ルセニアの町にて
「魔王の翼」が落とした人ほどの大きさのある翼はガルグが。
微笑んだまま寝息を立てているユイはミハルが。
二人が持ちきれない荷物とついでにくすねてきたヨミの大鎌はムーシャがそれぞれ抱え(出自のせいか、ムーシャには大鎌が難なく持てるらしい)ルセニアの町を目指す。
途中でギルゲンゲ山賊団とは離別した。
ギルゲンゲいわく、「俺様ぁ、疲れたから、今日は帰ってもう寝る」とのことで、町やガルグに名残惜しそうな様子を見せる子分たちを引き連れていってしまった。
ガルグは「町に行きたくないんだよ。ああ見えて肝が小せぇんだ」と、こちらも名残惜しそうに、遠ざかる山賊団の背を眺めていた。
「今回はもう、どっと疲れた。魔族二体の報奨金も出るだろうし、しばらくはルセニアでゆっくりするかぁ」
「賛成! 賛成です! 旅でのワイルドな食事も素敵ですけど、しばらくぐうたらに美味しいもの食べて過ごしたい体です、今の私!」
「俺も、ユイ様が目を覚ますまでは、ちょっと休憩だ」
「ミハルさん、なんで最善良さんのことユイちゃんって呼んだりユイ様って呼んだりするんです?」
「いや、まぁ、今のユイ様は暁の勇者だし……昔とはほら、違うから……」
「へぇー、勇者になると呼び方変えなきゃなんですね……私はユイさんって呼べばいいですかね?」
「勇者だからって呼び方変えるのがいかにもミハルだな。変なところで角ばってるっつーか。
回りがどう言おうと普通に呼べばいいだろ、普通に」
くだらない話をしながら長いこと歩けば、なんとかかんとかルセニアの町にたどり着いた。
町に踏み込んだ瞬間、武装した町人に取り囲まれ、ガルグが不機嫌丸出しで斧を構えたのをムーシャが抑えている間にミハルが状況説明を行う。
侵攻していた魔族「魔王の翼・ヨミ」は激戦の末暁の勇者ユイが討伐したこと。
ミハルたち「山の幸探検隊(仮)」は近隣に居たためユイに加勢し、勝利を収めた後に気を失ったユイを担いで帰ってきたということ。
ユイはまだ疲れて気を失っているので魔族討伐に関わる祝祭などはしばらく控えてほしいということ。
町人たちはユイという勇者を知っていたし、ガルグが背負っていた見たこともない大きな翼から魔族討伐を真実と理解し、はじけそうな喜びをそれぞれが内側に秘めたまま昼の日常へと帰っていった。
ミハルたち四人もそのまま冒険者組合に魔族討伐の証を収め、報酬金の一部(ユイが大半を受け取る手はずになっているため、魔族二体討伐という手柄を考えたら微々たるものだ)を受け取り、そのまま今回は冒険者組合の宿泊施設に転がりこんだ。
「風呂を沸かせ!! 一番でかい風呂だ!!」
「ごー飯っ! ごー飯っ!」
「ユイ様を寝かせるベッドと、装備の手配をお願いしたいんですが」
まず最優先でユイのベッドが確保され、次に山のような食事が割り当てられた部屋に用意された。料金はムーシャが半額支払い、ミハルとガルグがもう半額だ。
部屋の中なら問題ない。ムーシャは上着を脱ぎ散らかし、上下の口で心ゆくまで食事を楽しんだ。
その後は風呂だ。
食事が終わった頃に大浴場の用意が整い、待ってましたとガルグが跳ね起きる。
「うし、行くぞ、ミハル!!」
「いやそれはおかしい」
「一回入ったら二回も三回も一緒だ! おら来い!」
むんずと肩を抱かれる。男と女ということを差し引いても、ガタイが良く鍛えられたガルグに押さえられてしまえばミハルに逃げる術はない。
「でも、ユイ様の看病を」
「何言ってんだ。ユイも風呂にぶちこむに決まってんだろ」
「気絶してるが!?」
「泥まみれのままで変な病気貰ったほうがオオゴトすんぞ。
心配すんな、今回はぬるめにしてあるから」
ガルグのこういう意外と筋道立てて我道を征くところはミハルも一目置いているが、今だけはそれが恨めしかった。
「せっかくですから! せっかくですから!」
男女混浴が含む意味を知ってか知らずか、ムーシャもぐいぐいミハルの背を押す。
そういう方面での好意があってのことかどうかはわからないが、ミハルとしては、困るのだ。本当に、色々と。
「俺は後で良い! 俺は後で良いから!」
「許さん! オレはミハルと風呂に入るって決めてたんだ!」
「旅の最中は結局一緒に水浴びしそこねましたからね。さあ、今日こそご一緒に!」
結局、条件付きで混浴という結果で押し切られた。
体を鍛えよう。後は、風呂前にはガルグから離れる術を学ぼう。
だが、すこぶる上機嫌な足取りで風呂場を目指すガルグとムーシャを見ると、ミハルが渦巻く何かを最初から我慢すれば単純な話かもしれないと、考えないこともなかった。




