付近までの地図まで手に入る。

それに、元暁の勇者団だった二人の安否確認も行える。

回り道。だとしても、この道は無駄でも無意味でもない。


「ちなみに、その手伝いってどれくらいかかるんだ?」

「そうさなぁ。ここから街まで拙者とミハル殿の二人でなら適度に休んで丸三日、使令遂行は急げば三日。合わせて六日というところでござるが」

「六日か」


確かにそう長い期間ではない。

心のなかで二つの道を天秤にかけたが、結果は明白だった。

だが、受け合う前に最後に確認しておくべきことが一つ。


「どうでござるか」

「ちなみにランドリュー、使令の内容は?」

「うーむ、多少込み入った話ゆえなぁ……ミハル殿、引かんでござるか?」

「……もしかして、悪事か?」

「悪と言えば、まあ悪でござるか」


なんとも切れ味の鈍い答えが帰ってくる。

しかしそれもそのはずと、その後に足された説明で確かにミハルも納得した。


「いやな、恥ずかしい話でござるが、拙者らミカド傭兵忍者団の若い衆の身分証が盗まれてな。

 まったく嘆かわしいでござるよ、忍者が身分証を盗まれるなどと……このままヒトガタ落ちでもしてしまえば傭兵忍者の面目は丸潰れでござろう?

 ミカド傭兵忍者団の御館はそりゃもう血眼になって下手人を探し、ついにこの先の街で取引をしていると判明したんでござる。

 だから、闇に紛れ影に潜み、身分証を盗み出す。場合によっては下手人も引っ捕らえる。これが拙者に与えられた使令なんでござる」


身分証。また身分証だ。

しかも今度はヒトガタ売りではなく身分証売買。

装飾品一つ手に入れれば他人になり済ませるのだから、違法と知っていてもこれを売り買いする者は現れてしかるべきだ。


「身内の恥を晒してなお頼もう。昔のよしみで悪事の片棒を担いではくれぬか?

 ミハル殿の斥候兵としての技量があれば、諸々全て滑らかに運べるでござろうし」


勿論主に手を下すのは拙者でござるし、と言い、ランドリューは黙してミハルの返事を待つ。

ミハルも黙して考え、そして、ついに決断した。


「分かった。手伝おう」

「おお!」

「ただし、地図についてはよろしく頼むな」

「うむ。拙者、道理は破るが約束は守る忍者でござるので!」


ぱっと目元を明るく輝かせ、ランドリューが嬉しそうに話す。

やいのやいのと言いながらミハルに水を差し出し、またやいのやいの言いながら食事を食べる。

随分盛り上がっているようだが、ミハルにはもう一つ確認すべき事がある。


「ランドリュー、もう一個、聞いてもいいか?」

「……ふむ。察するに、この先に居る二人について、でござるか?」


喜ぶ様子がスンと冷め、瞬間で真面目な声音に切り替わる。

ミハルもまた、真剣に耳を傾ける。

少しの間を置き、ランドリューは二人の名を口にする。


「コマチ殿とニイル殿でござるよ。

 下手人の傭兵と、ヒトガタとして、それぞれ街で暮らしているでござる」


説明を聞き終えた瞬間にくらくらとめまいを覚えた。

思った以上に、込み入った使令のようだ。

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