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忍者と斥候兵

哨戒や敵情視察や破壊工作を主とする斥候兵と密偵などにも精通した忍者。

共通点はいくつかあるが、ひとつに単身先行かつ単独野営の技術が求められるということがあげられる。

ランドリューの持っていた装備を用い二人で野営を組めば、あっという間に準備が整った。

今は、ランドリューが火を起こし、ミハルが荷物から少々の食料を預かり調理を行っているところだ。


「助かったよ」

「にしても、物凄い装備でござるな」

「色々とあって、装備を整える暇がなくてさ」

「はて、ミハル殿ってこんなになるまで準備を怠る類でござったか?」


ミハルの装備のすかすか具合を見て、ランドリューは素直にそう口にした。

数えるほどであるが共に斥候を行った仲だ。意外に気心が知れている。

共に肩の力を抜き、だが周囲への警戒は解かず、互いに再会のひと時を満喫していた。


火を囲み、食事を行いながらようやく互いの本題に入る。


「ランドリューが無事で良かったよ」

「無事、でござるか?」

「ああ。

 あれから、マルカと会ったんだ。俺が団を抜けてから大変な目にあったって聞いた。

 何かに襲われたっていうのも聞き取れて、ひょっとしたらランドリューはもう……なんてさ」

「……拙者は運が良かった。それだけでござる」


少しだけ言い淀んだのは、ランドリュー自身も暁の勇者団崩壊の現場に立ち会っていたからだろう。

だが、少し心が軽くなったのは本当だ。

人攫いの詳細は結局霧の中だが、暁の勇者団が不意を突かれたという以上、敵の接近を許したという事実が間違いなく存在している。

ならば、哨戒に立っていたランドリューが倒れていた可能性は非常に高い。

ランドリューが無事なら、他の暁の勇者団についても今まで以上に期待が持てる。


「それで、マルカ殿はどこに?」

「今はルセニアに居るよ。色々あったが、命だけは助かった」

「ルセニア……そうか、ルセニアか」


しみじみと呟く様子から、ここから目的地への距離がなんとなく察せられる。


「ミハル殿は、何故このような場所に?」

「……話すと長くなるんだが、いいかな?」

「夜も長うござるよ」


促されるままに、ミハルのこれまでをかいつまんで話す。

団を抜けたあと、新たな仲間に恵まれ、旅をしている最中でマルカと再会したこと。

ユイにマルカを任せ人攫いから情報を聞き出そうとしたが魔族の襲来で失敗したこと。

ユイと再会したが、どうしようもない理由から再度別れ、魔族の技で着の身着のままこの周辺に放り出されたこと。

ムーシャのことや魔王のこと、ミハルの中にいるバルテロのことは、語ればいざこざがあるかもしれないと、ぼかして話した。

ランドリューもそれを深く追求しようとせず、黙して聞き、そして全てを聞き終えてから口を開いた。


「成程。拙者がおらぬ間に、ミハル殿の方はよもやよもやの大冒険でござるな」


ランドリューが目元で笑顔を作る。口元は見えないが、人柄がにじみ出るような笑みだった。


ランドリューに抱く感情は色々ある。

行方の知れない槍使い・ニイルは、ランドリューが居ればミハルは必要がないと言い切り、ユイもミハルを切り捨てるためにランドリューを仲間に迎え入れたと語った。

ミハル自身、索敵に長け、かつ近接戦も十分に行えるランドリューに劣等感を抱かないと言えば嘘になる。

だが、それだけに彼の強さはよく知っているし、共に過ごした中で知った彼の人となりにも好印象を覚えている。

彼が再び手伝ってくれるなら、ユイの背負った重責も、少しは軽くなるだろう。


「どうだろう、ランドリュー。俺と一緒に、もう一度ユイ様と旅をしないか?」

「うーむ」


ランドリューの反応はあまり芳しくない。


「無理か?」

「いやな、実は拙者、暁の勇者団を離れて以後、ミカドの御館の元に帰って再び仕えることになったんでござる。

 折角の誘いだのに、かたじけない」

「……いや、謝らないでくれ。こっちこそ、不躾にごめん」


ミカド城下町。傭兵忍者たちの修練地であり、ランドリューの故郷であるとも聞いている。

団を離れ、故郷に帰り、そこで新たな雇い主を見つけた。

一足違えばミハルも同じ道をたどっていたことだろう。

だから、それを責めることは出来ないし、ランドリューの恩人であろう「御館」の手前無理に誘うことも出来ない。

寂しいが、引き下がるべきだ。


「いやなに、お気に召されるな。

 時にミハル殿。逆に、少々拙者を手伝う気はござらんか?」

「……いきなりどうした」

「拙者、暁の勇者団を離れた後にミカドの御館より命を受け、とある街に行く途中でござってな。

 そこでの仕事を、ミハル殿にも手伝ってもらいたいんでござる」


突然の要請に少々面食らう。

ミハルにはそんな気が一切なかったため、逆に自分が誘われるなどこれっぽっちも考えていなかった。

ランドリューの目は真剣そのもの。口調こそ軽いが、言葉自体に偽りはない。


「悪い、ランドリュー。俺は……」

「まあまあ、聞け聞け。手伝いと言っても、そう長い仕事ではござらん。ぱっといってひゅっとやってぴっくらいの話でござる。

 それに、手伝ってくれるというなら、報酬代わりに拙者の地図を譲ろうではないか」

「地図!?」

「うむ。拙者がズレイゴスに行った時に使った物でござる。

 あのあたりまで行けば、ミハル殿ならばルセニアにもすぐでござろう」


ズレイゴス村。暁の勇者団団員レジィの故郷であり、魔王の鱗・スケイルと交戦した地でもある。

その近隣でランドリューは暁の勇者団と合流し、共に旅することとなった。

その後勇者団はズレイゴスからルセニアを通りミカラ村へという旅路を辿った。つまり、場所はそのものずばりルセニア付近である。

それに、そもそもランドリューがミカド城下町から暁の勇者の評判を聞いて旅してきたというのなら、その地図は今後のミハルの旅路において非常に有益なものとなる。


「それに、案外この寄り道は、ミハル殿にもユイ殿にも大きな意味があろう」


意味。

繰り返すように問うたミハルに、ランドリューは、こう答えた。


「居るんでござるよ。拙者がこれより向かう街に、暁の勇者団の団員だった者が二人」


その言葉は、闇夜を照らす炎にも負けないほど、ミハルの心に輝き響いた。

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