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「魔王の翼」戦、決着

○ミハル


『唯牙抜剣』。実際に目にするのは魔王の爪・ガンソウとの戦い以来だ。

あの日山ごと魔族を斬り裂いた無双の剣は、今度も何かを斬り裂いたようだ。

何を斬り裂いたのか、ミハルが思索する必要は、もう無くなった。


「ッしゃぁぁぁァァァ――――――ッ!!!」

「るぅおおおおおぅらァァァッ!!!」


ガルグが斧を、ギルゲンゲが大剣を互い違いで振り抜いて、ヨミの五体を斬り飛ばしたのだ。


四肢を失い倒れ伏した魔王の翼・ヨミ。

こちらの作戦勝ちだ。

ムーシャによれば死体を操る力や眷属を呼び出す以外にも「自分以外の時を止める」という大技を持つという魔王の翼。正直、二度も三度も対応できない。

しかし、相手が慢心無くただ当たり前にこちらを殺しに来れば、確実に立ち塞がる大きな障害。

だからこそ、チーム「山の幸探検隊(仮)」は、最初からヨミの奥の手「枯れ果てる時の大河」を打たせた後で倒す算段を立てていた。

「時の中でも周囲を見ているなら、周囲が見えない状況で時を止めさせれば」という不確定な賭けはあったものの、それを成功させるために罠を幾つも仕掛けた。

ムーシャによる感知阻害魔術もどき、ヨミの呼び出した死体や眷属をガルグが斬り散らかして足場をできるだけ不安定にした。

そして、対応策の主格であるミハルと主戦力であるガルグを同時に処理出来ぬよう、位置も高度もずらして作戦実行の瞬間を待った。

ギルゲンゲの加勢やユイの覚醒など状況は予想外の方向に転んだが、結果は上々だ。


「ミハル! そっち頼んだぞ!!」


残った眷属を相手取りながらガルグが叫ぶ。

そうだ。まだ決着はついていない。

見れば、周囲の闇がヨミの傷口に集まり、うごうご修復を始めている。

駆けよれば、ヨミは苦痛に皺だらけの顔を更にへしゃげさせて毒づいていた。


「に、人間、人間め、人間めぇ、人間めぇ……ッ!!

 黙って死を受け入れればいいものを……!」

「ユイちゃん、剣は」

「ごめんミぃくん、さっきので折れて……」


そうだった。

ユイの「唯牙抜剣」は力が強大すぎて、単なる剣ではその力を受けきれずに刃が砕け落ちるのだ。

今ユイが持っていたのはスケイル戦の際に用意してもらった特注の一品だが、それでも受け止めきれなかったらしい。

かといって、ミハルは罠設置を行うために今回も軽装。ヨミにトドメを刺せるほどの武器はない。

だったら、なにか武器はあるか。


手近に落ちていたヨミの大鎌が目に入った。少しでも速く動くためにユイを降ろし、駆け出して拾い上げる。

握った掌が焼け付くように痛い。魔族特注の武器、人間が扱うには度が過ぎた物だ。

だが、これ以外に武器がない。鎌を振りかぶり、首目掛けて振り抜く。

刃は喉にずぶりと刺さり、ヨミの視線がミハルへと注がれる。ヨミは口を大きく裂き、笑った。


「く、くくく。やはり、貴様らは、死ぬ運命の下にある」


闇の力がぶわりと広がり、風が身を煽る。長い長い鎌の柄から、骨ばった腕が突き出しミハルの首を握りしめる。

邪悪の力で体が復活したのか。

最後の最後で、手を誤った。首にかかる力が一気に強まり、呼吸が止まる。爪が食い込み血が滴る。


「このまま、死、ィ―――ッ!?」


ばくり、と音が鳴った。拘束する力が一気に弱まった。首を絞めていた手が支えを失いぶらりと垂れる。

見れば、ぽてぽてな腹を露出したムーシャが直ぐ側に立っていた。

腹は何かを噛みちぎるように震え、濡れた舌が這った唇は艷やかに色めいて、幸福を表すように歪んでいる。


「ミハルさん! 手助けに来ましたよ!」


あった。毒だろうが衝撃だろうが無効化し、どんな堅い鱗や甲羅でも噛み砕く、こちらの奥の手……いや、下の口。

予想外の展開に、流石のヨミも強張った表情を向けている。


「ムーシャ、食えるか!?」

「はい! もちろん! 美味しくいただきます!!」


ムーシャの腹部が再び大きく裂ける。ヨミが震え、最後の言葉を口にする。


「貴様……その口……全てを貪るその邪悪……

 き、貴様、もしや、もしや!! 何故貴様が此処に、バリー・ボ―――」

「よいしょ」


口ががぱりと空いて、ぱくりと一口でヨミの頭を食いちぎった。


悲鳴も残さず絶える敵意。魔王の翼・ヨミはその二つ名通りの翼(確かヨミにはついていなかった)を残して消滅してしまった。

同時に、眷属達が奇声を上げて消滅。まだ動いていた死体たちも風に吹かれて崩れていく。

風に合わせて闇が晴れていく。遠く、まだ遠く。広く、まだ広く。

ヨミが支配していた闇が消え、その分だけ昼が広がっていく。

人類は、また少し、夜明けへと近づいたのだ。


ヨミが最後なんだか凄く気になることを言おうとしてた気がするが、それもまあ今はいい。


「……」

「……」


ユイと目が合う。なんと切り出そうか。

ミハルが迷っている内に、ユイはぱたりと横になった。

慌てて駆け寄る。が、うっすらと笑みを浮かべたその顔は……


「最善良さん、寝てるんですか?」

「……らしいな。一応回復お願いできるか?」

「いいですよ。私もヨミさん食べて元気出たので」


ユイを背負い上げ、ムーシャと並んで歩き始める。振り向けば、ガルグとギルゲンゲが笑っていた。

ともあれ、完全勝利だ。


活動報告にて今後の投稿についての報告をあげさせていただきました。

良ければご一読ください。

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