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魔族狩りの行方

距離を取ろうとするトウトがこけ、いつの間にか足元にできていた草の罠を睨みながらブーメランで体を裂かれ泡となって消える。

別の場所で斬り捨てられたトウトが身体を増やし、それをガルグが蹴り飛ばし、ミハルが短剣(戦闘中にガルグが投げたものを回収した)を使って首を切り飛ばす。

合間合間に「えいやー!」とか「ちょいさー!」とか聞こえる掛け声は、ムーシャが魔術を飛ばす声だ。

移動速度上昇、反応速度上昇、命中補正、集中力向上、打撃斬撃の威力向上に適時回復、ムーシャも木陰からしっかり戦いに参加している。


「増えたり減ったり、手応えがねえな。どうすりゃ終わるんだこれ」


斧を振り抜き、返ってきたブーメランを掴みながらガルグが口にする。

意図せぬぼやきだったのだろう。それを聞いて、斬り捨てられたばかりのトウトが笑った。


「やるだけ無駄なんだよ。俺様が殺せると思うのか?」

「思ってなけりゃあやるかよ!」


斧の一閃、不敵に囁いたトウトが泡と化す。

だが、確かにその言葉には一理ある。縦横無尽に駆け回りながらトウトの復活を制しているが、それがどれだけ続けられるのか。

「走破の足」の補助により負担軽減がされているとはいえ、いつか限界は来る。

そうなれば戦線崩壊だ。増えたトウト全員が爪をギラつかせながら反撃に転じてくるだろう。

終わりの見えない戦い、増え続ける敵との持久戦。早めに打開策を手繰り寄せなければならない。


「ありますよー! 終わらせ方ー!!」


答えたのは、意外……とも言えない人物だった。


「なんだ、ムーシャ!!」

「全員ほぼ同時に倒せばいいんです! いつもの伸びる斧でどうぞー!」

「どうぞー、って、言っても、なぁ!!

 十体相手にあれじゃあ、短すぎるんだよ!!」


斧とブーメランで蘇り続けるトウトたちを蹴散らしながらガルグが叫ぶ。

全員同時に斬る。言うだけならば簡単だろうが、実際にやるとすれば難題だ。

二体同時に斬っても三体目を斬るのが呼吸数回分でも遅れたら、三体目から三体が復活する。それはミハルも分かっていたし、ガルグもまた気づいているはずだ。

確かに十体をほぼ同時に斬れれば終わりだろうが、トウトたちもそれは理解しているらしく、いざとなったら同士討ちで人数を増やしている。


「むむむ、仕方ないですね……

 ミハルさーん!! 全員一斉に足止め出来ませんかー!!」

「全員一斉にって……それもまたなぁ」

「あれですよ! ぬめぬめのやつ!!」


ぬめぬめの奴。水霊を地面に流し込んでぬかるみを作り出す罠のことだろう。リウミまでの道中でムーシャが確かそう呼んでいた。

たしかにあれなら足止めは出来る。だが、ミハルが罠用に携帯している水霊ではぎゅうぎゅうに詰めて五人分くらいの範囲が精一杯だ。

そこで気づく。

あるじゃないか。

携帯しているよりも巨大な水霊が。運良くこの場に。


「ガルグ! 奥の建物、縦半分に割れるか!」

「このぽこぽこ魔族は!?」

「それさえ壊せればなんとかなる!!」

「いいんだな、いけんだな!?」

「いい、いける!! だからいけ!!」

「うっしゃあ!!」


トウトの相手をやめ、ガルグが精霊殿に向けて駆け出す。

その間、ミハルが蘇り続けるトウトを制する。

霊素粉末、調合花粉、ミズゴショウ、毒に鈴に薬に土に草、あらゆるものが空を舞い、目を奪った相手から短剣で斬り捨てて行く。

現れては崩れていくトウトたちとミハルの間に響く、大規模な破砕音。粉塵が舞い、つぶてが飛び散り、破壊の痕跡が散らばっていく。

振り向けば、見事ガルグが精霊殿を破壊していた。狙い通り、中に収められていた特大の精霊がまろび出ている。ミハルが携帯している瓶入りの水霊の親玉といったような、まさに規格外の大きさだ。


「変わってくれ!」

「おうよ!!」


即座に駆け出す。今度はミハルが壊れた精霊殿へ、ガルグが前線へ。

特大水霊に手を突っ込み、叫ぶ。


「跳べぇぇぇぇえええええええ!!!!」


何が起こるか知っているガルグとムーシャが跳び、ミハルは地面に特大水霊を引きずり落とす。

「罠師の腕」が特大の精霊を地面に溶かす。波紋が広がるようにぬかるみが広がっていく。

地面に立っていたトウトの全員がぬかるみに膝まで浸かり、身動きが制限される。


「ガルグさん、いいですかぁ! 欲望ぉー……解放ぉー!!」


先の跳躍でガルグの背に飛び乗っていたムーシャが、ガルグの両肩に手を置いて叫んだ。

よく見れば、ムーシャの身体がぼんやり光っている。

次の瞬間、ミハルが感じたのは、膨大なマナの爆発だ。

ムーシャの身体から大量のマナが流れ出し、ガルグに注がれていく。


「お、お! なんだこれ、なんだこれ!!

 は、はははは、もちもちお前、最高じゃねえか!!」

「これなら多分、いけますよね」

「いけるさ、今のオレならなんでもいける! ミハル、伏せろぉぉぉおおおおお!!!!」


光がガルグを通じ、ガルグの構えた斧の刃先に収束する。

見えないはずの練技の刃が高濃度のマナで色と形を得、その全貌を顕にする。

その刃の巨大さと来たら、トウト十体どころか、小さな集落くらいなら両断出来そうなほどだ。


「「「「「「「「「「や、やめ」」」」」」」」」」


トウトの声が重なる。震え方まで一緒だった。

その声に含まれた怯えは、この先に待つ結末をしっかり物語っていた。


「せーのでどうぞ! せーのっ」

「ぶった斬いいいいいいいいいいぃぃぃ――――――――ッ!!!!」


木々が宙を舞う。斧の軌道に合わせ、マナによる加速を受け驚愕の速度で森が切り拓かれていく。


「った!」


叫びを継いで、ムーシャが宣言する。

ほぼ同時にトウト全員が両断され、苦悶の表情を浮かべた。

斬られたトウトが泡立つことは、もうなかった。

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