再会
注がれた視線は、全てガルグに収束し、そのまま散った。
「顔が売れてんだ。オレは」
相容れなくてもギルゲンゲの娘。悪党たちはギルゲンゲ同様一目置いているらしい。
ガルグはさして気の引けた様子もなく、スイスイと町を歩き、奥へ奥へと入っていく。
リウミの所在も知っていたあたり、過去に訪れたことがあるのかもしれない。
ミハルとムーシャはそれを追い、一つの建物の前で立ち止まった。
「ここは……」
「ヒトガタの卸売場。ここの店主が身分証も取り扱ってる」
さしものガルグも少し緊張しているのか、面持ちが険しい。
扉を押すと、ぎしぎしと音がなった。人ならぬ者の笑い声のようだった。
建物の奥を目指すガルグの後を追いながら、こっそりとムーシャが耳打ちする。
「ミハルさん、ヒトガタってなんですか」
「……」
「ミハルさん?」
扉を開けたことで術式が弱まったらしく、中の存在が詳細に感じ取れた。
そこに、「ここにあってはならないはずの存在」が居ることも、ようやく感じ取ることが出来た。
「……探しものかい?」
いざなうように建物の奥から聞こえるのは老婆のしゃがれた声。
カンテラに火が灯る。照らしあげられた室内には、所狭しと檻が並べられている。
檻を背負うように立つ老婆が、部屋の真ん中、唯一のテーブルにカンテラを置いた。
ガルグがテーブルで対面するように腰掛け、ムーシャがきょろきょろと周囲を見回しながらその横に腰掛ける。
ミハルは、カンテラの火が届かない暗がりの向こう側を、ただ見つめていた。
「見た顔だねぇ……確か……そうだ、ギルゲンゲのとこのだね、あんた」
「ああ、久しぶりだな、婆さん」
「それで、今日は何を買いに来たんだい?
また、活きがいいのを何人か、仕入れに来たんかい?」
「いや、今日は身分証を作ってもらいに来たんだ」
「身分証……へぇ、へぇ、それは、また、珍しい」
「親父の紹介状もある。頼めるか?」
「そうさねぇ……ギルゲンゲには借りがある……まあ、一個くらいは、融通してやるかねぇ」
ガルグと老婆が話す間も、ミハルの視線はただ一点から離せずに居た。
火霊のゆらめきに合わせて、金色が揺れたように見えた。
「……兄さん、お目が高いねえ……そっちにゃあ、仕入れたばかりのが、一体居るんだ」
老婆がカンテラを動かす。火霊のもたらす明かりが暗がりの向こうを照らす。
照らしあげられたいくつかの檻、その中の一つに、居た。
太陽よりまばゆく輝いていた金髪はざんばらに切り払われ。
衣服の代わりに、布切れ同然のぼろを身に纏い
美しかった肢体は泥と垢で見るも無残に薄汚れ。
変わり果てた姿だが、察知で感じたその存在と照らし合わせれば、その正体が否定しようもなく理解できる。
「マルカ、なのか?」
ミハルの声に反応し、檻の中で横たわるヒトガタがずりずりと顔を持ち上げる。
汚れ、痩せこけ、燻る火種のように淡く輝く美貌。
暁の勇者団の一人、魔導師マルカに違いなかった。




