ミハルvsガルグ
木の幹から重力に従い大地へ降りれば、堅いはずの足場がもろく崩れ去る。
落とし穴だ。
理解すると同時に腕を振るい、大斧を穴の外の地面に突き刺して身体を支える。
風を切る音。再び敵が何かを放ったらしい。
斧を支点に軽やかに落とし穴から飛び出せば、穴に蓋をするように土砂が降ってきた。
生き埋め狙い……にしては量が少ない。ちらりと視線を動かせば網に捕らえられている子分達もまだウネウネ動いている。
どうやらあくまで無力化狙いらしい。ガルグを相手に大きく出たものだ。
落とし穴から脱出した先の地面が想定以上にぬかるんでいてあわや滑り倒れになる。
身体を支えるために重心を落としてきつく踏ん張れば、ずぶりと靴がぬかるみに埋まる。まるで沼だ。
動きが鈍ったガルグを取り囲むように茂みがいくつも揺れ、木立の影を何かが通り過ぎ、無数の足音が駆け巡る。
敵は一人だったはず。
ならばこれは撹乱か。
ぬかるみから足を抜こうとして、嫌な予感を覚え足元に視線を落とす。
予感通り、踏み出そうとした足の前には例の足を引っ掛ける草の罠が仕掛けられていた。
こちらの考えを見透かすような罠に笑いが溢れる。
踏みとどまった一歩の間、木の影、茂み、動きを感じた場所のいくつかから同時に何かが飛来する。
斧は置いたまま。ブーメランはそろそろ木々を切り倒しながら返ってくる頃だが間に合わない。
即座に短刀を抜いて迎撃する。暗がりから飛び出してきたものは、複数の袋だった。
切り裂いてから自分の失態を悟る。
袋からこぼれ出た粉末が風に乗る、これもまた相手の作戦のうちか。
ぬかるみにはまったままの靴を脱ぎ捨て斧の方へ跳躍する。
風切り音と共に駆け抜けた矢が粉末の舞う空間に突き刺さり、強い光が生まれた。
一瞬視界が白く染まる。同時に無数の音が鳴らされる。
木々を揺らし、茂みを踏み、鈴が転がり、石がぶつかり、それこそ意味不明の音が四方八方から湧き上がる。
耳に意識が集中した状態でこれをやられると、最早何が何だか分からない。
ガルグも山賊稼業が長い。魔物と戦い続けて生きてきた。
命のやり取りについて一家言あるとは思っていたし、ある程度の相手なら勝てるという自負もある。
だが、今回の相手はどんな魔物とも違う。
ただひたすらにこちらのやる気と判断力を削ぎ倒す戦い方だ。
どんな魔物もこんな戦い方をすることはない。
何だこれは。
何と戦っている。
白い光、無数の音、あちこちから感じる存在。感じるものが多すぎて一周回って無音の暗闇に突き落とされたようにすら感じる。
「は、は!」
自然、こぼれたのは笑みだった。
なんとか斧の柄付近への着地を成功させ、斧を持ち上げて振りかぶる。
「洒落臭えぇぇぇええええええ!!!」
どこともわからぬ敵に怒号を飛ばし、相手も見ずに斧を再びブン回す。
今度は篭めた気合が違う。斧の届く範囲を遥かに超えて、木々を、茂みを、仕掛けられていた罠の数々を切り飛ばす。
色を取り戻し始めた視界で、周囲のことごとくが倒れていく。
その中で、動く影があった。
ようやく見つけた。ガルグは口元が緩むのを抑えられなかった。




