マルカの処遇
「で、どうするつもりだ?」
老婆の紹介で、老婆が営む宿泊可能な施設(なお、宿泊中の問題には一切責任を負わないそうだ)にひとまず移動し、開口一番ガルグが尋ねた。
「マルカとかいう女をどうにかしようって考えてるハラだろ」
「ええっ!? そうなんですか?」
「……ガルグって、そういうの分かるんだな」
「当たり前だ。お前、勇者について考えてた時と同じ顔してたしな」
マルカについて。ひとつだけなんとか出来るであろう策がある。
だが、それは諸々の事情からあの場では口に出せない方法が含まれていた。
あれだけの恨みを買い弁明の余地もなくマルカが眠らせられたのは少々もどかしいところではあるが、あの場はああする他収まりがつかなかったと割り切ろう。
「ガルグ、一つ聞いてもいいか?」
「なんだ」
「マルカを、パーティに入れるってのは」
「やだね」
言い切るより速く、ピシャリとはねのけられる。
「オレはな、ミハル。オレが気に食わん相手と旅をする気はない。
ミハルはオレが選んだ。ムーシャも、悪いやつじゃないと思ったからついてくるのを放っておいたし、今はそういうの抜きにして仲間だと思ってる。
だけどアイツはお断りだ。オレがイライラしながら旅をするんじゃ、意味がない」
「……まあ、そうだよな」
この答えは想定済みだ。
ガルグはこの暗黒の時代に、旅がしたいから旅をするという自由な心で世界に飛び出した冒険者だ。
しかも彼女の性格は短い間でもだいたいわかってきている。本能と分析をかけ合わせて、自身にとっての最善を感じ取るタイプだ。
マルカの存在は、ガルグにとって負の影響が強い。だからいらない。単純明快だ。
「で、オレに断られたとして、どうするつもりなんだ?」
「あ、私ひらめいちゃいましたよ! お婆さんに身分証をもう一個作ってもらう、そうでしょう!」
他にないと言うように、ばちこーんと渾身のウインクを飛ばすムーシャ。それも考えたが、実現性は薄い。
老婆自身の益がなにもない。手間のかかる身分証偽造を行い、しかも商品を失う。二重の損だ。
ギルゲンゲの依頼状が二度通用することを願って進めるのは、向こう見ずな話だ。
あれやこれやとあの場で考え、結局ミハルが思いついた方法は、一つだけだった。
「いや、正規の方法で身分証の再取得が出来るように手配をする」
「再取得、ねぇ……言うだけならなんでもかんたんな話だ」
「そもそもあれ、再取得って効くんですか?」
「方法がないわけじゃない。ただ、俺一人じゃ……というか、大体の場合、無理な方法だ」
身分証の再取得。
身分証紛失が発生した場合に行えることもある制度だ。
町村に住んでいる人間ならば町村長に頼めば行えると聞くが、冒険者となると厄介だ。
生まれた町村で再発行をするか、あるいは訪れたことのある町村にて冒険者組合での本人証明が必要になる。
とはいえ、そこは天下の悪法。生まれた町村にふらりと帰ってきた身分証を持たない者を受け入れることはまずないし、冒険者組合の本人証明も身分証以外で行えると聞いたことがない。
特に今のマルカは……言い方は悪いが、数日前までのマルカとあまりに容貌が違いすぎている。
下手に動けばヒトガタとして捕らえられ、またしてもヒトガタ市場に逆戻りだ。
だが、そんな状況を覆せる人間が、一人だけ居る。
そして、その人間が居る場所についても、ミハルはしっかり知っている。
心の整理もつかぬ現状、こんな理由からもう一度交流を図ることになるとは思わなかったが、他ならぬ彼女の仲間の危機だ、致し方ない。
ミハルは町中で買った便せん(驚くべき値段だった)に筆を走らせる。
宛名はもちろん、暁の勇者ユイだ。




