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魔族が居るなら

昼に出発し、夜が来る。

そして、ある程度進めば夜が終わることがなくなる。

空は太陽を拒むように闇が広がっている。魔族の住まう土地はどこでもそうだった。

人里を大きく離れ、ただでさえ魔獣や魔物が活性化する魔族の闇の下。

交戦は避けながら、適度に休息を取りながら、消耗を最小限に抑えつつスイカの森を目指す。

スイカの森の端が暗く染まった地平線に見えた頃、ミハルとムーシャが揃って足を止めた。


「……居る」

「居るのか?」

「居ますね」


この距離からでもミハルの索敵能力に引っかかる存在。間違いなく魔族だ。

何かを感じたのはムーシャも同じらしい。無意識に、同じ方向を見ながら呟いていた。


「どんなもんだ?」

「確かに……強さで言えば、ガンソウ……昔戦った「魔王の爪」と同じくらいに感じる。

 単純な力量だけで語るならやる気満々のギルゲンゲの方が強いくらいだ」

「親父以下か。魔王の配下っつうからどんなもんかと思ったが」

「しょせん爪ですもんねえ」


特に感慨もなく溢れたムーシャの一言。

やはり視点や知識がミハルたちとは異なっている節がある。


「爪ってのは下っ端なのか?」

「ええ、まあ。爪と鱗は結構ぽろぽろ増えますし、腕に覚えのある冒険者にその分どこどこ倒されてましたし。

 身に蓄えられる邪悪の総量も少ないので、せいぜい攻撃を飛ばすくらいしか出来ないんですよ。魔族の中では弱いですね」

「ふーん。上から下までってこったな」


淀みなく話しているあたり、ムーシャにとっては常識を口にしただけに過ぎない。

ガルグは適当に相槌を打ち、ムーシャが伝えようとした「爪は弱い」という情報だけを掬い上げた。

だが、山育ちである意味世間知らずなガルグと違い、冒険者を続けてきたミハルにとって、ムーシャが口にした言葉は、それはもうどうしようもないほどに、ムーシャの正体について思い至らせた。


「ムーシャ」

「はいなんでしょう」

「……お前さ、ガルグと会えて良かったな」

「へ? ええ、はい! そりゃあもう! 私ガルグさんと会えて凄く良かったですけど!」

「オレもお前のもちもち感だけはいいなと思ってたんだ」

「ふへへ、褒めても食欲しか出てきませんよ」


なんと言おうか迷ったが、結局やっぱり言わずに置いた。

「現状で悪意がないなら放っておけ」というガルグの一言もあったし、ミハル自身もムーシャから感じるのは単なる人間としての存在感でしかない。

だったら、変に場をかき回す必要もなかろう。

しかし本当に、ガルグと会えたことは彼女にとって最大の幸運だったと言える。

口の件もあるが、こんなに色々ぼろを出していたら、他の冒険者の元なら殺されていてもおかしくない。


「しかし、本当に弱いなら見物ついでに倒しちまうってのもありだな。どうだい斥候兵」

「……」

「どうした黙りこくって。たかが人攫いに、親父以下の下っ端魔族だろ?」

「実際に敵を見たわけじゃない。俺の勝手でここまで来ておいてなんだけど、魔族については特に、冒険者組合に言いに行くべきかもしれない」


弱気と取られようとも、正直に口にした。

暁の勇者団の面々が気にかかろうとも、無為無策で突っ込んで無事を保証できる場所ではない。

敵の強さが感じ取れようとも、こちらにはほぼ非戦闘員のムーシャがいる。乱戦になれば不利を晒す可能性だってある。

その上、森には人攫い団までいるかもしれない。

人攫い団とはいえ、まがりなりにもマルカを攫いきったやつらだ。こちらの想定を超える「何か」がある可能性は否めない。

実態はわからないが、安易に割り切るのは危険なはずだ。


ミハルの言葉を聞き、ガルグがにんまり笑って口にする。


「どうした、いきなり笑って」

「いや……お前が「そうだな」なんて言ったら、はっ倒してでも引き返そうと思ってたから」

「なんで」

「なんでってそりゃお前……ムーシャはともかく、お前まで油断してたら最悪死ぬだろ、オレら」


当然のように言ってのける。彼女なりにカマをかけていたらしい。


「実物を見たいのは山々だが……無茶は禁物。旅の掟だ。

 だが、ここまで来て手ぶらってのは面白くねぇよなぁ?」

「じゃあ、魔獣とか魔物とか狩って帰ります?」

「いや、もう少し楽しい狩りで行こう」

「……ま、まさかあの! 霧深い森にだけ生えるという山の珍味にして伝説の十二の香辛料の素材としても名高いリクミズバツルの熟成果実、人呼んでミズゴショウですか!?」

「あー、すまん。そういうのでもない」

「あぁ……そうなんですね……そっかぁ、違うかぁ……」


勝手にテンションを上げて露骨にテンションの下がったムーシャはさておき、ミハルがガルグの言いたかったことを続ける。


「人攫いを攫うのか?」

「ご名答だ。いいねぇ、通じ合ってるこの感じ。オレの補佐役が身についてきたかぁ?」


機嫌よく、森に向き合うガルグ。その横に並ぶミハル。


「まぁ、余裕があったらそのナントカ言う食いもんも探しゃあいいさ」

「いいんですか!? うおおおお、私やりますよおおおおお!!!」


一気に気合が燃え上がり、ミハルの横にムーシャも並ぶ。

そうして、変わらず三人で進みだした。


「とはいえ、まずは様子見で行こう。

 そこから先は、そこで決めればいい」


もう少し森に近づけば、その中に潜む人攫いの気配も感じられるようになるだろう。

それを利用し、人攫いだけを釣り出せればいいが。

どこまで踏み込むか、それが重要だ。

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