決着
斧のリーチを大きく超えて森の一部を切り崩す一閃。
親父が言うには、こういう手合の技は「練技」と呼ばれているらしい。
理屈は知らない。ガルグからすれば「気合を篭めた方が拳骨は痛い」くらいの道理だ。
気合を篭めたほうが斧の斬撃は遠くまでよく届く。
気合を篭めたらブーメランは様々な物を切り裂くし、必ず手元まで戻ってくる。
だから視界がまだ定まらない中でもガルグは疑わず、手を突き出した。
寸分違わずガルグの手中に返ってきたブーメランをキャッチし、勢いを受けて身体を回す。
そして勢いを更に加速させ、再びブーメランを放つ。今度は超低空、地面スレスレだ。周囲の草が綺麗に刈り揃えられ、足止めの草の罠が空を舞う。
斧を手に、動いた影の方目掛けて気合を篭めて振り抜く。地面が割れ、木々が割れ、まるで道のように開けた。
息を呑む音が聞こえた気がした。また罠か。
罠ではない、と感じたのに根拠はない。直感だ。ハナがきいたというやつだ。
「そこかぁッ!」
切り裂いた木の向こう、ようやく姿そのものが見える。
簡素な装備を身に着けた男だ。ガルグを追い詰めていたにしては随分貧相な男だな、というのが感想だった。
じわじわと戻ってきた視力で、焦りを浮かべた男の表情も、額を濡らす冷や汗も見えるようになった。
斧を振りかぶる。男は焦りの表情のまま身を屈めて躱した。
振り抜いた斧が男の髪を散らし、追撃とばかりに地を滑るようなブーメランが男の背後から迫る。
しかし、それは知っていたというように身を低く構えたまま跳躍し、ブーメランを避ける。
ガルグもまた跳躍して避けながら斧を握り直し、今度は縦一文字に振り下ろそうと構える。
そこが決着だった。
いつの間に握っていたのか、男の手には弓矢があった。矢は夜闇の中でも分かるくらいに何かを滴らせている。毒物の類だろうか。
弓を射るより速く斧を振ることは不可能。だが、弓を射られれば斧を振り抜いて男の身体を左右に切り分けるくらいの反撃は出来る。
仮に逃げに転じようとすればその瞬間に均衡が崩れ、必殺の一撃が叩き込まれる。
男もそれを理解しているからこそ動けず、動かない。
互いが互いに命を握りあった状態。相打ち前提が故の膠着状態が続く。
「いやぁ、驚いた」
先に口を開いたのはガルグだった。
「アンタ何者だ? この手際の良さで、まさかただの町人ってわけじゃないだろ」
「……」
「答えないのもいいさ。でも、ヘンに時間が経ったら困るのはアンタの方じゃないかい?」
含みのある言葉で驚異の存在を匂わせる。
男の額を汗が一筋流れていく。心中慮るまでもない。
「それでも、一番怖いのはあんただ」
「ふうん」
死に続く縄が首にかかっている状況なのに笑みが溢れるのを抑えきれない。
この笑みの理由をなにかと言葉で現すなら、やはり期待と呼ぶのだろう。




