ムーシャとの夜
方針が決まり、その日はすぐに休むことにした。
明日からは魔獣を狩りながらリウミを目指す。気力と体力は多いに越したことはない。
ベッドが四つある大部屋で、それぞれ好き勝手に床につく。
本当は二部屋取る予定だったが、ガルグもムーシャも気にしないということで大部屋になったのだ。
ムーシャが鼻歌を歌いながら聖職着を脱ぎ始めた時は流石に焦ったが、そんな彼女も今はもう寝間着に包まれ夢の中だ。
「寝ないのか?」
装備を外さずベッドに腰掛けたままのミハルを見て、ガルグが問う。
「それが斥候兵だしな」
「町ン中だろ」
「それでも、なにかあるかもしれない。例えば、山賊が町の見物に来たりとか」
「言うじゃねえか、こいつ」
ガルグは薄く笑い、そして続ける。
「実はこのあたりは、割と安全なんだ。
ウチの縄張りってことで目立ってヤンチャするバカはそうそう居ないし、昼が来たせいで魔物や魔獣も動きが鈍い。
そもそも、お前自分で言ってただろ。寝ててもある程度の距離まで探知してるって」
「それはまぁ、そうだけど……」
「だったら寝るほうが優先だ。
どうせ明日からは嫌でも眠る時間が減る。だから今日はゆっくり休んどけ」
結局押し切られ、ミハルも一緒に寝ることになった。
身を横たえたのは山賊のアジト以来だが、町のベッドはこんなに寝心地が良いのかと驚いたあたりですぐに眠りに落ちてしまった。
寝具、恐るべしである。
……
……
……
夜半。
ごそごそと何かが動く感覚でぼんやりと意識が覚醒する。
練技で知覚して目覚めるのとは感覚が違う。本当に、ただ起きただけだ。
何事だろうかと頭を整理していると、ごそごそがもぞもぞとベッドの中に潜り込んできた。
闇にじわじわと目が慣れてくる。まず分かったのは飴色だった。
やんわりと手が掴まれる。武器を握ったことのなさそうな、ふにふにとした、肉付きの良い手だ。
そこで、ああ、ムーシャかと理解して、なぜムーシャがミハルの布団にと疑問に思う。
疑問の答えが浮かぶよりも先にミハルの体を襲うものがあった。
手の違和感だ。
ムーシャに掴まれた手が、生暖かく濡れた何かに包まれている。
生暖かい何かは寝息に合わせるように収縮し、粘膜質な何かがミハルの手を濡らす。
これは、まさか「あれ」か。
あまりの衝撃に眠気が吹き飛び跳ね起きる。
ミハルが体を起こす勢いでシーツがはね飛ぶ。手は依然暖かさの中だ。
恐る恐る目を開く。そこにはいまだ幸せそうなムーシャの寝顔があった。
ゆっくりと暖かさに包まれた手の先へと視線を動かす。
視線の先にあったのは。
「……は?」
跳ね起きたミハルにつられて持ち上がったであろうムーシャの体と。
ミハルの手をぱっくりと咥え込んだ、ムーシャの下の口……否、人間には存在するはずのない、腹部の裂け目だった。




