ムーシャ!!
まるで人の形をした竜巻だった。
頼んだ料理は瞬く間に少女の口の中に消えていった。
猛烈な勢いであったが、食べた量が常識的だったのは、彼女の見せたせめてもの遠慮だったのかもしれない。
少女は宣言通り、どんな料理もとても美味しそうに食べきった。
「優しい旅のお方、感謝申し上げます。
あなた方のおかげで、私は命を繋ぎ止められました」
ふっくらした愛嬌のある顔に人懐っこい笑顔を浮かべて、少女―――ムーシャ・モーシャは感謝の言葉を述べた。
口の周りが少々汚れたままなのを除けば、胸の前で手を組む姿はなかなか堂に入っていた。
「にしても、なんでオレらに絡んだんだ?」
「お二人は私と同じ冒険者の方とお見受けしましたので」
「そんなナリで冒険者してんのか、もちもち」
「はい。こんななりしてもちもちも冒険者です。
なんですっけ、確か……くれりっく?とか、まなくらふたー?とか、そういうやつでしたよ!
あと、もちもちの名前はムーシャですので、よろしくお願いしますね!」
ムーシャの姿を確認する。服装は聖職者のものによく似ており、武器であろう杖は魔導師のものによく似ている。
本人の喋りに引っかかる部分はあるが、町人にしては装備が整っている。冒険者という談にはちょっとばかしだが信頼が持てる。
「はー、ごちそうさまでした。
それでは、ご恩返しのお話をしても?」
「いや、いいよ。困った時はお互い様だ」
「いえいえ! それでは私の気が済みません!」
ミハルが断るのを制し、ふんふんと鼻を鳴らすほどの勢いで宣言するムーシャ。
ご恩返しと言われても、一食の金に困る者から何かがもらえるとは期待していない。
「いいじゃねえか。もらえるモンはもらっときゃあよ」
露店であれこれ食べたにも関わらずここでもしっかり食事を済ませたガルグは、食後のお茶を啜りながらそう言った。
その一言が命取りだった。
言質を得たと言わんばかりに、小さな(しかしまるっこい)身体を乗り出して、ムーシャが喜色満面こう口にする。
「では、これからよろしくおねがいします!」
「は?」
「お金がなければ働いて返すのが世の常と、私の面倒を見てくれていた神父様が教えてくれました……
そう、今の私にお出しできるのは労働力! ということで、お二人の旅にお供させてください!
ご恩返しが終わるまでお給金などもいりません! ただ、美味しいご飯を食べさせていただければ、それだけで喜んで働きますよ、私!!」
「……」
ガルグが絶句している。まさかこう来るとは思わなかったという顔だ。
そりゃあそうだ。ここまで厚かましく下手に出られる人間はそう居ない。
「まぁ任せてくださいよ! 荷物を持つのとか得意ですので!」
ニコニコと、毒気のない笑顔で言う。
ガルグと再び視線を交わす。今度は視線だけでやりとりが終わらないため、肩を組み、身を屈め、ムーシャに聞こえないくらいの声量で話し合う。
「どうする」
「どうもこうも……そもそもこいつはなんなんだ?」
「敵意は感じないから、心底本気で言ってんだろうけどな」
「オレも悪い感じはしねぇけど……あー、どうすっかな」
「次の町まででも一緒に行ってみたらどうですか? それで判断してみればいいかと」
「……」
「……」
身を屈め、頭を寄せて、ムーシャも話し合いに参加してきた。
ムーシャを見つめると、ムーシャは「お願いします!」というように手を合わせて目を閉じた。
ため息一つ。
ガルグのものだ。
たぶん、今のミハルと同じような気持ちだろう。
図々しいが嫌味はなく、だから嫌いになれないのが、この少女の不思議なところだった。
ひとまず騒々しいぽっちゃり娘を迎え入れ、その日は宿に泊まることとなった。




