表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/209

抑えきれない

勝手に抜けたことを申し訳ないと思う、という謝罪から手紙は始まった。

ユイの申し出を嬉しく思うということ。

だが、暁の勇者団との折り合いに悩み、道中知り合った仲間と一度町を離れたこと。

離れた町のヒトガタ売り場でマルカを見つけたこと。

錯乱したマルカの言葉から、暁の勇者団が壊滅したようだということ。

マルカは人攫いからヒトガタとして売られたということ。


マルカの有様を見る。

豪華な装備は全て剥ぎ取られ、魔術師の要たる髪の毛も切り取られている。

魔術師の髪はマナの伝導率が高く、大規模な儀式精霊術の触媒としても用いられると聞いたことがある。ならば売られてしまったのか。

手紙を握る力が自然と強くなり、紙がくしゃりと歪んだ。


手紙は続く。

ユイならば勇者特権で身分証の再発行が行えるのではないかと考えたこと。

その過程でやむを得ずマルカを買い上げ、待ち合わせ場所のルセニアに送ったこと。

この手紙がミハル本人からのものと分かるよう、ミハルの暁の紋章を同封するということ。

ミハルは他の団員についてを探るため、可能ならば今の仲間と共に人攫い団のもとへ行くため、約束の日には間に合わないかもしれないということ。

ユイには、どうか、どうか、マルカのことを頼みたいということ。

そして、叶うならば、数日だけ長めに滞在してほしいということ。


「ミハル……」


手紙を読み終え、目を伏せる。

ユイの浅慮が暁の勇者団を壊滅の憂き目に合わせてしまった。

ニイルは、サバラは、レジィは、コマチは、ランドリューは。

眠るマルカの姿に、居ない団員たちの姿が重なって見える。

感情が抑えられず、勇者の力が溢れだす。


「勇者様……なんでしょう、これは……い、痛みが……」


空気を伝わる勇者の力をその身に受けた宿屋の主がずりずりと下がり、戸に背を預けている。

慌てて告げた。


「ごめんなさい、少し一人にしていただけますか」

「えぇ? ええ、はい」


主が出ていった後、二枚目の手紙に目を通す。

二枚目は、ヒトガタ売りがしたためたと思われる、「ヒトガタの説明」だった。

付属の鈴を鳴らせばヒトガタを眠らせることと起こすことが出来、同じく付属の首輪にマナを込めれば念じるだけで痛みを与えられるようになる、と書いてある。

怒りをできるだけ鎮めながら、首輪を引きちぎり、鈴を鳴らす。

説明の通り、マルカはぼんやりと目を開いた。


「……ユイ、さま……」

「ごめん、マルカ……ごめん。私のせいで、ごめん」


口下手なユイに、彼女にかけられる言葉は見つからなかった。ただ、謝罪ばかりが口から出た。

マルカは夢か幻かを見るように、遠い目で、ユイに語りかける。


「……ユイ様、なのですね」

「ああ、そうだ。遅くなって、ごめん」

「ユイ様……サバラが、魔物に、殺されました……ニイル様以外の、消息も、不明です……」


告げられる、仲間の死。ぐっと拳を握り、感情を押し殺す。


「……ユイ様……お願いがあるのです……」

「何?」

「ニイル様は、(わたくし)と同じ、人攫いに、きっと、攫われています……

 どうか、どうか、ニイル様を……」

「……ああ。きっと救い出す」


ユイの言葉を聞き、マルカはすっと瞳を閉じた。

呼吸は確認できる。精霊術による強制睡眠が解け、これまでの疲弊と憔悴から眠ってしまったのだろう。

ユイの胸の内には、こらえきれない感情の荒波が渦巻いていた。

このままでは、いけない。

心を落ち着けられなければ、先程の店主同様、道行く人々を勇者の力で傷つけてしまうだろう。


そういう状況じゃないのは分かっている。

だが、分かっているからこそ、心を落ち着けるために、少し休まなければならない。

マルカの横たわるベッドを部屋の隅まで押して動かし、自身はその対角線上に腰を下ろす。


日はまだ高い。少し、休もう。

少し休み、心を落ち着けてから、本格的に動き出す。

目が覚めたら冒険者組合へ行き、身分証の再発行手続きを行う。

身分証が手に入ったら、マルカの受け入れ先を探す。(むご)い話だが、マルカの魔術師としての人生は絶望的だ。生きる道を探す必要がある。

その後はミハルを待ち、ミハルと再会できたなら、勇者団の面々を共に―――


荒れる心を疲れに委ね、怒りや悲しみではなく眠りに身を解かす。

目が覚めれば、きっとこの感情を抑え込めると信じて、ユイはしばしの眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ