遠回り
一夜が終わり、昼が来た。
夜半以来、三度目のヒトガタ卸売場に、今度はガルグ・ムーシャとともに赴く。
老婆は変わった様子無く、ミハルたちを招き入れた。
「今日は随分静かだな」
「ええ、ええ、あのヒトガタは売れちまってねえ」
「ふうん。奇特な客も居たもんだ。婆さん、オレの身分証は?」
「出来てるよ。無くさないように気をつけな」
渡された一つのアクセサリー。
霊素を練り篭めた特注の宝玉に精霊術により変質保護が施され、どこのものともわからない町の印が浮かぶペンダント。
一見では偽物とわからない、見事な出来だ。
ガルグはミハルやムーシャのものと見比べ、その出来上がりを確認する。
「おし、確かに!」
受け取った身分証を早速身につけ、どんなもんよとミハルたちに披露する。
なんだかしっくり来ないのは、首元を隠していないガルグを見慣れていないから。
首元が顕になり、少しだけ艶やかさが増したガルグは、息苦しさを吹き飛ばすように笑っていた。
「これで三人お揃いですね!」
「その理論だと人間全員お揃いになるな」
「おぉっと、確かにそのとおりですね! それでは私達だけのお揃いを作りますか?」
「お前はたまにいいこと言うよな、もちもち」
「ふへへ、伊達にもちもちしてませんよ」
ガルグはすこぶる上機嫌でムーシャの頬をぽよんぽよんとつついている。
ムーシャもにこにこ、されるがままだ。
「それと……お客さん、これ」
老婆が、今度はミハルに一枚の紙切れを手渡してくる。
ミハルだけがその中身を知っている。これは、昨夜マルカを買い上げる時に依頼していた「おまけ」だ。
「なんだそれ」
「ああ、お婆さんに、少し頼んでてさ」
老婆は何も言わずに笑っている。秘密は守ってくれるらしい。
「あの、美味しいもののお店リストだったら私嬉しいんですけど!」
「違うよ」
「そっかー、違いましたか―。そっかー……」
結構がっつり落ち込んでいるムーシャを引き連れ、ヒトガタ卸売場を離れる。
リウミでやるべきことは済んだ。
「うーっし。じゃあ帰るか、ルセニアに」
「花祭り、まだやってますかねぇ」
「……二人とも、ちょっといいか?」
リウミを出ようとしたところで、二人に語りかける。
内容は、当然、「おまけ」についてだ。
「なんだ、忘れもんか?」
「お腹空きました? 私飴ちゃん持ってますよ! ささ、遠慮なさらず!」
「いや……二人さえよければ、少し遠回りさせてほしいんだ」




