表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/209

動き出す闇

昼夜の最前線。

この地がそう呼ばれていたのも数日前までのこと。

空に描かれる光と闇の勢力図は変動していた。

「魔王の牙」ガジル。

「魔王の十指」トウト。

恐れ多くも魔王の部位の名を賜った者たちが、数日のうちに倒された。

しかもトウトに至っては、「最善にして最良なる者」とは関係のない、どこの馬の骨とも分からぬ木っ端に討ち取られたと聞く。


転がる人の頭骨を踏み砕く。

黒衣がはためき人の在りし日を踏み躙るたびに、青空を闇が侵していく。

口惜しい。

口惜しい。

口惜しい。

ヒトごときが、闇に、死に至るその大河に竿を挿し、光に縋ろうとしている。


「ガジルに続きトウトが絶え、憎き青がまたしても空に広がっているのです」


闇から絞り出したような黒衣を纏う魔族が、空に向けてそう語る。

一対の翼を背負った瞳が、ぎょろりとまぶたを持ち上げ声を返す。


「闇を広げたいというならば、無人の地を塗り潰せば良かろう」

「いえ……人間どもに、ほんの一欠片ほどの希望も与えたくはありません。

 彼らは全て、世界を呪いながら死に至るべき存在なのです。

 まさか止まれとは言いますまい?」


瞳の放つ言葉に、しゃがれた声が答える。

宙を舞っていた瞳の一つが、ふわりふわりと降りてきて、魔族の眼前で止まった。


「止めはしない。俺も此度の「最善良」の力を()りたい。

 ガジルとの戦いでは、ついぞその力を見せることがなかった故な」

「……お言葉ですが、識ったところで意味のないものになるかと」


魔族が、自信を覗かせながら言い放つ。

吐いた吐息は黒く淀み、触れた全てを腐らせる魔の瘴気を漲らせている。


「私が、殺しきりましょう。今度の「最善良」を」


黒衣の魔族……「魔王の翼」が、両手を広げる。

まるで羽ばたくように、無数の存在が立ち上がり、波打つように広がった。

空に広がるのは汚濁。奪われた青空を蝕む、不浄の闇。


「かの「最善良」の膝下で「魔王の血」ドークが覚醒しつつある。

 貴様が求めるならば手引をしてやるが?」

「必要ありません。私には、私の翼がありますゆえ」

「そうか。ならば俺はあえて何もすまい。

 しかしヨミよ、ゆめゆめ侮るな。

 どれだけ未熟でも敵は「最善良」。我らを葬りうる力をその身に秘めている」


瞬きを残し、瞳が闇に霧のように溶ける。

そして、闇が動き出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ